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2章 1年1学期前半

38話 ダンジョンテスト

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「それでは皆さん、ダンジョンの玉を出しステータスを提示してください」


僕がここに来て2ヶ月が経ち、今学園では中間テストが始まろうとしています。
生徒たちはダンジョンの状態を見せる為、ダンジョンステータスを机に出しているんです。


「念じれば見せる事が出来るって、これは最初に教える事じないかな?」


そしてバルサハル先生が助手と一緒に見て回り、難易度の点数を見て採点をしてくれているんです。


「1階層の広さは300m四方で部屋数は5ですか、ふむふむ」


今見ている女性生徒のダンジョンは、1階だけでモンスターの数は40と読み上げられ、通路の広さは3mと狭くて部屋も少なく5個しかありません。
他の生徒も画面を見て、そのダンジョンがどうなのかとヒソヒソ話し始め、ここで優秀なダンジョンが基準を作っていくと理解したんだ。


「でも、あの部屋は小部屋だから、あれじゃあまり良いモンスターは出現しないよ、それに分岐も少ない」


バルサハル先生は、1階層を広くしてなかなか良いと言っていますが、僕の学園ダンジョンの4分の1くらいしかありません。


「あれではダメでしょ」


僕なりの評価を出した後、バルサハル先生は生徒に告げないままでその場を離れ他の生徒の前に向かいます。


「ダンジョン難易度は6だから、きっと低いんだろうね」


助手さんが書いている紙の内容は見れないけど、きっと採点は低いと次の生徒の評価を聞きます。
そんな中、採点の終わった生徒は少しホッとしていて、僕はそれが気になってしまいました。


「もしかして、ダンジョンの難易度6って、あれでも標準なのかな?・・・これはまずいね」


ダンジョンの難易度は、モンスターの強さや分岐とかを増やして複雑だと点数が高いです。
僕は3階層までを作っていて、モンスターは変えてませんが100匹は配置していて分岐も多く、部屋も20個作っている。


「難易度が24だから、あの生徒の4倍の数値」


これはまずいと冷や汗が流れてきます。
ダリアの基準で、10レベルの冒険者4人PTが4時間でクリア出来る難易度で作ったのが失敗でした。


「そろそろ冒険者用を作りたかったからそのままだったけど、まずいね」


孤児院のムクロスに頼み、ニンジャ部隊を作って調査依頼している最中で、他を優先したのが失敗でした。


「でもなぁ~ムクロスは学園の変な奴らも捕まえたし、孤児院の子達はかなり上達したよねぇ~」
「さすがはジャケン君ですね、難易度28ですか」


孤児院も安定して来て僕が安心していたら、遠くで先生の声が聞こえてきました。
僕は直ぐに見たけど、ドヤ顔をしたジャケン君がいましたよ。


「良かった、僕と同じくらいの人がいたよ」


そんな注目のダンジョンを見たけど、1階層だけで難易度が28あって、僕よりも高くてホッとしました。


「28は確かにすごいんだけど、まだまだ作り方が・・・あれをしちゃうと、2階層目が大変なんだけど、いいのかな?」


僕はあれを知っていて、2階層を作る時なかなか難易度が上がらなくなるんだ。
1階層目の部屋数を増やし、分岐を最小限にして作っているのが原因です。


「まぁあれは狭いダンジョンには有効なんだよね」


部屋のおかげで難易度は上がるけど、2階層目を同じように作ると難易度が下がるんだ。
これは2階層目が評価されず、ダンジョンが下に広くなっただけとなってしまうからで、2階層は1階層よりも難しくしないといけないんですよ。


「まぁ後でポイントさえあれば直せるし、テストの時に点数を稼げれば良いんだろうけどね」


まだまだだねっと、自分が見られる順番を待ちますが、今度は一際大きな歓声が上がったんです。
その方向はあの子がいて、やっぱり凄いのかもと嫌々ながらも振り向きました。


「難易度30!さすがケリーさんですね」


ケリーと言う子を僕は知っています。
なんと言ってもその子は、僕を木剣で攻撃した子達のトップですからね。


「言うだけでなく、手まで出してきた子たちだからね」


一緒にいた子たちも嬉しそうで、先生に誉められて髪を触りながら、その子はちょっと得意げだね。


「僕を攻撃してきた子達は20前後か、なかなかやるね」


あくまでこの子たちの基準で褒めますが、僕のダンジョンが目立ってしまいそうで、どうしようと言っと考えが浮上します。
ムクロスにそこら辺を調べて貰うべきだったと、手遅れな案ばかりが頭をよぎりました。


「まぁジャケン君よりは複雑に作ってるみたいだけど、その分モンスターにポイントが使えなかったのかな?」


僕を攻撃して来た子たちも含め、1番を取ったケリーさんは、分岐を多く使い道を長くしていました。
通路ばかりで単調かなとは思いますが、部屋を作れば済む話で、ジャケン君よりは有効に使えます。


