18 / 120
18 おばあちゃんのガム
しおりを挟む
駄菓子屋は廃れているところが多いので少し不安だった。しかし、そこはしっかりした照明のある昭和風の店だった。
「ピーピー笛買って!」
「300円以内な」
「これとー、これとー。お兄ちゃんは買わないの?」
「じゃあこのあたりめでも買おうかな」
「ピストルは?」
「いらないでしょ」
「これでオッケー!」
「貸して、払ってくる」
「ありがとう」
僕はおばあちゃんの店主に会計してもらった。
「風子ちゃんのお兄ちゃんかい?」
「従兄妹です」
「しっかりしてるね、ガムを2個おまけしとくよ」
「ありがとうございます」
「ばあば、ありがとう」
「こら、風子ちゃん。すみません、口調が悪くて」
「いいのよー、この子が5歳の頃からここに通ってるし、もう5年もたつのね」
「ははは、それじゃあ」
僕達は店を出る。
「この後はどこ行く?」
「公園に行こう、そこでいつも駄菓子食べてるから」
「今の時期寒いだろう」
僕が言うと、風子は頭に手をやった。
「風子ちゃん?」
「じゃあウチの家来る?」
「え?」
「行こうよ」
風子は僕の腕をグイグイ引っ張る。
僕は根負けして、風子について行った。
「ピー! ピー!」
風子はピーピー笛を吹いている。
僕は微笑ましい気持ちになった。
道を曲がり、坂を登って、今度は降りる。
「どの辺に家があるの?」
「ピー!」
風子は指を指す。
目の前には民家があった。
ワン!
隣の家のフェンス越しに柴犬がいた。尻尾を振っている。
「わんわん! ただいま」
風子は首にかけたストラップから家の鍵を取り出した。
「どうぞ」
「お邪魔します」
僕はしおらしく挨拶する。
「ピー! 気を使わなくても、ウチしかおらんし平気だよ」
風子はピーピー笛を鳴らしている。
「リビングで食べよう」
「うん」
僕と風子は1階にある、リビングへ足を運んだ。
「お菓子パーティーだ!」
風子は律儀に駄菓子をテーブルに並べる。そして、椅子に座った。端から順に食べ始めた。
僕はあたりめをかじりだす。
「美味えー」
「美味しいね」
風子も僕もすぐに駄菓子を食べ尽くした。
「お兄ちゃん、あの棚にある煎餅とって!」
「そりゃ怒られちゃうよ。だめ!」
「来客用だからいいの」
「そういう問題じゃないよ」
「後で、ママに言っとくから」
「わかったよ、けど1枚だけだからな」
「わーい」
隣で喜ぶ風子を流し目で見てから、煎餅をとる。
「いただきます、お兄ちゃんは?」
「僕はいいよ、あんまり食べたら無くなっちゃう」
「半分こしよう?」
「いいよ、全部食べな」
「それはだめ」
風子は煎餅を半分に割ると、僕に渡してきた。
「じゃあ、いただきます」
その醤油煎餅は最近のお菓子の中で格別に美味しかった。
「もうこんな時間! 早く戻ろう」
風子はバリバリ食べると、時計を見た。
「道はわかるの?」
「この辺のことならわかるよ」
「お邪魔しました」
「早く!」
風子に急かされて僕は家を出る。
来た道を折り返した。
「風子、遅かったね」
「お兄ちゃんと家で1枚だけ煎餅食べた!」
「そうかい。それじゃ、たい君もさようなら」
「お兄ちゃん、ばいばい!」
「風子ちゃん、じゃあね」
