王太子殿下は小説みたいな恋がしたい

紅花うさぎ

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26.これも独占欲!?

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「申し訳ありません。殿下のご友人からアリス様のお姿が見えぬよう、隣に立たせていただきました」

 礼儀正しく頭を下げた護衛が、チラッと私を見た。その目が「ほら見た事か。言った通り独占欲丸出しだろ」っと言っているような気がした。

 こういうのも独占欲って言うのかしら? ウィルは私の事を独り占めしたいと思うくらいに好きってこと? なんて事を考えてたら、何だか照れくさくなってきた。

「アリス、どうしたんだい? そんな赤い顔して……」

「な、なんでもありません」

 私の顔を覗き込むウィルバートから、のけぞるようにして顔を遠ざけた。
 そんなに近付かれたら、もっと赤面しちゃうじゃない。

「それならいいんだけど」と言ってウィルは私の手を引き、足早に店を出た。

 次の目的地である本屋は街の反対側だという事でとりあえず馬車に乗せられる。

 っと、ここまでは何の問題もなかった。けれど馬車に乗り込んで座る時から何やら様子がおかしくなっていく。

 先に馬車に乗り込んだウィルが、私の手を引き膝の上に座らせたのだ。

「あの……これって変じゃないですか?」

「恋人同士なんだから、これくらい普通だよ」

 驚いて立ちあがろうとする私の体を支えるように抱きしめたままウィルが答えた。

 えぇっ!? 恋人同士って、馬車に乗る時こんな風に乗るの? そんなバカなっと思いながらも、ウィルに抱きしめられていては、思うように動けない。

「……アリス……」

 ああーん。そんなに甘い声で囁かれたら脳みそが痺れちゃう。

「馬車の中で盛り上がって……」っというアナベルの言葉が思い出される。

 あの時はそんな事あるわけないって思ってたけど、もしかしてこのまま甘々タイムに突入しちゃうとか!? 

 ウィルが私の右手を優しく握り、その手にキスをした。チュッという軽快な音に合わせて、私の心臓が慌ただしくバクバクと音を立て始める。

「アリス……」
 再び耳元でウィルが囁いた。熱い息が耳にかかり、ゾクゾクとした快感が押し寄せる。

 あぁ、私、この調子で迫られたら、もうなんでも受け入れてしまいそう……

 私の体を抱くウィルの腕に力が入る。
 ウィルが少し切なさのある声で囁いた。

「アリス……アリスはアドルファスのような男性がタイプなの?」

 ???

 質問の内容に頭がついていかず、思考が停止してしまう。

「今なんておっしゃいました?」

 ウィルを振り返るようにして尋ね返す私に、「アリスはアドルファスのような男性が好きなのかなって尋ねたんだよ」とウィルが答えた。

 えっ? アドル……なんですって?

 甘い気分はぶっ飛んで、ただただ首を捻る。
 アドル……なんとかって一体誰の事?

「ごめんなさい。アドル……なんとかって誰でしたっけ?」

「さっきまで、アリスと二人きりでいたじゃないか」

 ウィルの話から、アドルファスというのがレストランで話をした護衛の人だということが分かった。

「さっきアドルファスと見つめあって赤い顔をしていただろう。てっきりアドルファスのような男性がタイプなのかと思ったんだけど……」

 えーっと……なんだろう……
 ウィルの言葉に対して色々言いたい事があるが、一体何から話せばいいのやら。

 まず「アドルファスのような男性がタイプか?」っという質問だけど、これに関しては答えようがない。

 そもそもアドルファスなる人物に会ったのは初めてで、顔すらはっきりと覚えていない。もちろん顔はしっかりと見たはずなんだけど、私の意識は彼よりもドアの外にいるキャロライン達に向けられていたからだ。好きな顔だったかどうか……思い出そうとしても全く思い出せない。

 ウィルの言葉の中で、何よりも反論したいのは、私は護衛の人と見つめあってなどいないことだ。もしかしたら目は合ったかもしれないけど、それくらいで見つめ合ったと言われてしまったら、もう誰の顔も見れなくなってしまう。

 黙って私の話を聞いていたウィルは、納得のいかないような顔をしている。

「じゃあアリスがアドルファスを見て顔を赤らめていたのはどうしてなんだい?」

 片方の腕で私を抱きしめたまま、ウィルがもう片方の手で私の頬を撫でるように触った。

「それは……その……アドルファスさんが変なこと言うから……」

「変な事って、アドルファスはアリスに一体どんな話をしたのかな?」

 ウィルは私の事を愛してるから、独占欲が強いって話です。

 なぁんて面と向かって答えられるわけがない。

「ひゃっ!!」

 首筋からゾクっとするような感覚を感じて思わず変な声が出てしまった。
 どう答えようか迷って黙ってしまった私の首にウィルがキスをしたのだ。

「答えられないの?」
 ウィルが質問と同時に首筋にチュッとキスをした。

「答えます。答えますから……」

 膝の上に座っている私の体をウィルがぐいっと動かすと、今度は座ったままお姫様抱っこされている体勢になってしまった。

「うん。教えて」
 私の顔を覗きこむようにしてウィルが微笑んだ。

 途端に体中が熱く火照ってくる。
 ただでさえ言いにくいのに、こんなに見つめられたら余計に言いにくい。

「まだ言いたくならない?」
 言い渋る私の顔に、ウィルの顔が近づいてくる。ウィルの高い鼻先が、私の低い鼻に触れた。

「ア、アドルファスさんは……」

「うん。アドルファスは?」

 鼻先が触れるか触れないかの距離でウィルが言葉を促す。

「ウィルが私の事を愛してるって言ったんです。その証拠に独占欲があるって……」

 恥ずかしくて声が小さくなってしまったけれど、ウィルにはちゃんと聞こえたようだ。拍子抜けしたような顔をしたウィルが、少しだけ顔を離した。

「それであんなに赤い顔をしていたの?」

 無言で頷いた私を見てウィルは「そうか……」と呟いた。

「そんな話であんな顔をするって事は、私の愛情はアリスに伝わってなかったのかもしれないね」

 そう言うとウィルは私の首にちゅうっと長めのキスをした。

「ひゃうっ」
 驚いて変な声が出てもお構いなしに、再びウィルが首にキスをする。

「これからはこうやって、もっと愛情表現をしていかなければいけないみたいだね」

「……これ以上されたら……心臓が爆発して死んじゃいます」

 今だってドキドキしすぎて息苦しいのに。これ以上の刺激は体が受け付けない。

 いっぱいいっぱいの私を見てウィルはクスリと笑った。

「じゃあアリスが死なないよう、少しずつ慣らしていこうか」

 そう言うとウィルは私の唇にそっと口付けた。
 二度目のキスは長くゆっくりで、そしてとても優しいものだった。
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