「さて、最後にあなたです。見せて貰いますよ」


ケリーさん達の評価をしていると、バルサハル先生が僕の前に立ち睨んで来ます。
そして僕の返事を聞く前にステータスを覗き、間違いでは無いのかと眼鏡を拭き始めたんだ。
他の子達は、どうしたのかと集まって来てしまったよ。


「先生どうしました?その平民上がりに何か」
「難易度24・・・うそよ!?どうしてこんなに高いのですか!」


先生が声を掛けた生徒を遮り、後ろに下がってしまい、本当にとうしたのかとあの子達まで集まって来ました。
僕はいよいよまずいと、黙って見てましたよ。


「なんだよ先生、24じゃないですか、それくらい」
「おかしいわっ!おかしいのよっ!!3階層も作っているのに、各階の部屋数が20を越えてる。それに中部屋がその中に5つもあるなんて信じられない!!この1ヶ月・・・いえ、2ヶ月でどれだけポイントを集めたというのですか」


またまた生徒を遮りダンジョンを否定して来ます。
何度も見直し、どうしても信じられないようで、ダンジョンの構造まで良く見始めました。


「あそこの分岐がああで、あそこも通してる?」


分岐の先の通路は曲がり角で先が見えないようにしているとか、1本道でも直線にしていないとか、本来先生が教えてそうな言葉が飛び交い始めたんだ。
でもね、僕のダンジョンにも欠点を作ってるんだ、それに気づかないで騒いでるよ。


「5万、いえ10万は必要なはず、本当にどうやって」


バルサハル先生が最後まで分からず、僕を睨んで答える様に怒鳴ります。
僕は当然冒険者に頑張ってもらったと、ニコニコして応え、それ以外ない事を表情だけで伝えます。


「冒険者ですか」
「はい、それ以外ないでしょ?」


部屋数を増やして評価を上げたり、中に入っている人が迷わない作りにしたりと、出来る事はまだまだあります。
休憩が出来る様にしても良いですし、なにより問題なのは、誰も中ボスやボスが設置出来る特殊部屋り使ってないんだ。


「先生、そいつのダンジョン、そんなにすげぇのかよ」
「そうですわ、ただ単にポイントを使っただけでしょ、わたくしたちの方が難易度は上ですわよ」


あのお2人が先生に抗議し始めたけど、先生は頭を左右に振って否定します。
先の事を知ってる先生だからこそ分かる事で、みんなは親に聞いてないのかと疑問に思ったね。


「あなたたちが知らないのも無理ありませんが、彼は先を見ているのです。2階層と3階層を作ると、どうしても難易度は下がってしまうものなのです」


先生がそう説明してしまい、2人が驚き僕を睨んできた、数値が低くても僕の方が上だと理解したからだね。
僕はまずいと思ったけど、もう遅いかもしれません。ジャケン君が僕を指差して先生に聞いてしまったんだよ。


「じゃあなにか?先生は俺よりも、こいつの方が優秀だとでも言うのか?」


先生は無言で答えません。
でもケリーさんも答えを求めていて、他の生徒は静かに待ってる。


「沈黙は答えだよ先生~」


嫌な予感がしてる僕と同じで、沈黙は肯定とみなしたのか、ジャケン君とケリーさんが同時に言ってきたんだ。


「お前!勝負しろ!」「あなた!勝負ですわ!」


僕は、嫌だよおおぉぉ~!!っと叫びたかったけど、2人に指差されてどうしようもなく黙っていました。
その時、直ぐにでも声を上げて否定でもすればよかった。冒険者を雇って良い成績を取れるのは最初だけとか言い訳すればよかったんだ。


「良いでしょう!お二人の気持ちは分かりました、ではこうしましょう。1週間後に大講堂でダンジョンバトルを行うことにしましょう」


ダンジョンバトルを開催すると宣言され、僕は嘘でしょ!?っと驚き嫌がったよ。
ダンジョンバトルとは、本来学期末の最後に行う行事で、期末試験優秀者のダンジョンをお披露目するための物で、同じく成績上位の騎士や魔法士が挑むのを観戦する。とても目立つ行為だから、正直僕はやりたくないですよ。


「ダンジョンに入る生徒は私が人選しておきます、明日には名簿を配りますから、良く読んでおくように、では解散」


先生の号令でみんなが散らばっていきますが、僕がずっと見られたのは言うまでもないよね。
ジャケン君とケリーさんなんて睨んで来て怖かったよ。


「まあ、取り巻きの子たちが手を出して来ないだけまだいいかな?」


取り巻きの子も睨むだけだったけど、シャンティが孤児院に行ってて良かった。
きっと睨み返してしまって、攻撃してきた子たちとにらみ合いが始まっていたかもしれません。


「そんな事になったら、賄賂を配ってた意味がなくなっちゃう所だったよ」


すごく大事になってしまい、平均を目指している僕にとって失敗でしかないと反省です。
最初のテストだから仕方ないけど、次は絶対調整するからね。
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