もしも学校の椅子がトイレの椅子だったら

五月萌

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「ホテル行く写真でも撮らない?」
「は? なんでだよ」
「その写真、いちの母に見せるから」

僕が言うと、しばらく沈黙が流れた。

「あー、そういうことか、いいよ」
「あたしはこの体の人が可愛そうだと思うんだけど」
「大丈夫! いちに嫌がらせをした報いだよ」
「だめ……かな?」

葉阿戸は上目遣いでサリナを見る。

「協力はするよ!」
「この辺にラブホあるよ」
「そこに行こう」

僕は母に少し待っていてもらうように頼むと、ラブホへと足を進めた。

「はい、たい、ケータイ」
「韻踏むなよ」

僕は葉阿戸のケータイを借りて、ホテルの入口でサリナと腕を組む葉阿戸をカメラの機能で撮る。遠近法でキスしてるように見える写真も撮っておいた。

「おっけ! いいよ2人とも!」
「じゃあ、後でいち君の家にコピーを送っておくよ」
「なんか悪魔っぽいですね?」
「俺は天使だよ。しー」

葉阿戸は口元に人差し指をつけて見せた。

「行こう。母さんをあまり待たせるとどやされるのは僕なんだから!」

僕らは走り出していた。

「こんばんわ、おまたせしてすみません」

葉阿戸は窓の外から僕の母に申し訳無さそうに謝った。

「いいの、いいの! じゃあ、日余さん宅に向かうわ」

僕らは車に乗り込んだ。

「あら? 茂手木さん?」
「顔見知りですか?」

葉阿戸はきれいな目をパチクリする。

「えっと、今、罰ゲーム中で喋れないんだ。どういうつながり?」

僕は冷や汗をかきながらフォローする。

「たいが小学校時代のママ友の旦那さん」
「離婚とかしてるんですか?」
「してるわけないじゃない、今でもラブラブだそうよ。夫婦でスーパーなんかで会うのよね、ねえ、茂手木さん」

僕は(不倫かよ)と内心焦る。

「今は喋れないんだってば。葉阿戸の家行ったら、ちょっと犬見て帰るからね」
「茂手木さんは?」
「奥さんに来てもらうんだよ」
「へえ、私が送っていってもいいけど」
「そういうのいいから」

僕は母を黙らせる。
母は無言でしばらく車を走らせた。

「ほら、着いたよ」

そうして、葉阿戸の家についた。

「ありがとうございました、帰りもお気をつけて!」

葉阿戸はすぐに外に飛び出して行った。

「ちょっと行ってくる」

僕はサリナとアイコンタクトをした後、2人で車を出た。

「よりによって不倫かよ! 葉阿戸の写真も使えなくなったな」
「俺の写真、顔にモザイクいれるから大丈夫だよ。それより、不倫してることを知らせるためにする事があるねぇ」
「何?」
「サリナ、また裸になってくれるかい?」
「え? いいけど」

サリナは服とズボンをすぐさま脱いだ。
葉阿戸は階段を上がっていった。すぐに戻って来る。明日多里少の所有物らしき、縄とガムテープそして黒いペンを手にしていた。

「さあ、たい、サリナを腕を結んでくれるかい。適当でいいよ」
「お、おう」

僕はぐるぐるとサリナの腕を縛った。

「あの、痛いことはしないよね?」
「しー、少し静かに」

葉阿戸は優しくサリナの口にガムテープを貼った。

「不倫中っと」
「あ……」

サリナ扮する茂手木裕太の胸辺りに葉阿戸が書くと、キラキラした笑顔でケータイを向けた。

カシャシャシャシャ!

写真を撮ると、サリナの腕の縄を解いた。

「犬は2階だよ」

葉阿戸は姉に似たような笑みを浮かべて、サリナに服を渡した。
サリナは難なく服を着た。
僕らは2階へ移動する。

「”もじゃ”!」

サリナは犬に向かいそう叫んだ。
ワン!
ヤキは嬉しそうに尻尾を振っている。

「えーと、もじゃという名前なんだな?」

僕は小さな声で聞く。

「もじゃもじゃの”もじゃ”だよ」
「俺が決めた名前は”ヤキ”なんだけどね」

葉阿戸はケータイを弄りながら喋る。

「ほう、茂手木心望ここみちゃんか」

葉阿戸は僕の小学校時代のクラスメートの名前を出す。

「葉阿戸、怖いんだけど。どうする気だ? その名前、娘さんだろ?」
「どうするかは彼氏次第だよ」
「ああ、天国に召されそう、ありがとう、最初は怖かったけど優しくしてくれてありがとう……さようなら!」
「おう」
「来世でまた会おうね」

