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4章 1年3学期
121話 お兄様に会いたくて
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「ここが、アタシの産まれた村」
アタシことスージィは、ある理由でこの産まれ故郷の村を目標に、一人で旅をしてきました。
「そして、ここがお兄様の産まれた家」
懐かしさも感じない村を歩き、アタシは目的の場所に着きました。
村はそれほど大きくなかったし、丘の上にある家と聞いてたから直ぐに分かったんです。
「でも、教えて貰えるかな」
この家がアタシの産まれた家という訳ではなく、腹違いのお兄様の実家で、アタシの元の家は、既に通り過ぎていて、そこが目的地じゃありません。
この家には、今もお兄様の母親がいて、アタシはお兄様の居場所を聞きに来ました。
「でも、聞かないと始まらない」
ドアの前で、ノックをする体勢のままで、アタシは動かず止まってしまいます。
アタシの父は、この家の女性を裏切って、アタシの母さんの家に来ていました、そしてアタシが生まれると、家を出て行き、アタシと母さんまで見捨てました。
だから、きっと恨まれてるんです。
「やっぱり怖い・・・でも、アタシは会って見たい」
ここで恨まれ、殺されても教えて欲しい、そう思う程にアタシはお兄様に会いたいんです。
アタシの育った村を救い、影の英雄と呼ばれてるお兄様に会いたい。だから覚悟を決めてノックしました。
「は~い」
「うっ!?優しそうな声」
家の中から、とても穏やかそうな声が聞こえ、アタシはかなり緊張が高まったわ。
こんなに優しそうな声の人が、アタシを見てなんて思うのか、とても怖くなったんです。
「あら、どなたかしら?」
「こ、こんにちは」
一言しか言えなかったアタシは、下を向きその先には進めませんでした。
そんなアタシを見て、家の中に招いてくれたんです。とてもやさしく、それでいて綺麗な人で、あたしは怒りが沸き上がって来ました。
「こんな人がいるのに、他の女性に手を出すなんて・・・お父さんはひどい人なのね」
お茶を用意してもらってる間、アタシは観察をして再確認しました。
アタシたちを捨てたあの男は、やっぱりそう言った奴で、ひと目見たいと思っていた気持ちは吹き飛びました。
「さて、ここにどういった用事かしら?」
「あの・・・その」
「そう、言いにくい事なのね」
「すみません・・・でも言います。アタシはスージィと言って、ここにいた男性と他の女性の間に生まれた子供です」
アタシは敢えて隠さずにそのまま伝えます。こうすれば相手は直ぐに理解して、それに怒りを表せば怒られて終わるからです。
それでもお兄様の居場所だけは聞きたい、アタシがここに来た理由はそれだと伝えます。
「そう、あなたはアレシャスに会いたいのね」
「はい、会ってお礼を言いたいんです」
「分かったわ・・・でも、ワタシの知ってる場所は訓練施設だから、きっともういないわよ」
「それでも良いです。その先はまた探します」
女性は怒りもしないで、笑顔でアタシに教えてくれました。
アタシの旅は、まだまだ続くのが確定したのだけど、どうしてそんなに嬉しそうなのか気になって仕方なかった、だから聞いたんです。
「どうして教えてくれるんですか?それも、そんなに嬉しそうに」
「そうね、変よね・・・ワタシは嬉しいのよ、あなたは家族を想って動いている。それは、ワタシがあの子の母親として出来なかった事なのよ」
母親として、何もしてあげられなかったと、凄く後悔している事を教えてくれました。
とても悲しそうな顔で、今までの笑顔との差が凄かったです。
「一緒に行きませんか?」
「それはダメよ、この国の規則に反してしまうわ。それにね・・・あの子に手紙を送っても、向こうからは手紙も届かないから、きっと恨んでるんだわ」
「そんな!?」
母親として何もしてないのだから当然っと、涙が零れたのが見えました。