僕達は車に乗り込み、帰路についた。
「たい、楽しかった? 風子ちゃん、お転婆だったでしょう? 大変じゃなかった?」
「別に特段変わったことはなかったよ」
「そう、スーパーに寄りましょうか。たいの好きなししゃもでも買っていこう」
「ありがとう」
僕は眠たくて目を閉じた。
世界はキラキラしていた。
(ここ夢だ)と気づいたのは紛れもなく、眠ってすぐのことだった。
轟々と家が燃えている。さっきまでいた風子の家だ。
(これは明晰夢だ)と思った。
時間を逆再生してみる。
燃えている火がみるみるうちに小さくなっていく。点火する前に戻っていく。
怪しい黒い全身タイツの男達が何か燃料を撒いていて、火をつけていた。
赤外線カメラを片手に、家の中を漁っていく。
男組の2人が家の中に入っていく様子が見えた。ワンロックの鍵を開ける機械で開けた。家はまっさら元通りになった。0時過ぎのことだった。日めくりカレンダーは今日を示している。
男達の行方を知ろうとした時、肩を揺らされ起こされた。
「うーん。っは! 母さん、父さん。大変だ、風子ちゃんの家、狙われている! 今日放火犯が忍び込む!」
「何言ってるんだ?」
「怖い夢でも見たんでしょ?」
「正夢になりでもしたら」
「考え過ぎだよ」
父は僕の頭を撫でた。
「リアルな夢だった……」
「なんなら風子ちゃんの家にでも泊まる?」
「それが出来るならそうしたい」
「風子ちゃん家に相談してみるわ」
「でも、どうやって戦えば……」
「戦える道具、ピストル? そうだ!」
僕は家に着くと、自分なりに考えたものを用意した。
「風子ちゃん家だめだって。泊まるの」
「そう、わかった。じゃあ、夜僕1人で行く」
「そんなに気になるんなら、送っていくよ」
「いや危ないよ。僕が行く」
「遠くで見ていればいいだろ?」
「わかった、父さんと僕だけで行く。相手は放火魔だ。これを使ってくれ」
「これは?」
「隙を見てまいてくれ。僕は靴だから」
それを父は大切に預かってくれた。
「0時までには近くにいよう」
◇
僕らは0時前にあの家の近くに来ていた。
「何にも起こらなければいいんだけど。そろそろ入られる時間だ」
僕らは風子の家の窓を見る。開いていた。靴もある。
「父さん、警察へ通報してくれ」
「オッケー。すぐ戻る」
父は靴を持っていく。物わかりよく俊敏に動いた。
僕は暗闇に動いている者を夢の中、同様、探り当てることに成功した。
ビャッ! ビャッ!
「うおっ!?」
「なんだ?」
「ガソリン!?」
驚く男達を尻目に僕は水鉄砲を噴射させた。中にガソリンを入れていた。
「殺すぞ、ガキ!」
2人組はガソリンまみれになった。
計画通りだった。
バン! バン!
「いってぇ!」
次にエアガンで攻撃する。
「この野郎!」
1人の放火魔はコンパクトナイフを取り出した。
僕は逃げ出した。
「待てこのクソガキ!」
すぐ追いつかれそうだった。だが、それだけで終えるわけにいかない。
「喰らえ、クソだ!」
僕は腹に力を込めて、肛門からひねり出したうんこを投げつけた。
最後の悪あがきだ。
「くっせええ、うんこ投げてきやがった」
2人は放心状態になった。
「おい、逃げるぞ!」
「……おう!」
ウウーー! ウウーー!
