上 下
59 / 97
3章 コスで反逆

59話 乗っ取る人達

しおりを挟む
「はぁ~吹雪いてるよ~」


冬に入り、今年は早めに吹雪いてしまって、もうダメかもと思っています、夕食の鍋に水と少ない草を入れて茹でながら、ワタシはため息をつきました、最後なんだからもっとお腹の膨れる物が食べたいと思います。
でもそれは叶わないんです、今日が終われば明日はお引越し、弟たちにはそう言ってありますけど。


「アタシたち、追い出されるのよねぇ~」


こんな吹雪の中外に出たら、アタシたち直ぐに死んじゃう、明日でワタシの人生が終わる、食べ物も何も持たず行くあてのない旅です。
ほとんど味も具もないスープが暖炉で温まり、お皿に移してテーブルに置くと、涙が出てきました、悲しいのか苦しいのか分からない、でもあふれてくるんです。


「泣いてたってお腹は膨れないし、誰も助けてくれないのにね」


自分に言い聞かせ涙を拭いて、寝ている弟たちを呼びました、みんな朝から畑仕事をしてて疲れてるわ、明日追い出されるのに最後まで使われたの。
しばらく待ってたけど、ビーンもニームが来ません、いつも呼べば来るのにどうしたのかな?そう思って隣の部屋に向かいます、そこには二人を抱いて何かを飲ませてる髪の長い女性が座っていました、桃色の髪と服を着てる綺麗な人です。


「だ、誰ですか!?」

「勝手に上がり込んでごめんね、僕はここの新しい村長になる予定の梅の7って言います、早めに着いたからご挨拶に来たんだけど、窓からこの子達が見えてさ」


窓から見えた弟たちの心配をしてくれたと話てくれました、まどは確かに壊れてるから入れるけど、それでも窓から入ってくるなんて驚きです。
弟たちを見ると、とても良い表情で寝てます、今まであんな顔をして寝ている時なんてありませんでした、お腹を空かせ強引に寝ていたんです。


「君もちょっと体調が悪そうだね、これを飲むと良いよ」


彼女の手の先に収納のスキルで作る丸い輪が出来ました、そこから銀のスプーンが出てきたん、でもその後に方がびっくりです、彼女の指先から金色の液体が出てきてスプーンに注がれました、弟たちも飲んだと言いますが逆に心配になりましたよ。
体調が良くなると女性は言います、弟たちも表情は良いんです、でも怖いですよね。


「これは生命ロイヤルエキスと言う薬なんだ、毒じゃないから安心してよ」


女性はペロッと少しだけ舐めて見せます、ワタシはスプーンを受け取り、液体を飲んだんです。
甘くて美味しかった、気づいたら体の疲れは取れ、肌もツヤツヤになりました、まるで魔法です。


「あ、あなたは魔法使いですか?」

「魔法なんて使ってないよ、これは僕の元気を分けたんだ」


元気って何?っと思いました、でもその説明はされず村の事を聞かれたの、冬が本格化して作物はほとんど取れず、みんな家に篭っています、ワタシたちのように食べ物がなくて困ってる子供たちが沢山いるんです。
それを聞いたバイノナナさんは、ふたりを寝かせると立ち上がり部屋を出て行きました、ふたりが心配だったけど、それよりもバイノナナさんが気になり追い掛けました、何処に行くのかは決まってたけど、聞かずにはいられません。


「バイノナナさん、今は吹雪いてますよ、何処に行くんですか」

「もちろんその子たちを助けるんだ、君やあの子たちと同じなら、この寒さは危険だよ」


村の中でも危険です、家がガタガタと揺れるくらい雪が強く降ってるんです、風で家が飛んじゃうんじゃないかって強い時もある、家の中にいてもすごく寒いです。
それなのに外に出るなんて、そう思っていたけど、ワタシの家にも歩いて来たと言い返されてしまいました、そう言えば?っと不思議です。