そこまで思っていても何も出来ない、この人は今までずっとそれを抱えて生きて来たんだと、アタシは凄いと感じましたよ。
「同時に、あの男はダメすぎ、もうお父さんなんて呼ばない!」
こんな女性の残し、あの男はアタシの母さんと浮気をして、更には姿をくらませた。
あの男も探してもいたアタシは、母さん以外にも女を作っていた事が分かったの。
お兄様の様な、優秀なダンジョンヒューマンを生ませようとしたのよ。ほんとに最低!!テーブルを叩いて怒ってしまいました。
「行きましょうマイナさん、ここにいてはダメです」
「でも規則が」
「そんなのはどうとでもなります!会わないでも近くにいれば、それだけでお兄様も気持ちが軽くなりますよ」
マイナさんは、そうかしら?っと不思議そうです。
でも、アタシはそう思うし、お兄様だって絶対そうです。
「家族は一緒にいるのが良いです」
「あなた・・・もしかしてご両親を?」
「はい・・・母さんは、アイツがいなくなったショックで」
何もかもあいつが悪い、そう思わない日はありません。
だから、アタシはお兄様に会いたいんです。
「たいへんだったのねスージィ」
「いえ、アタシよりも、マイナさんの方が」
マイナさんは、椅子から立ち上がり、アタシを抱きしめてくれた。
母さんの様に暖かくて、とても安心できた、だからお兄様にも必要だと、確信しましたよ。
「じゃあ行きましょう」
「分かったわ、支度をしたら明日にでも出ましょう」
マイナさんの説得が終わり、夕飯の支度を始めたアタシたちですけど、そこで家の扉をノックする人が現れたんです。
アタシは、なんだかイヤな予感がして怖くなったけど、マイナさんは扉を開けます。
「あ、あなた!?」
「よう久しぶりだなマイナ」
あの男が突然現れ、家の中にドカドカと入って来たんです。
アタシを見ても知らん顔で、さっきまで座ってた椅子にドカッと腰を下ろしたわ。
「な、何しに来たのよ!」
「誰だお前、ここは俺の家だ、何しに来たもないんだよ」
「い、今までいなくなってたくせに、あなたのせいで母さんは」
そこまで言っても、男は興味がないみたいで、持っていた酒瓶を口にします。
容姿もひどい物で、こんなの人の血が半分も流れていると思うと、アタシは嫌になりました。
出て行けと言いたいけど、怖くて声にならなかったアタシを、マイナさんは抱きしめてくれました。そしてあの男に言ってくれたんです。
「勘違いしないでケビン、ここはもうあなたの家じゃないわよ。出て行ってくれるかしら」
「何だとマイナ、誰のおかげでこんな良い生活が出来てると」
「ワタシは良い生活なんてしてないわよ。食事も最低限だし、ワタシの愛した子供はここにはいない、これのどこが良い生活なのよ」
早く出て行って!マイナさんの心からの叫びに、男もさすがに立ち上がり帰ろうとします。
でも、ドアノブを掴んで扉を開けたと思ったら、途中で止まって振り向き、酒瓶を振り上げて来たわ。
「思い出したぞ!そのガキ、他の女と作ったガキだ。マイナ、お前が裏で手を回してたんだな」
訳の分からない事を言い始め、酒瓶は振り下ろされます。
マイナさんに当たったら怪我をする、それが分かって、アタシはマイナさんの身体をぎゅっとしたんです。
「ぐわっ!!」
マイナさんの叫び声が聞こえると思っていたアタシは、アイツの声がして、あれ?っと思いました。
目を開けて、アイツのいた場所に向けると、メイド服を着た人が立っていて、アイツは家の端に倒れ込んでいました。
「扉が開いているから何事かと思えば、女性に手を挙げる重罪の現場に出くわすとは、夢にも思いませんでしたよ」
「ぐ、ぐぅ~・・・な、何しやがる」
倒れたままで、アイツはメイドさんを睨みますが、メイドさんはため息を付いて、アタシたちの方に振り返り笑顔を見せてくれます。
「たいへんでしたね、もう大丈夫ですよ」
「あ、あの、あなたは」
「わたくしはダリアと申します。アレシャス様の専属メイドになる為に、国のお仕事を辞めたメイドですわ」
