あなたもその程度の女なのね

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あなたもその程度の女なのね

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「サイテー」

 三谷正義はその言葉を聞き慣れている。

 なぜなら、彼は最低だから。
 
 正義という名前でありながら、複数人と付き合うというなんとも残念な人なのだけれど、本人は男しかいない飲み会ではよくこのことを鉄板ネタとして話す。

 三谷正義は最多で6人の彼女と同時に付き合っていたし、その間にセフレは少なくとも10人はいた。
 
 だから今日もまた彼は付き合っている相手に「サイテー」と言わせてしまった。
 
 一番最近の彼女である鈴木美海。彼女はまだ付き合いはじめてから一ヶ月と3日しか経っていないのに、三谷正義の不貞に気がついたのだ。大したものだ。

「他にも彼女が3人もいるってどういうことよ」

 なるほど。鈴木は全てに気がついたわけではないらしい。

「ごめんって。他の子は本気じゃないんだ。連絡先消すから許してくれよ」

 三谷正義は、本当は落ち着いているくせに少し焦った演技をして言った。

「は?そんなんじゃ許さないよ。別れる」

「本当に反省してるんだ!付き合ってる人がいてもいいからって泣きながらお願いしてきたんだ。それで断れなくてさ」

 三谷正義はぺらぺらと嘘をつく。ただの嘘ではない。鈴木の発言を誘導しているのだ。

「はあ。じゃあせめて女の連絡先全部消してよ。全部ブロックして」

 ほらね。

 三谷正義はありがとうと言って、スマホを女にも見えるようにテーブルに置いて、2分ほど操作する。

「女の子の連絡先全部消したよ」

 鈴木はスマホをクイッと何度かスワイプして、本当に女の連絡先をすべて消したのかを確認する。

「LINEの連絡先も全部消して」
 三谷正義の手にスマホが返される。今度は鈴木にも見えるように、女の子をすべてブロックしたあとに削除のボタンをタップするのをくりかえした。

「許すのは今回だけだからね。わたしだって正義と別れたくないんだから」

 鈴木は泣きそうな顔をしながら、震えた声で言った。

「うん。俺もだよ。ごめんね」

 きっと三谷正義は本当にごめんねと思っている。

 ごめんね、とは思っていてもやめる気はない。だって彼はデュアルシムのスマホをつかっているんだから。

 今使っているのとは別のLINEアカウントがあるから、それを使って他の女と連絡を取る。

 三谷正義が消した女の連絡先に付き合っている女の名前はない。

 ひとつのアカウントにつき一人の彼女と決めているのだ。消した連絡先の中にセフレのものはあったけれど、それだけのことだった。三谷正義のスマホは3台あって、それぞれがデュアルシムになっている。6つのLINEアカウントを使い分けているのだ。そんなこと、鈴木がわかるはずもないことだが。

 二人はファミレスを出て駅に向かう。ファミレスの代金は当然のように三谷正義が払っていた。

 鈴木を駅の改札で見送ると、その足で自宅とは違う方向に歩き出した。駅から10分でいける神崎恵の家にむかうようだ。

 神崎はいまではもっとも付き合いの長い彼女だ。駅まで彼女をおくったあとにはほとんど神崎の家に行っている。いちばん付き合いが長いということは、一番鈍い女ということだ。神崎は三谷正義の不貞に気が付いていないのだ。なんと滑稽なことだろう。

 神崎のアパートにつく1分前くらいに三谷正義はLINEで連絡する。さっきまでとは違うスマホで。

 いつ見てもぼろぼろのアパートの206号室の扉が開いて、中から神崎がでてくる。神崎は二階にあがった三谷正義に手を振って「まーくん!」と声にすると、三谷正義もそれに手を振り返す。さっきまで修羅場だったのにこれほどの満面の笑みを平気で作ることができる。それこそが三谷正義の魅力だ。

 部屋では映画を見ているようだ。いつものような恋愛映画。三谷正義は映画は好きじゃないし、とくに恋愛映画なんてなにが面白いんだと言っていた。そういうのぜんぜんわかっていないんだろうなあ。

 私は、206号室の扉から耳を離した。


 誰も三谷正義のことをわかっていない。
 かわいそうに。

 三谷正義の彼女たちは、だれひとりとして彼を三谷正義とは呼ばない。

 きっと彼のことを理解していない人たちは彼をまちがった呼び方をしてしまうのだ。「まーくん」だなんて、そんな記号で彼を呼ぶなんて失礼だ。彼の理解者が現れてくれたらいつでも三谷正義と呼ぶことを認めるのになあ。
 
 階段をおりて、106号室へと帰る。

 私は机の前に座ると、今日の三谷正義の行動を日記に書いた。ギシ、ギシ、と天井が軋む音を聞きながら。
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