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05.地獄に落ちろ

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 いよいよ魔王討伐の旅に出る日がやって来た。パーティのメンバーは勇者の私、弓の手練れの金髪の騎士、サポート役である魔術師、最後に深くフードを被り、顔を覆い隠したローブ姿の薬師だった。薬師はメンバーが負傷した際、治癒のために同行するのだと言う。それに加えて三〇人の歩兵からなる小隊が当てられた。いざと言う時勇者を守るためだと説明されたが、大方私が逃げ出さないよう監視する役割なのだろう。

 華々しいラッパの音と人々の歓声に見送られ、私達は城門の前にずらりと並んだ。出発の儀式を行い国王に激励を受けるためだ。選挙に四期目の当選をし、ダルマに目を入れかけたあの日を思い出す。つい数ヶ月前でしかないと言うのに、遙か昔の出来事のように思えた。

 王がうやうやしく進み出ると、私達一人一人に激励を贈る。金髪、長髪、薬師には通り一辺倒の言葉しかかけなかったが、私の前に来たとたんに手を伸ばし、掌を嫌らしく包み込んだ。

「無事魔王を討伐して帰還した折には、私があなたの身柄を預かろう。それが一番安全なのだとあなたもお分かりだろう? 何も心配することはない。王妃にもよく言い聞かせておく」

……つまりは愛人となれば生かしてやると言うことか。

 この私相手によく勃つものだと呆れる。貴様など青二才の小僧でしかないわ。

「光栄ですわ。この旅が終わるまでに心を決めようかと思います」

 私は拳を握り親指を立てると、その方向を地面に向けた。国王が戸惑いながら首を傾げる。

「……? その仕草は何だ?」

 私はわずかにはにかみを含んだ、少女らしい微笑みを浮かべた。

「地球で”行ってきます”の代わりに、愛する方に送るジェスチャーですわ」
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