ニッコリと宣言されて、アタシとマイナさんはビックリを通り越し、ぼ~っとしてしまいます。
そこにアイツが起き上がり、酒瓶を振り上げて来たんですが、ダリアさんがスカートの下に隠していた、数本のナイフを投げ、アイツは壁に縫い付けられたんです。
「す、すごい!?」
「これくらい当たり前ですよお嬢様・・・それで、あなた様がアレシャス様のお母様ですね」
マイナさんに跪いたダリアさんは、ほんとに綺麗で見惚れてしまいました。
誰かに敬意を見せると言うのは、こうあるべきと伝わって来たんです。
「ああ、頭を上げてください!ワタシはそんな事をされる立場では」
「いえ、これはわたくしの決意の証なのです。あなたの息子様であるアレシャス様には、とても助けられ感謝しているんです」
「それならワタシではなく、息子のアレシャスに」
「それは当然です。ですがお母様にも尽くすのは当然ですわ」
ダリアさんのお話を聞いている間に、いつの間にか、アイツは他のメイドさんにより拘束されていました。
他にもメイドさんがいたの?とも思いましたけど、ダリアさんの仲間なので当然と答えを出したんです。
そして、落ち着く為にも椅子に座って状況をお話すると、ダリアさんは静かに怒り始めます。
「道を踏み外した哀れな男、アレシャス様とは偉い違いですね」
落ち着いている様に見えるけど、目が燃えている様で怖かったです。
事情をある程度話すと、今度はダリアさんの番になり、どうしてここにいるのかを聞きました。
「先ほども申しましたが、アレシャス様のメイドになる為に王都に向かっている途中で、こちらにはお母様をお迎えに来ました」
「わ、ワタシですか!?」
「はい、アレシャス様は訓練施設で、お母さまを幸せにしたいと、いつも言っていました」
それはウソだと、マイナさんは取り乱しました、いままで落ち着いた感じがウソの様になり、お兄様に恨まれてると、さっきの話を語ったんです。
「お母様、平民からなら当然の事ですよ、その程度では、アレシャス様は怒りもしません」
「で、でも、手紙を送ってても、返事は届かないんでよ」
「それはそうです、全て止められますからね」
ダリアさんは、そう言ってポケットから手紙の束を出して、テーブルに置いてニッコリします。
その手紙は、お兄様がマイナさんに書いた物だったんです。
「アレシャス様も知らなかった事ですが、手紙は途中で処分されます。だからわたくしは、アレシャス様の手紙を送らずに保管していました」
訓練施設で書かれた手紙が山に積まれ、ダリアさんは、これでも恨まれてますか?っと質問してきます。
手紙の量からも分かりますけど、そんな事は絶対ないと、アタシは確信しましたね。
「ですのでわたくしたちは、アレシャス様の幸せの為に迎えに来たのです」
一緒に王都に行きましょうと、ダリアさんに提案されて、アタシとマイナさんは戸惑います。
お兄様がいる場所が分かって嬉しいですけど、さすがに王都に行けば知られてしまいます。
「強制的に離されますよ」
「それには及びません、わたくしたちがいれば何とかなります」
「「えっ!?」」
「わたくしたちは、アレシャス様の専属メイドですよ、只者ではないのです。それに・・・きっとアレシャス様がなんとかしてくれますわ」
お兄様に迷惑が掛かる、そう思ったアタシは、反対しようと口を開きます。でも、その話をしていたダリアさんの表情を見て止めたんです。
彼女は満面の笑みを浮かべていて、お兄様の喜ぶ顔しか見えてません。
「それでお兄様が喜ぶんですか?」
「そうですよ、あなたも近くで接していれば分かるようになります・・・っと言うか、あなたは何者ですか?」
そう言えば、お兄様もアタシを知らないのを忘れていました。
自己紹介の後、ダリアさんは更に笑顔を上げてくれたけど、どことなく怖さが加わったように見えました。
これでお兄様は喜ぶのか、正直不安でしたけど、とても強い味方が出来て頼もしかったです。
