太陽と月の禁断

東 万里央(あずま まりお)

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第1部

31.暗闇と微睡(4)

 先生は静かに語り始める。

 それはわたし達双子の一〇歳の誕生日――その前日の出来事だった。先生はいつものように洋館に呼び出され、陽の治療を行うことになっていた。気分が塞ぎできれば断りたかったのだと言う。樋野のパパがよりにもよって実子に、それも息子に暴行を繰り返す神経が理解できなかった。

 愛する女は妻だけであり、妻だけしかいらない。なのに妻は子どもを産んだばかりに、二度とは抱けない身体になってしまった――だから妻を抱く代わりと妻を壊した罰として、瓜二つの息子の尊厳を奪う――そんな神経など理解したくもなかった。

 指定の部屋である「金枝の間」に出向くと、扉の向こうから陽の幼い声が聞こえた。先生はその場に立ち止り息を顰めたのだそうだ。続いて床に何かが崩れ落ちる音と、酷薄で歪み切った冷たい声――紛れもなく血の繋がる親と子のやりとりだった。

『もう……嫌だっ。こんなの、嫌だっ……!!あんた、変だよ。狂ってるよ!!』
『嫌と言うなら望みどおりに止めてやろう。ああ、そう言えば明日、瑠奈が来るな。お前と一緒の誕生日パーティを楽しみにしていたぞ』

 数秒の間が空き、陽が力の限りに叫ぶ。

『……っ!! る、瑠奈に何をするつもりだっ!!』
『実の姉に恋などするお前の目を覚ましてやろうと思ってな。いいか、あれはお前の双子の姉でその事実は一生変えられん』
『……っ』
『ふん……多少知能指数が高いとは言え所詮は子どもか。ああ、お前を荘田にやり瑠奈を樋野に戻すのでもいいな。あれも最近女らしくなってきたから悪くない。真理子は悲しむだろうがいずれは納得するだろう。それとも荘田への援助を打ち切るか? あの馬鹿夫婦も瑠奈も路頭に迷うだろうな』

 金枝の間に悲鳴が響き渡った。

『や……やめろっ!! やめてくれっ!! このままでいい!! 瑠奈には手を出さないで!! 何もしないでくれっ……!!』



*


「――さて、私の昔話もここまでです」

 先生はわたしの手を離しふと目を細めた。

「お嬢様、ご存知ですか。どれだけ小さな世界であれ、そこには生贄スケープゴートが必要なんです」
「生贄……?」

 わたしは目を瞬かせその意味を問うた。先生は小さく頷き天井を見上げる。

「神が神たるために、その怒りと、哀しみと、憎しみを一身に受ける生贄です。この洋館では先代が神であり陽様が生贄だった。それだけのお話ですよ」

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