「警察だ! なんで分かったんだ」
「誰だ、通報したやつ!?」
「靴もねえ! しかも、画鋲がばらまかれている!」
放火魔はあたふたしているのが見つかり、御用となった。
次の日の新聞にも載ることになった。
「ありがとう。お兄ちゃん」
「どういたしまして」
僕は抱きついてくる風子の背中を抱きしめた。
「あの夢を見れて本当に良かった」
僕は見るべくして見たのだと心から誇りに思った。
「お兄ちゃん、これ内緒で食べようかと思ったんだけど」
風子は駄菓子屋のおばあちゃんのくれたガムを僕に手渡した。
「別にいいのに。ありがとう」
僕は久しぶりにガムをもぐもぐと食べた。そして次の日の日曜日は、警察に行き、ことの顛末を話した。家に着くと眠かったのでほとんど寝て過ごした。
「ピーピー笛買って!」
「300円以内な」
「これとー、これとー。お兄ちゃんは買わないの?」
「じゃあこのあたりめでも買おうかな」
「ピストルは?」
「いらないでしょ」
「これでオッケー!」
「貸して、払ってくる」
「ありがとう」
僕はおばあちゃんの店主に会計してもらった。
「風子ちゃんのお兄ちゃんかい?」
「従兄妹です」
「しっかりしてるね、ガムを2個おまけしとくよ」
「ありがとうございます」
「ばあば、ありがとう」
「こら、風子ちゃん。すみません、口調が悪くて」
「いいのよー、この子が5歳の頃からここに通ってるし、もう5年もたつのね」
「ははは、それじゃあ」
僕達は店を出る。
「この後はどこ行く?」
「公園に行こう、そこでいつも駄菓子食べてるから」
「今の時期寒いだろう」
僕が言うと、風子は頭に手をやった。
「風子ちゃん?」
「じゃあウチの家来る?」
「え?」
「行こうよ」
風子は僕の腕をグイグイ引っ張る。
僕は根負けして、風子について行った。
「ピー! ピー!」
風子はピーピー笛を吹いている。
僕は微笑ましい気持ちになった。
道を曲がり、坂を登って、今度は降りる。
「どの辺に家があるの?」
「ピー!」
風子は指を指す。
目の前には民家があった。
ワン!
隣の家のフェンス越しに柴犬がいた。尻尾を振っている。
「わんわん! ただいま」
風子は首にかけたストラップから家の鍵を取り出した。
「どうぞ」
「お邪魔します」
僕はしおらしく挨拶する。
「ピー! 気を使わなくても、ウチしかおらんし平気だよ」
風子はピーピー笛を鳴らしている。
「リビングで食べよう」
「うん」
僕と風子は1階にある、リビングへ足を運んだ。
「お菓子パーティーだ!」
風子は律儀に駄菓子をテーブルに並べる。そして、椅子に座った。端から順に食べ始めた。
僕はあたりめをかじりだす。
「美味えー」
「美味しいね」
風子も僕もすぐに駄菓子を食べ尽くした。
「お兄ちゃん、あの棚にある煎餅とって!」
「そりゃ怒られちゃうよ。だめ!」
「来客用だからいいの」
「そういう問題じゃないよ」
「後で、ママに言っとくから」
「わかったよ、けど1枚だけだからな」
「わーい」
隣で喜ぶ風子を流し目で見てから、煎餅をとる。
「いただきます、お兄ちゃんは?」
「僕はいいよ、あんまり食べたら無くなっちゃう」
「半分こしよう?」
「いいよ、全部食べな」
「それはだめ」
風子は煎餅を半分に割ると、僕に渡してきた。
「じゃあ、いただきます」
その醤油煎餅は最近のお菓子の中で格別に美味しかった。
「もうこんな時間! 早く戻ろう」
風子はバリバリ食べると、時計を見た。
「道はわかるの?」
「この辺のことならわかるよ」
「お邪魔しました」
「早く!」
風子に急かされて僕は家を出る。
来た道を折り返した。
「風子、遅かったね」
「お兄ちゃんと家で1枚だけ煎餅食べた!」
「そうかい。それじゃ、たい君もさようなら」
「お兄ちゃん、ばいばい!」
「風子ちゃん、じゃあね」
僕達は車に乗り込み、帰路についた。
「たい、楽しかった? 風子ちゃん、お転婆だったでしょう? 大変じゃなかった?」
「別に特段変わったことはなかったよ」
