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第1部
26.白雪と薔薇(9)
「え……」
思いがけない答えにわたしは驚く。陽は、わたしの弟は、魅惑的な微笑みを浮かべ、薔薇の間を真っ直ぐに横切りわたしの前に立った。
「これでお前も俺だけを見てくれるだろう?」
陽の黒い瞳の奥に欲と、情と、恋と、愛と、憎しみが凝る。陽はわたしの肩を強く掴み目を覗き込んだ。ぎり、と指が肉に食い込む。
「い……たっ」
わたしは痛みに身を捩った。
「お前は昔からそうだった。何も知らずに笑っている」
けれども、その笑顔が好きだったと陽は呟く。
「その笑顔さえあれば耐えられた。なのに、お前は俺から離れていこうとする。俺以外の男を見て、俺以外の男を愛して」
そんなことが許せるものかと陽はわたしを胸に抱いた。風のように優しく柔らかな一樹君の抱擁とは違う。囲い込み、締め上げ、殺してしまえと言わんばかりに。わたしは身動きすら取れなかった。
「あ……きら。苦し……」
「瑠奈、この世の誰よりもお前が好きで、好きで、憎らしいよ。だから決めたんだ」
――お前を、俺と同じ地獄に叩き落としてやる。
陽は腕の力を緩めわたしの頬に手を添えた。形のよい指が愛しげにわたしの顔の輪郭を辿る。
「瑠奈、覚えているか? 俺はもうお前を何度も抱いた。一度だけじゃない。何度もだ。お前の唇も、胸も、体の奥も、俺だけが知っている」
わたしは驚き陽を見上げる。信じられないし、信じたくない。陽がわたしを抱いただなんて。
「う、そ……」
だって、わたし達は双子の姉弟だ。この世で誰よりも血が近い。そんな禁忌を陽が犯すはずがない。
「あの夜、お前はあの男の名前を何度も呼んでいたな。同じ数だけお前を抱いたよ」
一樹君の名前を何度も呼んだと言うフレーズに、わたしは頭がキンと痛むのを感じた。いくつものシーンが脳裏を過ぎる。わたしに覆い被さる黒い影、わたしの体の芯を貫く熱い固まり、そしてわたしの耳元に囁く瑠奈、と言う低く艶やかな声。
あの声は、あの声は、あの声は、一樹君のものではなかった。そう、あの声は、生まれる前から共に過ごした、この世でたった一人の血を分けた弟の――。
「ひっ……」
体ががたがたと震え始める。
わたしは、弟に、陽に抱かれた。神様に許されない行為をしたのだ。
「……思い出したか?」
陽はぞっとするほど美しい微笑を浮かべた。
「生まれる前から瑠奈だけを愛していた。なのに、世界でたった一人俺だけが、お前と結ばれる資格を持たない」
――そしていつかは自分以外の男に奪われてしまう。そんなことは耐えられないし許せない。ならばこの世の理を己の力で曲げてしまえ。
陽はそう言い切りわたしの後頭部に手を回した。そのまま噛み付くようなキスをする。
「ん……んっ!!」
必死に抵抗したけれども強引に唇を割り開かれてしまう。熱い舌と舌が別箇の生き物のように絡み合い、隠微な水音と共に唾液が混じり合った。吐息すら奪われわたしは苦しさに涙を流す。
やがて陽はゆっくりと唇を離し、わたしを優しい眼差しで見下ろした。
「瑠奈、どれだけ傷付けても足りないくらい、お前が好きだよ」
次の瞬間お腹に鈍い痛みを感じる。見ると、陽の拳が深くめり込んでいた。
「あ……?」
わたしは力を失い陽に寄りかかりくずおれる。意識を失うその間際ですら、陽がこんなことをするだなんて信じられなかった。
わたしは暗くなり行く中で願う。
これは夢だ。どうか夢であって。悪夢ですらわたしにはきっと優しい。
思いがけない答えにわたしは驚く。陽は、わたしの弟は、魅惑的な微笑みを浮かべ、薔薇の間を真っ直ぐに横切りわたしの前に立った。
「これでお前も俺だけを見てくれるだろう?」
陽の黒い瞳の奥に欲と、情と、恋と、愛と、憎しみが凝る。陽はわたしの肩を強く掴み目を覗き込んだ。ぎり、と指が肉に食い込む。
「い……たっ」
わたしは痛みに身を捩った。
「お前は昔からそうだった。何も知らずに笑っている」
けれども、その笑顔が好きだったと陽は呟く。
「その笑顔さえあれば耐えられた。なのに、お前は俺から離れていこうとする。俺以外の男を見て、俺以外の男を愛して」
そんなことが許せるものかと陽はわたしを胸に抱いた。風のように優しく柔らかな一樹君の抱擁とは違う。囲い込み、締め上げ、殺してしまえと言わんばかりに。わたしは身動きすら取れなかった。
「あ……きら。苦し……」
「瑠奈、この世の誰よりもお前が好きで、好きで、憎らしいよ。だから決めたんだ」
――お前を、俺と同じ地獄に叩き落としてやる。
陽は腕の力を緩めわたしの頬に手を添えた。形のよい指が愛しげにわたしの顔の輪郭を辿る。
「瑠奈、覚えているか? 俺はもうお前を何度も抱いた。一度だけじゃない。何度もだ。お前の唇も、胸も、体の奥も、俺だけが知っている」
わたしは驚き陽を見上げる。信じられないし、信じたくない。陽がわたしを抱いただなんて。
「う、そ……」
だって、わたし達は双子の姉弟だ。この世で誰よりも血が近い。そんな禁忌を陽が犯すはずがない。
「あの夜、お前はあの男の名前を何度も呼んでいたな。同じ数だけお前を抱いたよ」
一樹君の名前を何度も呼んだと言うフレーズに、わたしは頭がキンと痛むのを感じた。いくつものシーンが脳裏を過ぎる。わたしに覆い被さる黒い影、わたしの体の芯を貫く熱い固まり、そしてわたしの耳元に囁く瑠奈、と言う低く艶やかな声。
あの声は、あの声は、あの声は、一樹君のものではなかった。そう、あの声は、生まれる前から共に過ごした、この世でたった一人の血を分けた弟の――。
「ひっ……」
体ががたがたと震え始める。
わたしは、弟に、陽に抱かれた。神様に許されない行為をしたのだ。
「……思い出したか?」
陽はぞっとするほど美しい微笑を浮かべた。
「生まれる前から瑠奈だけを愛していた。なのに、世界でたった一人俺だけが、お前と結ばれる資格を持たない」
――そしていつかは自分以外の男に奪われてしまう。そんなことは耐えられないし許せない。ならばこの世の理を己の力で曲げてしまえ。
陽はそう言い切りわたしの後頭部に手を回した。そのまま噛み付くようなキスをする。
「ん……んっ!!」
必死に抵抗したけれども強引に唇を割り開かれてしまう。熱い舌と舌が別箇の生き物のように絡み合い、隠微な水音と共に唾液が混じり合った。吐息すら奪われわたしは苦しさに涙を流す。
やがて陽はゆっくりと唇を離し、わたしを優しい眼差しで見下ろした。
「瑠奈、どれだけ傷付けても足りないくらい、お前が好きだよ」
次の瞬間お腹に鈍い痛みを感じる。見ると、陽の拳が深くめり込んでいた。
「あ……?」
わたしは力を失い陽に寄りかかりくずおれる。意識を失うその間際ですら、陽がこんなことをするだなんて信じられなかった。
わたしは暗くなり行く中で願う。
これは夢だ。どうか夢であって。悪夢ですらわたしにはきっと優しい。
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