太陽と月の禁断

東 万里央(あずま まりお)

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第2部

05.炎天と邂逅(5)

「どうも、部長。お久しぶりです」

 松本さんは深々と頭を下げた。僕も釣られて深々と頭を下げる。

「スーツで来てくれと言われた時には驚いたよ」
「その恰好なら父兄だとごまかせるので。どうぞそちらの椅子におかけください」

 松本さんはパイプ椅子のひとつを引いた。僕が言われるままに座ると、松本さんも長机を挟んだその向かいの椅子に座る。六年ぶりだから仕方がないのだろうが、松本さんの態度は慇懃無礼であるだけではなく、極めて口調が冷ややかだった。僕は彼女に何をしてしまったのだろうか。直球で聞くのも憚られ、どうでもいい質問をしてしまう。

「松本さん」
「何ですか」
「高校時代もジャージが多かったけど、今もどうしてその恰好なんだ?」

 そう、松本さんはさすがに高校生用のものではないが、どこからどう見てもジャージとしか呼べない服を着ていた。松本さんは淡々と仕方がないでしょうと呟く。

「天文部だけじゃなくて、卓球部の顧問も兼ねているんです。これが一番動きやすいんですよ。今日ももうすぐ練習ですし」
「そ、そうか……」

 そう、松本さんは母校である高校の現国の教師、更には天文部の顧問となっていた。そして、かつての天文部の部室に来いと僕を呼び出したのである。相変わらず六畳一間の小汚い部屋だが、現在でも立派に天文部として機能しているらしい。部員も十人に増え賑やかにやっているのだそうだ。

 松本さんはやはり冷やかに僕を見つめた。

「部長は水も滴るいい男になりましたね。背広ガチで似合っていますよ。ただ昔に比べて軽くなったのが残念です。コンタクトにブランドスーツだなんて、いかにも営業って感じでチャラいです。昔はインテリ生徒会長系イケメン眼鏡男子風だったのに。実際はただの天文オタクでしたけど」
「松本さん、何度も言うけど僕は営業じゃない」

 僕は頭が痛くなるのを感じた。なぜここまでかつての後輩に、敵意を持たれるのだろうか。

「……松本さん」
「何ですか」
「君がそんな態度でいることと、年賀状の返事も来なかったこと、この2つは同じ原因があると考えていいのかな」
「……」

 松本さんは黙り込み長机に目を落とした。それが答えと言うことなのだろう。

「メッセージでも書いたけれども、昨日病院で瑠奈に会った。どこか体を壊しているのか?」
「……」
「それとも家族の具合が悪いのか?」

 松本さんは顔を上げ真っ直ぐに僕を見つめた。

「部長、折り入ってお話があるんです。やっぱりこんなことはよくないと思うんです」

 ようやく口を開き重々しく語り始める。

「後輩づてに瑠奈ちゃんが部長と別れたっていうことと、ハメ取りばら蒔きの事件のあらましを聞いた時、わたしはぶっちゃけ部長と瑠奈ちゃんも、普通のカップルだったんだなと思っただけだったんですよ。別れるほどのことじゃないと感じました。
 少女漫画みたいなピュアっピュアなヒーローとヒロインで、ありえない甘酸っぱい恋をしていると思っていたのに……しっかりやることはやっていたんだって逆に感心したんですから。そりゃあ2人の愛の記念写真が、PCのウイルス感染でネットに流れたって知った時は、どんだけ馬鹿だよって思いましたけど」
「ま、松本さん……」

 昔から遠慮会釈のない物言いの子だったが、教師になりそれに磨きがかかっている。

「あの後部長が相手は自分だと名乗り出て学校に説明にまできたから、瑠奈ちゃんはどうにか退学処分にはならなかったそうです。でも、結局そのまま高校を辞めたって聞きました。どうしたって居辛くはなりますよね……。この辺りは知らなかったですか?」
「……」

 僕は小さく首を振るしかなかった。僕はそれから瑠奈と別れ部外者となったからだ。また、あの男からの言葉が僕にも後悔とダメージを与え、癒えるのには距離と時間とが必要だった。松本さんは溜息を小さく吐き話を続ける。

「当時のわたしは心配で何度か瑠奈ちゃんのお家を訪ねました。初めにあのお屋敷を見た時には腰を抜かしそうになりましたよ!瑠奈ちゃんがお嬢様だったなんで知らなかったから。でも、いつも使用人の人にブロックされて会わせてもらえなくて……」

 そして、翌年たまたまお姉さんの見舞いに行った大阪の病院で、松本さんは瑠奈が退学をした本当の理由を知ることになった。そこは個人経営のマタニティークリニックで、地元の妊婦に大人気の施設らしい。

「マタニティークリニック……?」
感想 3

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