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1章 開店

17杯目 戦いの報告

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新たに召喚したエルダートレントの【ミキ】とラフレシアの【ローズ】が俺の前で跪いて来るが、報告の一週間前から二人を見て、変じゃないかと見ていたんだ。


「なぁオーロラ、ミキの容姿はほんとに標準か?」
「妖精化と言うモノですわマスター」
「主様の力が強かったのですよ」


名付けをして、より強い個体に進化したようで、エルダートレントのミキは木のお化けではなく袴を着た人型で、どちらかと言うとドライアドの様な美少女に見える。
性別としては両性らしく、最初に姿を見た時確かにその証は見えたが、どう見ても美少女だ。


「まぁ強くなったのならそれで良いとして、ラフレシアは女性だぞ」


アラクネの様に、上半身が人型で下半身が薔薇の花になっている彼女は、これまた美人で眼福という感想だ。
そのふたりの部下は、勿論オーロラたちのように下位のモンスターを部下にしてて、袴少年の容姿のトレントとローズを小さくした様なハイエビルプラントがふたりの後ろに控えていた。


「容姿が少女だから、余計な倒され方をしそうで心配だが、強いんだよな?」
「そうですわよ、簡単にはやられませんわ」
「それならいいか・・・それでは、報告を聞こうか」
「は~い、ボクからあるじぃに伝えま~す」


ミキからの報告が先と言う事は、相手は不意を突いて集落を襲ったのがわかり、俺としてはちょっと困った。
最初に聞いたのは、集落の正面に向かうシカ族の特攻で、誇りやルールはどうしたとツッコんだよ。


「あいつら、止まる事無く集落に入って行ったんだよあるじぃ」
「そうか、しっかり追い払ったのかミキ?」
「うん、あいつらを倒すのは、ミケミちゃんたちのお仕事だからね」


今回の事は、本来シカ族たちは襲撃して家を壊し、あわよくば食料を奪うつもりでいたはずなんだ。
そして、次の試合で疲弊したミケミたちに勝とうとした。


「直ぐに撤退して行ったけど、ボクあいつら嫌~い」
「ここに来るようになったら、ちょっと待遇を考えた方がよろしいですわね」
「オーロラの言う通り、ちょっと考えないとな」


とは言え、俺が出来る待遇なんて好みを聞かない程度だが、それで良いとみんなが即答して来た。
それは簡単ではあるし、もし来店してきたらそうしようと決め、重要な事をミキに聞く事にした。


「それでミキ、シカ族たちの強さはどうだった?」
「そこなんだけどさ、ミケミちゃんたちなら余裕だよ~」
「そうか、それは何よりだ」


そこがどうしても知りたくて、相手がして来た事をやり返そうと思っていた。
しかし、ミケミたちは正々堂々がモットーだから、体調管理くらいしか出来ないんだ。


「いつかミケミたちよりも強い奴らは出て来るかも知れないが、そうならない何かも考えないとな」
「それでしたら、経験値の高いモンスターをダンジョンに設置してはどうですか?」
「オーロラ、やっぱり君は天才だな」


ラーメンが作れる最高の環境と思っていたが、ここは本来そう言う場所だった。
室井も言っていたが、ダンジョンの本来の姿に、それが普通とみんなからの視線が痛い。


「そうすると、広場にモンスターを配置だな」
「今はポイントもありますし、試合が終わってからですわね」
「では、ワタ~シの報告に入りま~す」


モンスターの選定をしようとしたが、ローズの報告が始まってしまい、選定は後になった。
ローズの報告も気になっていたから良いのだが、ローズの方はいたって簡単だ。
しかし、とても興味はあるので、みんなで囲んでいたテーブルに身を乗り出し、ミケミたちの戦闘(試合)報告に集中だ。


