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Episode1 愛のこもったプレゼントでお近づき大作戦!
1-11 それぞれの理由
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リザミィはサイドパックに入れていたビスケットをボンボに渡した。ライジャーは干し肉を渡していた。二人から分けてもらった食料を食べ終わったボンボは、申し訳なさそうな笑みを零した。
ボンボの顔色はさっきよりマシになっている。
「ありがとう二人とも。助かったよ……」
ボンボはお腹が減り過ぎると動けなくなるらしい。だからいつも食べてばかりいたのか。リザミィは納得した。
地面に胡坐をかいたライジャーは、ボンボを見て大きなため息をついた。
「オマエよぉ、オレらと同じ前衛部隊だったんだろ? 戦闘中もいっつもこんな感じだったのかよ」
「いや……その、ボクは」
リザミィは岩壁にもたれかかりながら腕を組んだ。ベイディオロが言っていた言葉を思い出していた。
「そう言えば、前衛は前衛でも、ボンボは確か第一部隊だったわよね? あそこって、オークやゴーレムの実力者揃いって聞いたことがあるわ。訓練もかなりハードだって」
「へぇ。スゲェな」
ライジャーは感心の声を上げた。ところがボンボは俯いてしまった。なんだか巨体が小さく見える。
「ボ、ボクは……その、ほとんど戦いに出たことがないんだ」
「どうして?」
リザミィが問うと、ボンボは恥ずかしそうに目を固く閉じた。
「えっと……戦力にならないから。それと……戦いたく、ない、から」
最後の方の声はとても尻すぼみだった。
魔王軍にいながら戦いたくないとは、珍しい。
ライジャーが訝しげにボンボへ視線を送る。
「もしかしてオマエ、自分から魔王軍に志願してねぇんじゃねーか?」
「……うん」
そしてボンボは言い難そうに小声で呟いた。
「ボクの父さんと母さんは、魔王軍でかなりの実力者なんだ。ボクは親の推薦で魔王軍に入隊した。二人の子どもだったら見込みがある! って軍の人たちも最初は歓迎してくれたんだけど」
「けど?」
リザミィは先を促す。ボンボは太い指先をもじもじさせている。
「でも、ボクはいくら鍛えてもトロいし、すぐ腹ペコで動けなくなるしで、全く使い物にならなくて……。元々戦いが好きじゃなかったのもあったし、そのうちみんなボクのことを見て見ぬふりをするようになっていったんだ。だけど両親の圧力もあってか、上の人たちはボクを辞めさせられなかったみたいで。最近はずっと空気みたいに過ごしてたよ」
「ハッ、そんなことだろうと思ったぜ」
ライジャーは何様のつもりなのか。明らかに上から目線で嘲笑している。それが落ち込んでいる相手に取る態度だろうか。
「変だと思ったんだ。こんなやつが本当に前衛部隊なのかってな。親のコネで入隊したんなら、まぁ納得だな」
「でもよかったじゃない」
リザミィは萎れているボンボに向かって笑いかけた。リザミィの言葉が予想外だったのか、ボンボは目を丸くしている。
「今はこうしてKEMOに配属になったわけだし。過去のことはさっさと忘れちゃいましょ」
呆れたようにため息をついたライジャーのことは無視する。
過去のことは過去のこと。今は戦闘とは無縁……とまではいかないけれど、心機一転でスタートするチャンスだ。
リザミィは両手を腰にあてて胸を張ってみせた。
「ボンボも私たちと一緒に、新たな一歩を踏み出すのよ!」
するとボンボは瞳を潤ませてはにかんだ。
「……ボク、前の部隊では友達がいなかったから、こうしてリザミィさんやライジャーくんと友達になれて嬉しいんだ」
「と、友達……」
リザミィはじん、と胸に温かいものが染みるのを感じた。