葉阿戸に寄りかかるようにサリナは倒れ込んだ。
葉阿戸はまるで押し倒されたようだった。
そうかと思うと葉阿戸は簡単に隣に寝かせた。

「分身はいつ消えるんだ?」
「24時間後だよ。この人運ぶの手伝ってくれる?」
「もちろん!」

僕らは3階の部屋のベッドに茂手木裕太の分身を寝かせた。

「新しい魂が入らないように縄で結んでおこう」

葉阿戸はさっき使った縄を持ち出して、腕から足まで結んでおいた。

「僕は帰るけど平気?」
「うん。車まで見送ろう」

葉阿戸は額の汗を拭く。
僕は母に家に帰ると、茂手木裕太のことを聞いた。

「まあ、あの人は我が道を行くと言うか、結婚向きではない人だったわ」
「何か怪しい宗教とか入ってないか?」
「うーん、よくわからないな、連絡ももうしてないし」

母は言葉を濁して、キッチンの方に向かった。
僕は勉強をして、1日が終わった。



そして次の日。
僕は学校の校門の近くでいちと居合わせた。
今日のいちは血色もよく、元気そうだ。

「いち、元気か?」
「うん、どうして?」
「母の彼氏どうなった?」
「今朝に来るはずだったんだけど、なぜか来なかったんだよねー、なんか知ってるの?」
「知らないよ、僕は、何も」
「ふうん、そっか」
「おはよう」

葉阿戸は女装して登校していた。

「葉阿戸! お前どうしたんだ? いちの母の彼氏!」

僕は(やっぱりこの方が良いな)と思いながら聞き出す。

「俺の情報網を舐めないほうがいいよ。茂手木さん、結構遊んでるから、制裁に写真を見せといた。もう倉子さんには近づかないって泣いてたけど? あの人、飲み会やナンパで女の子酔い潰してホテル行くらしいから、今度そんな真似したら、会社に証拠をばらまくと、脅しといた」
「葉阿戸って怖いな」
「姉さんよりはマシだよ。あ、いないよな?」

葉阿戸はキョロキョロ見回す。

「よし、いないな」
「誰がいないんだ?」

後ろから明日多里少の声が聞こえてきた。

「ひい! 吉美市宮内先生!?」

見た感じ身長低めな宮内が立っていた。

「あーしだよ。明日多里少だ。たー君、葉阿戸、いち君」

顔面はマスクのようだ。口は動かない。

「本物はどうしたんですか?」
「さあなー、で、なんか面白い会話してなかった?」
「してないです、学校に行ってください」
「来てるだろ」
「いや、大学にという意味です」
「いいから混ぜろよ」
「混ぜるな危険です!」
「まあいいや。たー君の顔も見れたし、家にいる、男に聞けば」
「あの人は、俺の恋人で! だからその、縛られるのが好きだから、触らないで!」
「葉阿戸、なんか喋る気になった?」
「後で全部話すよ」
「やりぃ! ここにいても面倒だからとりあえず大学行くか。吉美市宮内は体育用具入れだよ」
「なんでだよ!」
「ま、あーしが口説けば、こんなもんよ、はい鍵」

明日多里少は僕に体育用具入れの鍵を渡し、ポーカーフェイスで去っていった。

「「俺(うち)も行こうか?」」
「いいよ、寒いし。ああ、もう、急がないと、無遅刻無欠席が!」

僕はグラウンドの隅にある体育用具入れに突っ走った。

「宮内先生!」

僕は鍵を開けて入った。
宮内は赤ワインを飲んでいる。

「何飲んだくれてるんですか?」
「あぁ、このワインはぁ、橋本先生の私物だあよぉ」
「学校に持ち込まれたものでも、酒を飲まないでください。つうかそれって」
「さっき、許可もらったから大丈夫大丈夫ぅ」
「その人、本当に橋本先生だったんですか?」
「まさか酒なんて飲めるとは思ってなくてぇ」
「あんた、閉じ込められてたんすよ!」
「たい、朝礼始まるよ、早く行こう」

いちが僕の後に続いて、体育用具入れを覗く。

「行くぞ。先生はおいていく」

僕らはチャイムが鳴る3分前に教室についた。

「たい! おはよ!」
「茂丸、おはよう」

ブーブー。
茂丸のケータイと僕のケータイがメールを同時に受信した。
(葉阿戸からだ)
僕はメールを開く。

『明日姉さんにも、誰にも魔法のこと話さないでね』
「なあなあ聞いてくれよ、昨日なー楽器の魔法を見たんだ」
「茂丸!」

僕は焦燥に駆られた。

「そんな訳あるめえ」
「何をいってるの、茂丸?」
「何理由のわからないことを」
「今日の英語、テストあるんだっけ」

皆、茂丸の言葉に耳を貸さなかった。

「馬鹿だなぁ、茂丸は」

僕はみんなに合わせて誤魔化した。
(性格が馬鹿だとここまで皆の信用を得ないもんなんだな……)

「あんた、UFO見たとかいい出しそうだな」
「たいも見ただろ、魔法」
「さあ、なんのこと?」

僕は英語のテスト範囲を見直した。
その日は1限目の英語から調子が良かった。

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