0721

柄木

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0721―お・な・に・い―

 快楽は好きだ。
 けれど本物のセックスは怖い。

 それもそのはず。
 英田翼はなだつばさが下心を持つものは女の子の柔らかい体では無く、男の固い、それも出来れば筋肉で覆われた逞しい体なのだ。
 その体に組み伏せられ、乱暴に扱われ、下に敷かれて泣き喘ぐ――精通の頃から脳内に浮かぶ妄想はそういった物ばかり。
 これがまだ“女王様”に平伏し、サディスティックな女性の責められるM男ならまだ出会いはあっただろう。
 しかし翼が望む被虐と性欲の対象はサディスティックな男であり、同性にしか下半身も心も反応しない。可能なら恋人だろうがセフレだろうが、逞しい男がいいのだ。
 だが残念にも、男同士などどうやって出会っていいのか分からなかった。
 ハッテン場やゲイバー、あるいはSMクラブにでも出向けば趣味の合う男が見つかったかも知れないが、成人式ですら来年という若さの翼では、そこまで思い切る勇気も経験も知識もなかったのだ。

 それゆえに翼が求めた快楽は、未経験者が爆発する類い希な妄想力と、生真面目にもアルバイトで稼いだお金で買ったアダルトグッズで耽溺するオナニー。
 そう、翼はマゾヒスティックなオナニストなのである。

 
 外は激しい雨が降っていた。今日は予てより妄想していたオナニープレイに挑む日かも知れない。
 気の早い台風5号の影響で活発化した梅雨前線が、せっかくの日曜日を室内に籠もれとばかり大きな雨音を響かせている。
 多少の声や所作も、雨音が掻き消す今日のコンディションは最高と言えるだろう。
 しっかりと施錠し、閉じこもった室内はエアコン無しでは熱中症になりそうなほどに蒸し暑く、これからのことを考えてエアコンの設定温度を24度まで下げる。
 より良いオナニーライフのために、今日は温暖化対策を忘れようと思う。
 なにしろ、汗ばんだ肌では最初の一歩から頓挫してしまうのだ。

 糊は水分に弱い、これは当たり前の事。

 雨足が強くなる前にコンビニで引き取ってきた通販のアダルトグッズを、早々に使えるとは大荒れの天気に感謝したいほどだ。60サイズの段ボールに収まった肉欲の浪漫は、封を開ける音だけで翼の股間を刺激してくる。
 慎重にカッターで段ボールの封を切り、中身が見えないように黒いビニールで梱包された商品を、早まる心臓と股間の疼きを押さえながら取り出す。

「わ、えっち……」

 思わず溢れた声が外の雨音に紛れていく。
 まず黒いビニールを剥がして現れたのは、梱包用材のように巻かれたテープに文字が書かれてある物。
 “変態”“淫乱”“雌豚”“人間便器”など、心ときめく淫らな文字が並ぶ。
 ジョークグッズなのかSMグッズなのか判断に苦しむそれは、一巻きのテープにさまざまな淫語が印刷されているため、一々それらを鋏で切るというかなり間抜けな前準備がある。
 ちょっと虚しい。
 だが切り分けたそれらを見れば、ささやかな憂慮など吹っ飛んでしまう。
 自分の体にそれらのテープを貼り、大きな姿見に自分を映すだけで、翼の若い股間が半勃起上体だった。

「……あ、はぁ……んん、これは、ここに……」

 胸に“淫乱”と“変態”、臍の下に“人間便器”、そしてじわりと先走りが滲む亀頭には“雌豚”の文字が書かれたテープを貼る。淫語に塗れた自分の姿は、それだけで体中が蕩けた喜びに打ち震えてしまう。

 ……ああ、堪らない……おかしくなるかも。

 完全にスイッチの入った翼の脳内に声が響いた。幻聴なのだが、それでも吐き捨てるような口調で詰る男の声に下腹部が跳ね上がってしまう。

『もっと足を開いてメスブタの穴を晒しやがれ。見られたいんだろうが!』

 その脳内の言葉に、じゅくじゅくと“雌豚”のテープがふやける勢いで先走りが圧着面を濡らす。鏡の前でM字開脚をして尻を浮かせば、すでに緩んだ窄まりがヒクヒクと蠢いているのが見えた。

「……み、みて……俺の、メスあな……見てぇっ」

 むろん、妄想である。
 むろん、ひとりぼっちである。

 けれと翼は淫語が書かれたシールを体にべたべたと貼って、必至に鏡の前で尻を揺らしてメスと化した穴を抉って欲しいと息を乱す。
 オナニストである翼はバイブに慣れており、そこにある脊髄を焼く喜びをメス穴は分かっているのだ。

 翼の目の前にはバイブもディルドも転がっていたが、これは最後に使うのだと端から決めていた。
 

 外は大雨。
 傘を差して歩く人は前屈み状態で周囲に着目はしないだろう。
 今までは鏡と室内が翼の遊戯の場だったが、今日は違う。

 なぜなら今日は7月21日――0721オナニーの日なのだから。

 今日届いたばかりの遠隔操作が可能なアナルプラグ。
 それを入れたまま、大通りから外れた道を使って公園まで歩いて帰ってくる、それが天気予報を見て決めた今日のミッションだった。

 この天候だ。
 少しぐらい足下がふらついたり震えたりしても誰も気づかないだろう。
 こんな恥ずかしいテープを体に貼って、アナルプラグまで入れて外を歩けば、帰ってくる頃には体はどうしようも無く昂ぶるはず。

 その時の自分を想像しながら、翼はひくつくアナルにゆっくりとプラグを入れていった。


 まさかこの大雨の日に、実は近所の公園は1の付く日はハッテン場となるとは知らず、そこに運命の出会いがあるとは理解していなかった。

 大雨の中ぐしょ濡れになりながら、本物の男に組み伏せられ、妄想でしか知らなかったメス堕ちが待っているとは今はまだ知らなかった。
 
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