仲間に続いて、友達。ボンボは簡単に恥ずかしい言葉を言ってのける。リザミィは照れ隠しにこめかみを掻いた。
「私……部隊で誰かに友達だなんて呼ばれることがなかったから、どう反応していいのか困っちゃうわ」
ライジャーが鼻で笑った。
「そうだろうな。オマエ友達いなさそうだもんな」
「あんたも絶対友達いなかったでしょッ!? カノジョは何百人といたとしても!」
「うるせぇな!? 流石に何百人はねぇわ! それに友達とかいなくたってな、生きていくにはなんの問題もねぇーんだよッ!」
ほら、やっぱりいなかったんじゃん。
「あ、あの」
ボンボが控えめに手を上げた。まるで先生に授業の質問をするみたいだ。
「ライジャーくんは……なんで魔王軍に入隊したの?」
ボンボからの突然の問いにライジャーは一瞬目を見張る。そして口の端を上げると、彼は腕を組んで偉そうに答えた。
「そんなの一つしかねぇだろ。金を稼げるからだ」
ボンボが納得したように頷く。
「確かに、魔王軍のお給料いいもんね」
「でもそれって、結局はギャンブルと女遊びをするためなんでしょ」
リザミィが呆れたように言うと、ライジャーは眉間に深い皺を寄せた。
「稼いだ金の使い方は別になんでもいいだろうが。こっちの自由だろ」
「そりゃそうですとも」
リザミィは大袈裟に肩を竦める。
すぐさまライジャーが、こちらを馬鹿にするような笑みを浮かべた。
「オマエはどうせ、魔王と結婚するために入隊したんだろ」
「当然でしょ」
当たり前のことを言わないで欲しい。リザミィは唇をへの字に曲げた。
ボンボがおずおずとした様子でリザミィの顔を伺う。
「リザミィさんは、どうして魔王様と結婚したいの?」
「愛しているから」
即答すると、勘弁してくれ、とでも言いたげにライジャーが手でシッシと何かを払いのける素振りを見せた。
「そんなもん、ボンボだって知ってんだろ。なんでそこまで好きなのかが、疑問なんじゃねぇの?」
私が魔王様を好きな理由!? リザミィは思わず飛び上がってしまう。
「え、なになに。なによぉ! 二人ともそんなに私の魔王様への愛が知りたいの? 恋バナに付き合ってくれるってこと?」
そんなこと今まで誰にも話したことはない。そもそも聞かれもしなかったし。
長年温めに温めた恋バナが、ついに花開く時が来たようだ!
リザミィが興奮で前のめりになると、ライジャーとボンボは少し後ろに引いた。
「……オレ、ちょっとトイレ行ってこようかな」
「せっかくなんだから聞きなさいよ! 恋バナ六時間コースよ!? 超大作なんだから!」
リザミィは立ち上がろうとするライジャーの尻尾を掴んで引き留める。
こんなチャンス二度とないかもしれない。逃がしはしないわ。
そんなリザミィの様子にボンボが苦笑いを浮かべた。
「う、うーん。超大作な恋バナは、また今度でいいかな。それよりも、魔王様の好きなところとか、短めに聞きたいかも」
「なんだぁ? ボンボオマエ、そんなもん聞いてどうすんだよ。まさか、この女の好みに近付きたいのか?」
ケラケラと笑い出すライジャーの横で、リザミィは胸に手を当てて真剣な眼差しをボンボに向けた。
「ごめんなさいボンボ。気持ちは嬉しいけれど、私、心に決めた方がいるの……」
モテるのも辛いわね。
「──ち、違うよっ! 勝手に話を進めないでよ! リザミィさんも悪ノリしないでよ!」
ライジャーみたいに勢いよくツッコむボンボが、ちょっと面白かった。ボンボは頬を掻いた。
「ボクも、魔王様は凄い方だと思ってるし心から尊敬してるけど、でも多分これは、リザミィさんとは違う感情だと思うから……。リザミィさんはどうして魔王様が好きなのかなって」
「変だもんな。頭おかしいもんな」
「そこまでは、思ってないけど」
