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3章 1年1学期後半

71話 魔導具制作

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「ここをこうしてっと」


どうもアレシャスです。楽しい夏休み計画だったはずなのに、僕は今魔導具づくりに没頭してます。
資材屋に魔法屋、それとモンスター素材屋に赴き、素材と魔石を見に行ったりとある事を考えない様にしているんですよ。


「こっちは、こうかな?」


それと言うのも、シャンティとティアとの仲がお友達以上恋人未満になったからだけど、今はそれから逃げているところなんです。
ふたりは、ダリアたちの様に僕にべったりくっ付いて来るから、ちょっとトラウマになっています。


「ああ違った、こっちのをこうして」


それを忘れる為にも綿飴製造機を制作中で、火炎芋虫の殻に丁度良い穴が開いていたのは幸いでした。


「これを暖めながら湾曲させて取り付けてっと」


シャンティたちがくっ付くようになってから4日が過ぎてもうすぐ完成です。
その後で行ったリゾートダンジョンでの楽しいバカンスの事は・・・聞かないでください。
楽しむどころじゃなくて大変だったんです。水着姿のみんなは迫力が凄かったんですよ。


「まぁ仕事モードに直ぐに切り替えてくれるからいいんだけどねっと、よし!完成だ」


組立が終わり、早速動力になる魔力を魔力板に注いで行きます。
鋼鉄マダラグモの糸を伝導体にし、熱が火炎芋虫の殻に伝わっていき、台座にした回転ムカデの殻が回り始めた。


「よしよし、芋虫の穴から綿飴がちゃんと出てるね」


高速トンボの羽で作ったカバーに集まって来たのを棒ですくい、丸くなってきて出来上がりです。


「魔石の魔力を使って永続的に動かしたいんだけど、そこは教えてくれなかったから今後の研究課題だね」


エレメントたちと同じことなのに、どうしても動力の件は上手く行かない。
上手く行くのは綿飴をすくい取る事だけで、棒の綿が大きくなるのを楽しく見ています。
魔力ではなく魔石を使えるようになれば、この製品化も夢じゃないけど、それはなかなか難しいかもっと悩みどころです。


「ってそこまでは考えなくていいか、孤児院の資金になればいいんだからねっと」


割りばし代わりの棒に綿飴が集まり早速味見です。
手でちぎり口にポイッと入れると、何とも言えぬ甘味が口に広がって行きます。


「うんうん美味しいね、これならサイラスたちとバカンスをするときには出せるよ。評価を聞いたら屋台を出すか決めなくちゃね」


出来上がったのは嬉しいんだけど、ひと段落してあれを思い出し、僕はまたため息を付いて悩んでしまいます。


「結婚活動は、貴族の女性がいつ来るかによって対応しないといけない、もしかしたら1日中とかなんだ。それに耐えるとか、相当辛いと思う」


良いのだろうかと思ってしまい、次の魔導具の制作に移りそっちで悩みだしました。
形は既にできていて、コンロの形が完成しています。素材には火に強いモンスター素材を使い組み立て、魔力を注いで火の魔法を使ってみました。


「ダメだ、どうしても魔力を使い過ぎちゃう。僕が使うぶんにはいいんだけど、普通の人じゃ魔力切れになって倒れちゃうなぁ~」


コンロの火を出したり止めたりと、作動テストは上々ですけど、持続させようとするとどうしても魔力を多く使ってしまいます。
持続には1の魔力を1分毎に掛かっていて、それを何とかしないといけません。まずは魔法陣の見直しと考えコンロの解体を始めます。


「基本の魔法陣じゃダメなんだろうけど、もっと効率良くするには・・・う~ん、どう変えれば良いのか全然分かんない、ほかの魔導具を分解して比較しないとダメかな」


そう思って時計を見ると、今は夜中の2時でお店は空いてない時間で、僕はしょんぼりしてどうしようか考えたんだ。
魔法陣を眺めたり、魔道具の方を見て魔力の流れる場所を確認して見たりもした、でもやっぱり分からないと独り言が出てしまいます。


「基本の魔法陣は流すだけだってのは分かるんだよ。だから高威力を出そうとすると、それだけ魔力を送らないといけない」


僕はそこで1つの道が見えたんだ。綿飴の時はそれほど高温でないから、暖める魔法陣で消費も少なくて使えた。
僕は魔法陣を書き始め火を使うからダメなんだと独り言を呟きます。僕はそこであれを作れないかやってみたんだ。


「火魔法の魔法陣を電魔法に変えて、魔法はサンダーかな」


火魔法の熱だけを発生させる【ヒート】という魔法は、下級の中で一番最初に覚える魔法で、それは指先に集めると小さな火を発生させることが出来、最大火力は手のひらで大きな炎を出すほどになります。
魔法陣に刻む魔法文字自体も簡単で、詠唱も3文字で使えて魔法陣に組み込みやすい。


「魔法陣は出来たけど、伝導体に使った糸が溶けちゃうよ。きっと素材が電気に弱いんだ、なにか他の糸を」


熱には強いのにっと、アイテム欄を見て何か代わりの物を探します。
そこに良い物があったと取り出したんだ。取り出したのはクラゲと言うモンスター素材で、ニュリュニュリュしていて電気を良く通しそうです。


「サンダークラゲの足!これだね」


水系のモンスターで電気を纏ってタックルして来るこのモンスターは、電気を良く通すのは自分の身体で体験してる。
クラゲの足を魔法陣に繋げ電気を流してみます、すると見事に熱を帯びないで通ってくれましたよ。


「うんうん、これなら行けるかもももも!?」


余裕過ぎて油断していた僕は、魔法の通っている足に直接触ってしまい感電しました。魔力がなくなるまで手が離れずずっと痺れていたんですよ。
そしてやっと収まり失敗だとガッカリです。僕でなかったら、今の電気で死んでいたかもとヘコみます。


