太陽と月の禁断

東 万里央(あずま まりお)

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幕間

M5.星空と初恋(5)

 それから季節は瞬く間に過ぎ去り、僕は高校の卒業式を迎えた。無事合格していればの話だが、四月からは大学のある京都で下宿をすることになる。だから、高校最後となるその日に、彼女に気持ちを伝えようと決めた。



*



 卒業式の終わりは不思議な感覚になる。爽やかな寂しさ、とでも言えばいいのだろうか。

 僕はクラスメートや友人との記念撮影を済ませた後、同級生、後輩の女子に一斉に囲まれ、制服がズタボロになるほどもみくちゃにされてしまった。

――すぐに荘田さんに会いたいと思っていたのに、

「先輩、また遊びに来てくださいね!絶対、絶対ですよ!」
「四十川君……ううっ……もうこれでお別れなんて」

 しみじみとした別れなど望むべくもない。僕はどうにか彼女らを捌き宥めたあと、校門脇の桜の木の下で待っていると連絡のあった、天文部の面子の元へと向かった。ちなみに連絡は松本さんからである。

『部員一同からのプレゼントがありますので絶対きてくださいね!』

 いったいプレゼントとは何だろう。花束はこれ以上貰っても困るのだけれど。

 僕が卒業証書の筒を片手にそこに向かうと、まだ綻びかけてすらいない桜の木の下、栗色の長い髪を風に流す荘田さんの姿があった。僕の気配に気が付いたのか、ふと振り返り深々と頭を下げる。

「あ、部長だ。卒業、おめでとうございます」
「荘田さんひとり?他の部員は?」

 荘田さんは途方に暮れたと言ったように辺りを見渡す。

「五分ほど前に用事があるからって皆どこかに行っちゃったんです」
「何だって?」
「それから松本さんから部長に伝言をもらいました。”プレゼントでーす”って言っておいてねって。けど、わたし、何も預からなかったんですけど……?」
「……」

 やられた、と僕は天を仰いだ。

――どうやら僕の気持ちは僕より前に部員に知られていたらしい。

 間抜けだなと思いながらも笑いが込み上げて来る。

「あの、部長?」

 僕は首を傾げる荘田さんに向き直った。一メートルも無いこの距離が今はもどかしい。

 もっと君に近付けるだろうか。近付くことが許されるだろうか?

「荘田さん」

 僕は荘田さんを真っ直ぐに見つめた。

「僕は、君が好きです」

 荘田さんは栗色の目を大きく見開き僕を見上げる。僕はそんな彼女を見下ろし微笑みかけた。

「君も、僕を好きになってくれませんか?」

 彼女の頬がぱっと桜色に染まる。小さな口が開かれ、彼女は僕の告白への答えを言った。

「――」
「……!!」

 喜びが胸に満ち溢れるまま顔を上げる。すると、荘田さんの背後にある校舎の影から、五つの頭がにゅっと団子のように顔を出し、ピースを振り唇だけで上から順に一文字一文字を言った。

『そ・つ・ぎ・よ・う』

 次の瞬間、五人の部員が一斉に飛び出しわっと歓声を上げた。

「「「「「おっめでとーございまーす!!」」」」」



*



 のちに瑠奈に僕のどこが好きになったのかと聞くと、合宿の宿泊先で見せた寂しそうな表情と、従弟にもらったテディベアの毛色そっくりの、僕の薄茶の髪が気に入ったのだそうだ。

……。

 まあ、理由は何でもいい。僕らはこうして恋人同士になった。



*



 これが僕らの始まりで初恋の終わりの始まり――そして六年後の再会の始まりでもあった。
感想 3

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