そこまで、ということは、多少は変だと思っているということなのか。敢えて言及しないことにする。
「そうねぇ……」
リザミィはサイドパックにつけた魔王キーホルダーに触れた。そして魔王城にいる魔王へ、想いを馳せた。
ボンボの顔色はさっきよりマシになっている。
「ありがとう二人とも。助かったよ……」
ボンボはお腹が減り過ぎると動けなくなるらしい。だからいつも食べてばかりいたのか。リザミィは納得した。
地面に胡坐をかいたライジャーは、ボンボを見て大きなため息をついた。
「オマエよぉ、オレらと同じ前衛部隊だったんだろ? 戦闘中もいっつもこんな感じだったのかよ」
「いや……その、ボクは」
リザミィは岩壁にもたれかかりながら腕を組んだ。ベイディオロが言っていた言葉を思い出していた。
「そう言えば、前衛は前衛でも、ボンボは確か第一部隊だったわよね? あそこって、オークやゴーレムの実力者揃いって聞いたことがあるわ。訓練もかなりハードだって」
「へぇ。スゲェな」
ライジャーは感心の声を上げた。ところがボンボは俯いてしまった。なんだか巨体が小さく見える。
「ボ、ボクは……その、ほとんど戦いに出たことがないんだ」
「どうして?」
リザミィが問うと、ボンボは恥ずかしそうに目を固く閉じた。
「えっと……戦力にならないから。それと……戦いたく、ない、から」
最後の方の声はとても尻すぼみだった。
魔王軍にいながら戦いたくないとは、珍しい。
ライジャーが訝しげにボンボへ視線を送る。
「もしかしてオマエ、自分から魔王軍に志願してねぇんじゃねーか?」
「……うん」
そしてボンボは言い難そうに小声で呟いた。
「ボクの父さんと母さんは、魔王軍でかなりの実力者なんだ。ボクは親の推薦で魔王軍に入隊した。二人の子どもだったら見込みがある! って軍の人たちも最初は歓迎してくれたんだけど」
「けど?」
リザミィは先を促す。ボンボは太い指先をもじもじさせている。
「でも、ボクはいくら鍛えてもトロいし、すぐ腹ペコで動けなくなるしで、全く使い物にならなくて……。元々戦いが好きじゃなかったのもあったし、そのうちみんなボクのことを見て見ぬふりをするようになっていったんだ。だけど両親の圧力もあってか、上の人たちはボクを辞めさせられなかったみたいで。最近はずっと空気みたいに過ごしてたよ」
「ハッ、そんなことだろうと思ったぜ」
ライジャーは何様のつもりなのか。明らかに上から目線で嘲笑している。それが落ち込んでいる相手に取る態度だろうか。
「変だと思ったんだ。こんなやつが本当に前衛部隊なのかってな。親のコネで入隊したんなら、まぁ納得だな」
「でもよかったじゃない」
リザミィは萎れているボンボに向かって笑いかけた。リザミィの言葉が予想外だったのか、ボンボは目を丸くしている。
「今はこうしてKEMOに配属になったわけだし。過去のことはさっさと忘れちゃいましょ」
呆れたようにため息をついたライジャーのことは無視する。
過去のことは過去のこと。今は戦闘とは無縁……とまではいかないけれど、心機一転でスタートするチャンスだ。
リザミィは両手を腰にあてて胸を張ってみせた。
「ボンボも私たちと一緒に、新たな一歩を踏み出すのよ!」
するとボンボは瞳を潤ませてはにかんだ。
「……ボク、前の部隊では友達がいなかったから、こうしてリザミィさんやライジャーくんと友達になれて嬉しいんだ」
「と、友達……」
リザミィはじん、と胸に温かいものが染みるのを感じた。
仲間に続いて、友達。ボンボは簡単に恥ずかしい言葉を言ってのける。リザミィは照れ隠しにこめかみを掻いた。
「私……部隊で誰かに友達だなんて呼ばれることがなかったから、どう反応していいのか困っちゃうわ」
ライジャーが鼻で笑った。
「そうだろうな。オマエ友達いなさそうだもんな」