「不思議そうだね、出来れば急ぎたいんだ、君に村人の説得を任せられないかな?えっと」

「ワタシはメーナです」

「メーナちゃんね、出来れば案内もお願いできるかな?もちろん報酬も払うよ」


バイノナナさんの笑顔はとても綺麗で見とれてしまうほどです、だからという訳じゃないけど案内を約束したの、時間を掛けなければ村のみんなも助かります。
そう決めて扉を開け、ワタシは一瞬で凍えました、とても寒くて出れません、ワタシの服は薄い布で出来たボロボロの服だもん仕方ないよ。


「ご、ごめんなさい、やっぱりワタシ」

「その服じゃ仕方ないね、これを着ると良いよ、靴もこれに履き替えて」


バイノナナさんと同じピンクの服を受け取りました、すごく良い布で首元がフワフワの毛が付いてます、靴はブーツで丈夫そうです。
こんな上等な物受け取れないっと言ったんだけど、案内してもらわないと困ると言われ仕方なく着替えました、凄く暖かい服でした。


「と言うか、寒さを感じない?」

「そうだよメーナちゃん、この服はあらゆる状態異常を防ぐんだ、だから外に出ても風に飛ばされることは無い、僕がここに来れたのもそれで分かったでしょ」


笑顔で解説されたけど、そんなすごい服聞いたことありません、きっとバイノナナさんは名のある冒険者かお貴族様です、そうでなかったらこんな服持ってるわけないです。
外に出ると、ほんとに風を受けません・・・っと言うか、風の方が避けてる様に見えます、バイノナナさんが言った通りだと案内を始めたんです。


「さあこれを飲んで、元気になるよ」

「え!?・・・でも」


一番近かった家に入り、2歳年下のワイードにバイノナナさんが銀のスプーンを差し出しました、ワイードはワタシを見たので説明をしたの、最初ワタシも躊躇ったって、だから平気だよっと説得します。
ワイードは頷いて飲んだけど、ワタシがいなかったら絶対飲まなかったわね、ワタシもしかして不用心過ぎたかしら?


「弟たちの顔色を見たんだもん、決して不用心だったわけじゃ」


言い訳をブツブツと次の家に向かいました、村長の家以外は3時間で行く事が出来ました、家に戻るとどうしてかバイノナナさんが料理を始めました、また収納から食材を出してです。
バイノナナさんが作った夜食は美味しかったです、でもほんと良く分からない人だと思いました、そして聞いてしまいましたよ。


「ほんとにバイノナナさんは村長なんですか?魔法使いじゃないんですか?」

「魔法使いじゃないよ、それに明日からここの村長なんだ」


明日村を出るように言われたけど、村長からはそんな話聞いてません。
ため息交じりに、ワタシたちはどうなるのか聞いてみました、きっとバイノナナさんが来るから追い出されるんだと思ったからです、でもバイノナナさんはここで暮らして良いと言ってくれました。


「ほ、ほんとですか!?」

「嘘はつかないよ、働いてくれる人がいないんじゃ逆に困るからね、どうしてそんな事になってるのか不思議だね」


嘘みたいな話です、明日は寒い中村を出ないといけないと思っていたのに、このまま残って良いと言われたんです、それだけでとても救われました、でもそれだけじゃないんです。
バイノナナさんは農作業で使う服もくれました、他にも布団や履物と沢山です。


「ど、どうして!?」

「僕の村になるんだ、村人もそれなりのならないとね」


もう寒くて凍える事はないと言ってくれました、それに空腹で苦しい思いもしない、ほんとなのかと疑問はありました、でも夕食は作ってくれたし、今の村長よりは良いかもしれない。
次の日になり、ワタシの横で寝ていたバイノナナはいなくなっていました、最初「夢だったの?」とか思ったけど、村長の所にいる兵士が外で叫び、屋敷の玄関に集まるように言っていました、もしかしてっとワタシは弟を起こして走ります。