次の日、アタシとマイナさんは、メイドさんたちと旅に出発しました。そこでは訓練施設でのお兄様のお話が聞けて、とても楽しい物でしたよ。
アタシことスージィは、ある理由でこの産まれ故郷の村を目標に、一人で旅をしてきました。
「そして、ここがお兄様の産まれた家」
懐かしさも感じない村を歩き、アタシは目的の場所に着きました。
村はそれほど大きくなかったし、丘の上にある家と聞いてたから直ぐに分かったんです。
「でも、教えて貰えるかな」
この家がアタシの産まれた家という訳ではなく、腹違いのお兄様の実家で、アタシの元の家は、既に通り過ぎていて、そこが目的地じゃありません。
この家には、今もお兄様の母親がいて、アタシはお兄様の居場所を聞きに来ました。
「でも、聞かないと始まらない」
ドアの前で、ノックをする体勢のままで、アタシは動かず止まってしまいます。
アタシの父は、この家の女性を裏切って、アタシの母さんの家に来ていました、そしてアタシが生まれると、家を出て行き、アタシと母さんまで見捨てました。
だから、きっと恨まれてるんです。
「やっぱり怖い・・・でも、アタシは会って見たい」
ここで恨まれ、殺されても教えて欲しい、そう思う程にアタシはお兄様に会いたいんです。
アタシの育った村を救い、影の英雄と呼ばれてるお兄様に会いたい。だから覚悟を決めてノックしました。
「は~い」
「うっ!?優しそうな声」
家の中から、とても穏やかそうな声が聞こえ、アタシはかなり緊張が高まったわ。
こんなに優しそうな声の人が、アタシを見てなんて思うのか、とても怖くなったんです。
「あら、どなたかしら?」
「こ、こんにちは」
一言しか言えなかったアタシは、下を向きその先には進めませんでした。
そんなアタシを見て、家の中に招いてくれたんです。とてもやさしく、それでいて綺麗な人で、あたしは怒りが沸き上がって来ました。
「こんな人がいるのに、他の女性に手を出すなんて・・・お父さんはひどい人なのね」
お茶を用意してもらってる間、アタシは観察をして再確認しました。
アタシたちを捨てたあの男は、やっぱりそう言った奴で、ひと目見たいと思っていた気持ちは吹き飛びました。
「さて、ここにどういった用事かしら?」
「あの・・・その」
「そう、言いにくい事なのね」
「すみません・・・でも言います。アタシはスージィと言って、ここにいた男性と他の女性の間に生まれた子供です」
アタシは敢えて隠さずにそのまま伝えます。こうすれば相手は直ぐに理解して、それに怒りを表せば怒られて終わるからです。
それでもお兄様の居場所だけは聞きたい、アタシがここに来た理由はそれだと伝えます。
「そう、あなたはアレシャスに会いたいのね」
「はい、会ってお礼を言いたいんです」
「分かったわ・・・でも、ワタシの知ってる場所は訓練施設だから、きっともういないわよ」
「それでも良いです。その先はまた探します」
女性は怒りもしないで、笑顔でアタシに教えてくれました。
アタシの旅は、まだまだ続くのが確定したのだけど、どうしてそんなに嬉しそうなのか気になって仕方なかった、だから聞いたんです。
「どうして教えてくれるんですか?それも、そんなに嬉しそうに」
「そうね、変よね・・・ワタシは嬉しいのよ、あなたは家族を想って動いている。それは、ワタシがあの子の母親として出来なかった事なのよ」
母親として、何もしてあげられなかったと、凄く後悔している事を教えてくれました。
とても悲しそうな顔で、今までの笑顔との差が凄かったです。
「一緒に行きませんか?」
「それはダメよ、この国の規則に反してしまうわ。それにね・・・あの子に手紙を送っても、向こうからは手紙も届かないから、きっと恨んでるんだわ」
「そんな!?」
母親として何もしてないのだから当然っと、涙が零れたのが見えました。
そこまで思っていても何も出来ない、この人は今までずっとそれを抱えて生きて来たんだと、アタシは凄いと感じましたよ。
「同時に、あの男はダメすぎ、もうお父さんなんて呼ばない!」