「あんたも絶対友達いなかったでしょッ!? カノジョは何百人といたとしても!」
「うるせぇな!? 流石に何百人はねぇわ! それに友達とかいなくたってな、生きていくにはなんの問題もねぇーんだよッ!」
ほら、やっぱりいなかったんじゃん。
「あ、あの」
ボンボが控えめに手を上げた。まるで先生に授業の質問をするみたいだ。
「ライジャーくんは……なんで魔王軍に入隊したの?」
ボンボからの突然の問いにライジャーは一瞬目を見張る。そして口の端を上げると、彼は腕を組んで偉そうに答えた。
「そんなの一つしかねぇだろ。金を稼げるからだ」
ボンボが納得したように頷く。
「確かに、魔王軍のお給料いいもんね」
「でもそれって、結局はギャンブルと女遊びをするためなんでしょ」
リザミィが呆れたように言うと、ライジャーは眉間に深い皺を寄せた。
「稼いだ金の使い方は別になんでもいいだろうが。こっちの自由だろ」
「そりゃそうですとも」
リザミィは大袈裟に肩を竦める。
すぐさまライジャーが、こちらを馬鹿にするような笑みを浮かべた。
「オマエはどうせ、魔王と結婚するために入隊したんだろ」
「当然でしょ」
当たり前のことを言わないで欲しい。リザミィは唇をへの字に曲げた。
ボンボがおずおずとした様子でリザミィの顔を伺う。
「リザミィさんは、どうして魔王様と結婚したいの?」
「愛しているから」
即答すると、勘弁してくれ、とでも言いたげにライジャーが手でシッシと何かを払いのける素振りを見せた。
「そんなもん、ボンボだって知ってんだろ。なんでそこまで好きなのかが、疑問なんじゃねぇの?」
私が魔王様を好きな理由!? リザミィは思わず飛び上がってしまう。
「え、なになに。なによぉ! 二人ともそんなに私の魔王様への愛が知りたいの? 恋バナに付き合ってくれるってこと?」
そんなこと今まで誰にも話したことはない。そもそも聞かれもしなかったし。
長年温めに温めた恋バナが、ついに花開く時が来たようだ!
リザミィが興奮で前のめりになると、ライジャーとボンボは少し後ろに引いた。
「……オレ、ちょっとトイレ行ってこようかな」
「せっかくなんだから聞きなさいよ! 恋バナ六時間コースよ!? 超大作なんだから!」
リザミィは立ち上がろうとするライジャーの尻尾を掴んで引き留める。
こんなチャンス二度とないかもしれない。逃がしはしないわ。
そんなリザミィの様子にボンボが苦笑いを浮かべた。
「う、うーん。超大作な恋バナは、また今度でいいかな。それよりも、魔王様の好きなところとか、短めに聞きたいかも」
「なんだぁ? ボンボオマエ、そんなもん聞いてどうすんだよ。まさか、この女の好みに近付きたいのか?」
ケラケラと笑い出すライジャーの横で、リザミィは胸に手を当てて真剣な眼差しをボンボに向けた。
「ごめんなさいボンボ。気持ちは嬉しいけれど、私、心に決めた方がいるの……」
モテるのも辛いわね。
「──ち、違うよっ! 勝手に話を進めないでよ! リザミィさんも悪ノリしないでよ!」
ライジャーみたいに勢いよくツッコむボンボが、ちょっと面白かった。ボンボは頬を掻いた。
「ボクも、魔王様は凄い方だと思ってるし心から尊敬してるけど、でも多分これは、リザミィさんとは違う感情だと思うから……。リザミィさんはどうして魔王様が好きなのかなって」
「変だもんな。頭おかしいもんな」
「そこまでは、思ってないけど」
そこまで、ということは、多少は変だと思っているということなのか。敢えて言及しないことにする。
「そうねぇ……」
リザミィはサイドパックにつけた魔王キーホルダーに触れた。そして魔王城にいる魔王へ、想いを馳せた。
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