「皆の者良く聞くのだ、これよりキャックル村の村長は、こちらのバイノナナ・ブリアリズ様に変わる、粗相のないようにな」


怒っている村長が宣言しています、ワタシたちはバイノナナさんの指針を聞いたけど、村での暮らしが凄く楽になる事ばかりです、どうしてそんな事が可能なのかと疑問です。
元村長が横で笑っているので、もしかしたら出来ないのかもです、その態度に気付いたバイノナナさんが元村長に「そんなにおかしいですか?」っと聞いちゃいましたよ。


「それはそうですよバイノナナ様、こいつらにそれほどの価値はないのです、仕事ができなければ切り捨てれば良い、どうせ増えるのですからな」


本音を漏らした村長にワタシは怒りがこみ上げました、みんなも同じ表情をしているんです、元の村長がそんな風に見ていたなんて分かっていました、だけど言葉にされてショックですよ。
税金も食料も絞れるだけ絞り尽したから、そもそも無くなっていると言ってます、バイノナナさんは本音が聞けて嬉しそうですよ。


「ほほう、余裕ですなバイノナナ様、なにか秘策でも?」

「余裕と言うか、あなたほんとに僕が村長だと思ったんですか?そんな訳ないでしょ、書類なんて綺麗な紙を使って適当に描いただけですよ」

「「「「「な、なにいぃぃーー!!」」」」」


ワタシまで声をあげてしまうほど、ここにいる全員が叫びました、バイノナナさんが書類を破り捨てましたよ。
それを見て村長は焦ってさっきの言葉は嘘だと言います、でもワタシたち村人はこの人をもう信じられない、今更何を言われてもです、バイノナナさんはそれを見て笑います。


「さて皆さん、僕は国からも領主からも村長に任命されたわけじゃありません、でも村長になりに来たのはほんとです、僕について来てくれませんか?」

「「「「「え!?」」」」」


またまたみんなで驚きの声を上げてしまいました、バイノナナさんは昨日、村長になる予定と言っていました、これがきっと作戦だったんです、村長になれば先ほど言った方針を勧めると誓ってくれます。
ワタシたちは迷います、正式に決まっていない人に村長をやらせていいのかと、みんな疑問を隠せません。


「皆さんの不安も分かります、ですが村長の悪事を知り僕が先導して立ち上がった事にすれば問題ありません、どうですか?」


バイノナナさんの笑顔を見て元村長はまずいと、ワタシたちに説得の言葉をぶつけてきます、今後は食料を出来るだけ与えるとか税金も減らすと言ってきました、でもその言葉はバイノナナさんの方針よりも信用できません。
バイノナナさんは昨日みんなを救ってくれた、食料を収納から出し生活も保障される、玄関先に食料を沢山出されて説得されたんです、それを見てみんなが唾を飲みました。


「難しい選択ですよね、だから最初は仮でも良いですよ、今皆さんは苦しんでいます、それが緩和されない限り税は取りません、皆さんは今疲弊しています、それを救う事がまず第一だと僕は思う、昨日の薬も服もそれを感じたから行いました、だから僕を選んでみてくれませんか?」


ワタシたちはそれに賛同しました、村長を村から追い出しバイノナナさんが村長になりました、本当は直ぐに追い出すべきと村人たちが叫んだんです、でもバイノナナさんが止めました、領主様に村長が変わった事を伝えてもらう為です。
村長たちが出ていった後、ワタシの貰った変わった服とブーツを皆に配りました、もちろん食料もです、ワタシはそれだけでバイノナナさんが村長になって良かったと思ったんです、だってみんなの笑顔なんて初めて見ましたよ。
その後、バイノナナさんの指示で村は変わっていきました、家は補強され温泉という上流階級しか入らないお風呂も村に作ったんです、ご飯も沢山食べれて今までが嘘みたいでした。
しおりを挟む

処理中です...