こんな女性の残し、あの男はアタシの母さんと浮気をして、更には姿をくらませた。
あの男も探してもいたアタシは、母さん以外にも女を作っていた事が分かったの。
お兄様の様な、優秀なダンジョンヒューマンを生ませようとしたのよ。ほんとに最低!!テーブルを叩いて怒ってしまいました。
「行きましょうマイナさん、ここにいてはダメです」
「でも規則が」
「そんなのはどうとでもなります!会わないでも近くにいれば、それだけでお兄様も気持ちが軽くなりますよ」
マイナさんは、そうかしら?っと不思議そうです。
でも、アタシはそう思うし、お兄様だって絶対そうです。
「家族は一緒にいるのが良いです」
「あなた・・・もしかしてご両親を?」
「はい・・・母さんは、アイツがいなくなったショックで」
何もかもあいつが悪い、そう思わない日はありません。
だから、アタシはお兄様に会いたいんです。
「たいへんだったのねスージィ」
「いえ、アタシよりも、マイナさんの方が」
マイナさんは、椅子から立ち上がり、アタシを抱きしめてくれた。
母さんの様に暖かくて、とても安心できた、だからお兄様にも必要だと、確信しましたよ。
「じゃあ行きましょう」
「分かったわ、支度をしたら明日にでも出ましょう」
マイナさんの説得が終わり、夕飯の支度を始めたアタシたちですけど、そこで家の扉をノックする人が現れたんです。
アタシは、なんだかイヤな予感がして怖くなったけど、マイナさんは扉を開けます。
「あ、あなた!?」
「よう久しぶりだなマイナ」
あの男が突然現れ、家の中にドカドカと入って来たんです。
アタシを見ても知らん顔で、さっきまで座ってた椅子にドカッと腰を下ろしたわ。
「な、何しに来たのよ!」
「誰だお前、ここは俺の家だ、何しに来たもないんだよ」
「い、今までいなくなってたくせに、あなたのせいで母さんは」
そこまで言っても、男は興味がないみたいで、持っていた酒瓶を口にします。
容姿もひどい物で、こんなの人の血が半分も流れていると思うと、アタシは嫌になりました。
出て行けと言いたいけど、怖くて声にならなかったアタシを、マイナさんは抱きしめてくれました。そしてあの男に言ってくれたんです。
「勘違いしないでケビン、ここはもうあなたの家じゃないわよ。出て行ってくれるかしら」
「何だとマイナ、誰のおかげでこんな良い生活が出来てると」
「ワタシは良い生活なんてしてないわよ。食事も最低限だし、ワタシの愛した子供はここにはいない、これのどこが良い生活なのよ」
早く出て行って!マイナさんの心からの叫びに、男もさすがに立ち上がり帰ろうとします。
でも、ドアノブを掴んで扉を開けたと思ったら、途中で止まって振り向き、酒瓶を振り上げて来たわ。
「思い出したぞ!そのガキ、他の女と作ったガキだ。マイナ、お前が裏で手を回してたんだな」
訳の分からない事を言い始め、酒瓶は振り下ろされます。
マイナさんに当たったら怪我をする、それが分かって、アタシはマイナさんの身体をぎゅっとしたんです。
「ぐわっ!!」
マイナさんの叫び声が聞こえると思っていたアタシは、アイツの声がして、あれ?っと思いました。
目を開けて、アイツのいた場所に向けると、メイド服を着た人が立っていて、アイツは家の端に倒れ込んでいました。
「扉が開いているから何事かと思えば、女性に手を挙げる重罪の現場に出くわすとは、夢にも思いませんでしたよ」
「ぐ、ぐぅ~・・・な、何しやがる」
倒れたままで、アイツはメイドさんを睨みますが、メイドさんはため息を付いて、アタシたちの方に振り返り笑顔を見せてくれます。
「たいへんでしたね、もう大丈夫ですよ」
「あ、あの、あなたは」
「わたくしはダリアと申します。アレシャス様の専属メイドになる為に、国のお仕事を辞めたメイドですわ」
ニッコリと宣言されて、アタシとマイナさんはビックリを通り越し、ぼ~っとしてしまいます。
そこにアイツが起き上がり、酒瓶を振り上げて来たんですが、ダリアさんがスカートの下に隠していた、数本のナイフを投げ、アイツは壁に縫い付けられたんです。
