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第1部
13.紅蓮と遺言(4)
車で洋館から荘田の一軒家に戻る途中、運転席のお父さんは何度もミラー越しにわたしを見た。隣のお母さんはお母さんで黙り込み一言も話さない。
わたしは不穏な空気にまた不安を覚えた。こんな空気をわたしは荘田で感じたことがなかった。ごく普通のお父さんとお母さんとわたし――そんな家族だったはずなのに。何があったのかと聞きたいのに聞いてはいけないとも感じる。
「瑠奈……」
ついにお父さんが口火を切った。けれども、すぐにわたしから目を逸らしてしまう。
「い、いや、何でもない」
言葉を飲み込み大きく溜息を吐く。
「時子……」
お父さんはお母さんの名前を呼び、お母さんは弾かれたように顔を上げた。
「帰ったら話し合おう。瑠奈、お前は先に寝ていなさい」
窓の外を同じ車の灯りが次々と流れていく。わたしはその光景に得体の知れない不吉さを感じ、繰り返し自分に言い聞かせるしかなかった。
大丈夫、きっと大丈夫よ。これ以上は何も起こらない……。
*
それからの一ヶ月をわたしたち家族は一見平和に過ごした。それでも、わたしは両親の異変を感じ取らないわけにはいかなかった。わたしが眠りに着いたのを見計らい、お父さんとお母さんが起き出し、深刻な様子で話し合いをしていたからだ。わたしの部屋は二階にあったけれども、その気配や小声は天井を通じて響いて来た。
その日もやはり二人の話し声が届き、わたしはテディベアを抱き締め固く目を閉じた。
どうか、どうか、どうか、このまま何も起こりませんように。またいつもどおりに暮らしていけますように。
けれども、すべてを破壊する爆弾はそんな願いも虚しく落とされてしまったのだ。
今でもはっきりと思い出すことができる。今でも思い出すたび胸が苦しくなる。悲しくて、悲しくて涙が零れてしまう。
――その事件は金曜日に起こった。
わたしは不穏な空気にまた不安を覚えた。こんな空気をわたしは荘田で感じたことがなかった。ごく普通のお父さんとお母さんとわたし――そんな家族だったはずなのに。何があったのかと聞きたいのに聞いてはいけないとも感じる。
「瑠奈……」
ついにお父さんが口火を切った。けれども、すぐにわたしから目を逸らしてしまう。
「い、いや、何でもない」
言葉を飲み込み大きく溜息を吐く。
「時子……」
お父さんはお母さんの名前を呼び、お母さんは弾かれたように顔を上げた。
「帰ったら話し合おう。瑠奈、お前は先に寝ていなさい」
窓の外を同じ車の灯りが次々と流れていく。わたしはその光景に得体の知れない不吉さを感じ、繰り返し自分に言い聞かせるしかなかった。
大丈夫、きっと大丈夫よ。これ以上は何も起こらない……。
*
それからの一ヶ月をわたしたち家族は一見平和に過ごした。それでも、わたしは両親の異変を感じ取らないわけにはいかなかった。わたしが眠りに着いたのを見計らい、お父さんとお母さんが起き出し、深刻な様子で話し合いをしていたからだ。わたしの部屋は二階にあったけれども、その気配や小声は天井を通じて響いて来た。
その日もやはり二人の話し声が届き、わたしはテディベアを抱き締め固く目を閉じた。
どうか、どうか、どうか、このまま何も起こりませんように。またいつもどおりに暮らしていけますように。
けれども、すべてを破壊する爆弾はそんな願いも虚しく落とされてしまったのだ。
今でもはっきりと思い出すことができる。今でも思い出すたび胸が苦しくなる。悲しくて、悲しくて涙が零れてしまう。
――その事件は金曜日に起こった。
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