「相手~は、空を飛ぶフクロ~ウ族で~」
「おお~空からの攻撃とかして来たのか?」
「そうだったんで~す」


で~もっとローズは前置きをして、ミケミたちの俊敏な動きにはついて行けず、飛び付かれてフクロウ族たちは避ける事が出来ず掴まり、倒されたそうだ。
さくらが教えてくれたが、ニワトリで俊敏な相手に対する対策がばっちりだったそうだ。


「ですの~で、あの程度な~ら、余裕だったわけで~す」
「不安になるほどではないですよ主様」
「そ、そうだったのか、良かったよ」


ダンジョンが役に立ってよかったと、この後の祝勝会の準備をする事にした。
勿論、シカ族との戦いもあるので、襲撃の件は言わずに応援したんだ。


「あたいたちが負けるわけないよメンヤ殿」
「油断はダメだぞミケミ、戦いは正々堂々だけじゃない」
「そんなのは他の種族だけさ、あたいたちは誇り高き獣人だからな」


そうだなっと、ミケミたちの気持ちを考えて返事はしたが、逆に心配になって来た。
これは外のメンバーには良く言っておかないといけない、そう思って祝勝会は盛り上がった。


「さてみんな、次は問題のシカ族なんだが、あいつらの事だからきっと何かをして来る」
「平気ですわよマスター」
「既にボクが調べてるんだよあるじぃ」


オーロラが笑顔で俺の不安を取り除いてくれて、ミキが相手の作戦を教えてくれた。
それを阻止するのではなく、逆に利用してやると美少年の笑顔が強烈だった。


「穴を掘って落とし穴を作ってるとか、ほんとにダメな奴らだが、それをどうやって利用するんだ?」
「簡単ですよあるじぃ、目印を変えちゃうんです」
「しかしだ、ミケミたちが落ちる可能性が残ってるぞ」
「主様、そこは安心してください」


さくらがローズを見て親指を立てたけど、どうやら落とし穴にローズの部下たちが待機してるそうだ。
ミケミたちが落ちそうになったその時は、落ちない様にするそうなんだぞ。


「それは良かった」
「は~い・・・でも、シカ族たちには地獄をみせるわ」
「そ、そうか」


伸ばさずに喋ったローズは、ものすごく怖い表情をしてて、シカ族たちが反省する事を願った。
3日後のその戦いは、ミケミたちの圧勝だった訳だが、やっぱり試合でない戦いは心配で仕方ない。


「何が起きるか分からないのが戦いで、それは室井の時よりも可能性が高い」


祝勝会で楽しそうに笑うみんなを見て、俺はそれが無い様にすることが第一と思った。
その為に俺が出来る事は、みんなを配置する事で、ミキとローズの部下を増やしたんだ。


「あるじぃは心配性だね」
「そうで~すね」
「俺は知ってるからな」


すごい者でも、ちょっとの不幸で命を落とす事がある、だから不幸が起きてもはねのける力を作るんだ。
ミケミたちも強くなってもらう為、広場にゴールドラットを設置したんだ。


「マスターもやりますわね」
「まったくですよ、ネコ科にネズミとか、もう飛び付かないわけないです」
「さくらが言ったんだろう、経験値の高いモンスターがラットだっただけだよ」


俺でも知ってる経験値の高いスライムとかはいなくて、画面にいたのがそいつらだったんだ。
1体1万の経験値が入るモンスターだから、ミケミたちは直ぐに強くなる。


「1000体設置したから、これでいけるだろう」
「マスター」
「やり過ぎですよあるじぃ」


100万P使ったが、ふたりが言う程やり過ぎではない、ミケミたちがダンジョンにずっといてくれるので、毎日60万は余裕で入っている。
外出する事もあるが、それ位当然だろうとふたりに言ったんだ。


「ちょっと嫉妬してしまいますわ」
「そうですね~」
「二人も同じくらい大切だし心配だぞ」


ダンジョンから出れない俺は、みんながいるから生きていられる、だから俺の出来る事でみんなを助けるんだ。
それが俺なりの恩返しで、みんなは同じくらい大切だと、想うだけでなく言葉でも伝えたんだ。
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