「す、すごい!?」
「これくらい当たり前ですよお嬢様・・・それで、あなた様がアレシャス様のお母様ですね」
マイナさんに跪いたダリアさんは、ほんとに綺麗で見惚れてしまいました。
誰かに敬意を見せると言うのは、こうあるべきと伝わって来たんです。
「ああ、頭を上げてください!ワタシはそんな事をされる立場では」
「いえ、これはわたくしの決意の証なのです。あなたの息子様であるアレシャス様には、とても助けられ感謝しているんです」
「それならワタシではなく、息子のアレシャスに」
「それは当然です。ですがお母様にも尽くすのは当然ですわ」
ダリアさんのお話を聞いている間に、いつの間にか、アイツは他のメイドさんにより拘束されていました。
他にもメイドさんがいたの?とも思いましたけど、ダリアさんの仲間なので当然と答えを出したんです。
そして、落ち着く為にも椅子に座って状況をお話すると、ダリアさんは静かに怒り始めます。
「道を踏み外した哀れな男、アレシャス様とは偉い違いですね」
落ち着いている様に見えるけど、目が燃えている様で怖かったです。
事情をある程度話すと、今度はダリアさんの番になり、どうしてここにいるのかを聞きました。
「先ほども申しましたが、アレシャス様のメイドになる為に王都に向かっている途中で、こちらにはお母様をお迎えに来ました」
「わ、ワタシですか!?」
「はい、アレシャス様は訓練施設で、お母さまを幸せにしたいと、いつも言っていました」
それはウソだと、マイナさんは取り乱しました、いままで落ち着いた感じがウソの様になり、お兄様に恨まれてると、さっきの話を語ったんです。
「お母様、平民からなら当然の事ですよ、その程度では、アレシャス様は怒りもしません」
「で、でも、手紙を送ってても、返事は届かないんでよ」
「それはそうです、全て止められますからね」
ダリアさんは、そう言ってポケットから手紙の束を出して、テーブルに置いてニッコリします。
その手紙は、お兄様がマイナさんに書いた物だったんです。
「アレシャス様も知らなかった事ですが、手紙は途中で処分されます。だからわたくしは、アレシャス様の手紙を送らずに保管していました」
訓練施設で書かれた手紙が山に積まれ、ダリアさんは、これでも恨まれてますか?っと質問してきます。
手紙の量からも分かりますけど、そんな事は絶対ないと、アタシは確信しましたね。
「ですのでわたくしたちは、アレシャス様の幸せの為に迎えに来たのです」
一緒に王都に行きましょうと、ダリアさんに提案されて、アタシとマイナさんは戸惑います。
お兄様がいる場所が分かって嬉しいですけど、さすがに王都に行けば知られてしまいます。
「強制的に離されますよ」
「それには及びません、わたくしたちがいれば何とかなります」
「「えっ!?」」
「わたくしたちは、アレシャス様の専属メイドですよ、只者ではないのです。それに・・・きっとアレシャス様がなんとかしてくれますわ」
お兄様に迷惑が掛かる、そう思ったアタシは、反対しようと口を開きます。でも、その話をしていたダリアさんの表情を見て止めたんです。
彼女は満面の笑みを浮かべていて、お兄様の喜ぶ顔しか見えてません。
「それでお兄様が喜ぶんですか?」
「そうですよ、あなたも近くで接していれば分かるようになります・・・っと言うか、あなたは何者ですか?」
そう言えば、お兄様もアタシを知らないのを忘れていました。
自己紹介の後、ダリアさんは更に笑顔を上げてくれたけど、どことなく怖さが加わったように見えました。
これでお兄様は喜ぶのか、正直不安でしたけど、とても強い味方が出来て頼もしかったです。
次の日、アタシとマイナさんは、メイドさんたちと旅に出発しました。そこでは訓練施設でのお兄様のお話が聞けて、とても楽しい物でしたよ。
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