「ひどい目にあった、しっぱいしっぱい・・・電気が流れてるんだから触ったら感電するよね。これを電磁場にする事が出来ればIHの完成だけど、そうするとまた魔法陣を考えないとだよ」


っと言うことで、魔法陣ではなくコイル作りのスタートです。
鉄芯に銅線代わりのサンダークラゲの足を巻きつけたんですが、僕はそこで問題にぶち当たります。


「サンダークラゲの足が太すぎる、これじゃ必要な磁場が発生しないよ」


コイルは細くした銅線が必要で、モンスターの素材じゃ無理なのかと、銅線の製作を考えた。
でも、それはこの世界では不可能で、僕がポイントを使い以外ない事だったから悩んでしまったね。


「コレじゃあまり威力が出ない・・・でも、銅をあんな細くする技術ここにある訳ない、他の物で代用しないといけないけど」


細くて柔らかい物で、更に電気に強い物をアイテム欄から探し、ある物が目に止まりました。


「ミスリルの糸、これってたしかミスリルスパイダーの糸だよね」


ダンジョンで戦った銀色の蜘蛛が出してくる糸だから細いので使えなくはありませんが、銅線と違うので電気が通るか分かりません。
試しにやってみようと、クルクル巻き付け始め銅を糸にするモンスターはいないのかと、愚痴を口にしてしまったよ。


「イサベラがクモ系のモンスターを使ってたけど、そんなモンスターはいなかったなぁ・・・まぁ兎に角やってみようかな」


高級なミスリルの糸を使ってるから製品にもならない、それも踏まえて使いたくはないんだ。でも僕が使うならばと実験開始です。
そして何と成功してしまい、喜んでいいのか悩んで唸ってしまいます。製品化は程遠いとガッカリですよ。


「まぁ成功したんだから・・・いいかな」


これができたということは、モーターとかも作れる道理で、それはこの世界の新しい動力の完成です。
エレメンタルたちを使えば、戦闘にも使えるかもと想像が膨らむけど、やっぱり製品化が出来ず、本来の目的は未達成でガッカリです。


「凄いことをしちゃった気もするけど、とりあえずフライパンも作らないとかな」


フライパンの底もIH用に改良してもらう必要があり、明日にでも鍛冶屋に注文します。これでIH用フライパンは完成ですが、明日はそれ以外にもお仕事があるんだ。
昼にサイラスたちを引率して、バカンスダンジョンに招待する。それはほんとに楽しい時間が始まるはずなんだよ。


「IHはもう少し改良が必要だけど・・・さて、問題の魔力はどうかな【ステータスオープン】」


ステータスを見るとMPが20減っていて、さっきと比べると10の節約が出来たんだ。前よりは良いんだけど、普通の人が使うにはまだちょっと高いんです。
それに問題もあって、IHの場合は火力を上げると持続力が低下して、更なる魔力消費を引き起こしてしまう。


「結局火力を上げると同じくらい使うみたいだね・・・やっぱり魔法がそれだけ魔力が必要なんだよね」


僕はどうしたものかとがっかりで、せっかくIHまで作ったのに結局魔力消費は下げれなかったんだ。目標の製品化には10分の1くらいにする必要がり。そこまで出来れば完成だけど、どうしても難しいと頭を抱えてしまいます。


「そもそも魔法を持続するように出来てないのがいけないんだ。一番消費の少ないヒートだって、極少量だけど少しずつ魔力を消費してる。魔力をあらかじめ溜める場所を作るか、消費を抑える魔法を作るかだね」


ヒートの魔法を使い指先に火を出しながらMPの消費を確認してみると、10分で1MP使っています。
魔法陣が分かればっと、僕はそこが一番の解決策と思っていた。何とか魔法陣を見れないのかと考えます。


「それがあれば苦労しないんだよね」


後ろに倒れ込みもうダメかもと諦め始めたんだ。時間を見るともう朝の4時で、朝日がもう直ぐ昇ります。
僕はスタミナがあるので、10日は寝ないでも平気なんですけど、心の方が折れそうだよ。


「やっぱり基本の魔法陣だけじゃダメだ、どこかに魔導具がないかなぁ」


目をつぶって無いものねだりをしていると、【カチカチ】となる時計の音が気になりました。そして時計を眺めて気付いた、時計も魔導具だって事にね。
僕は壁に掛けてあった時計に掛け寄り、取り外して掲げます。


「どうして気づかなかったんだよ僕は、これを分解すればきっと先に進める」


時計は規則的に時間を刻んでいて、それを持続させる魔法陣があるはずだと、分解し中の魔法陣をジッと見ました。それは僕の知らない色々な用途があって、そうかと思わされる線や円が刻まれていたんだ。


「なるほど、魔力増幅に流量調整、歯車を動かしてるのは土魔法だったんだね」


土魔法には、土人形を動かす【ディグモート】というモノがあり、その魔法に魔力を一定に流し、狂うことなく時間を刻むという仕組みです。
時計を見たのはたまたまだったけど、規則的に動かすのにこれ以上の物は無く、発見も多かった。僕は最適な魔道具を手にしていたんです。


「魔力の増幅は、増やすんじゃなく細くしていた、それを調節して使うんだね。確かにそうすれば時間は刻めて長く使える」


時計に使われている魔石は、単3電池くらいの小魔石を1つで魔力にしたら40位です。それだけの小さい魔力で動いてるって凄いと、今更ながら感動しています。
僕は凄いと感動して時間が経つのを忘れていました。そしてシャンティが起きてきて、僕が寝ないで時計を分解されているのを見て、何をしてるんですかってため息をつかれたんです。
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