「そう、スーパーに寄りましょうか。たいの好きなししゃもでも買っていこう」
「ありがとう」
僕は眠たくて目を閉じた。
世界はキラキラしていた。
(ここ夢だ)と気づいたのは紛れもなく、眠ってすぐのことだった。
轟々と家が燃えている。さっきまでいた風子の家だ。
(これは明晰夢だ)と思った。
時間を逆再生してみる。
燃えている火がみるみるうちに小さくなっていく。点火する前に戻っていく。
怪しい黒い全身タイツの男達が何か燃料を撒いていて、火をつけていた。
赤外線カメラを片手に、家の中を漁っていく。
男組の2人が家の中に入っていく様子が見えた。ワンロックの鍵を開ける機械で開けた。家はまっさら元通りになった。0時過ぎのことだった。日めくりカレンダーは今日を示している。
男達の行方を知ろうとした時、肩を揺らされ起こされた。
「うーん。っは! 母さん、父さん。大変だ、風子ちゃんの家、狙われている! 今日放火犯が忍び込む!」
「何言ってるんだ?」
「怖い夢でも見たんでしょ?」
「正夢になりでもしたら」
「考え過ぎだよ」
父は僕の頭を撫でた。
「リアルな夢だった……」
「なんなら風子ちゃんの家にでも泊まる?」
「それが出来るならそうしたい」
「風子ちゃん家に相談してみるわ」
「でも、どうやって戦えば……」
「戦える道具、ピストル? そうだ!」
僕は家に着くと、自分なりに考えたものを用意した。
「風子ちゃん家だめだって。泊まるの」
「そう、わかった。じゃあ、夜僕1人で行く」
「そんなに気になるんなら、送っていくよ」
「いや危ないよ。僕が行く」
「遠くで見ていればいいだろ?」
「わかった、父さんと僕だけで行く。相手は放火魔だ。これを使ってくれ」
「これは?」
「隙を見てまいてくれ。僕は靴だから」
それを父は大切に預かってくれた。
「0時までには近くにいよう」
◇
僕らは0時前にあの家の近くに来ていた。
「何にも起こらなければいいんだけど。そろそろ入られる時間だ」
僕らは風子の家の窓を見る。開いていた。靴もある。
「父さん、警察へ通報してくれ」
「オッケー。すぐ戻る」
父は靴を持っていく。物わかりよく俊敏に動いた。
僕は暗闇に動いている者を夢の中、同様、探り当てることに成功した。
ビャッ! ビャッ!
「うおっ!?」
「なんだ?」
「ガソリン!?」
驚く男達を尻目に僕は水鉄砲を噴射させた。中にガソリンを入れていた。
「殺すぞ、ガキ!」
2人組はガソリンまみれになった。
計画通りだった。
バン! バン!
「いってぇ!」
次にエアガンで攻撃する。
「この野郎!」
1人の放火魔はコンパクトナイフを取り出した。
僕は逃げ出した。
「待てこのクソガキ!」
すぐ追いつかれそうだった。だが、それだけで終えるわけにいかない。
「喰らえ、クソだ!」
僕は腹に力を込めて、肛門からひねり出したうんこを投げつけた。
最後の悪あがきだ。
「くっせええ、うんこ投げてきやがった」
2人は放心状態になった。
「おい、逃げるぞ!」
「……おう!」
ウウーー! ウウーー!
「警察だ! なんで分かったんだ」
「誰だ、通報したやつ!?」
「靴もねえ! しかも、画鋲がばらまかれている!」
放火魔はあたふたしているのが見つかり、御用となった。
次の日の新聞にも載ることになった。
「ありがとう。お兄ちゃん」
「どういたしまして」
僕は抱きついてくる風子の背中を抱きしめた。
「あの夢を見れて本当に良かった」
僕は見るべくして見たのだと心から誇りに思った。
「お兄ちゃん、これ内緒で食べようかと思ったんだけど」
風子は駄菓子屋のおばあちゃんのくれたガムを僕に手渡した。
「別にいいのに。ありがとう」
僕は久しぶりにガムをもぐもぐと食べた。そして次の日の日曜日は、警察に行き、ことの顛末を話した。家に着くと眠かったのでほとんど寝て過ごした。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる