60 / 90
第2部
15.黄昏と枯葉(1)
それから僕は土曜日ごとに神戸に帰郷し、瑠奈と、時には松本さんも交え大地君を見舞いに通うようになった。
大地君は人見知りをしない性格で、あっと言う間に僕にも懐き、病室を訪ねるごとにぱっと顔を輝かせ、「おにいちゃん」と手を差し伸べてくるようになった。特に体調のよい時僕に高々と抱き上げられ、病室の窓の外を見るのが気に入ったらしい。ベッドから見上げる景色と全く違うのだと言う。
「――おにいちゃん、またそとをみたい」
その日も僕は大地君にせがまれたので、威勢良く「よし!」と答えるが早いか、小さな身体を一気にベッドから抱き上げた。大地君は甘え上手なところも昔の瑠奈を連想させる。
「そらっ!」
「わっ!あははっ!」
大地君が笑いながら僕の首に手を回した。瑠奈も「仕方ないなぁ」と笑いながら「ありがとう」と礼を述べる。それから僕に頼まれた缶コーヒーを買いに病室をいったん出ていった。大地君は中庭を興味津々で見下ろしている。
「おにいちゃん、みてみて。あのきにとりのすがあるよ。からっぽだけど、またくるかなぁ?」
「ああ、あれは鳩の巣か? 確かにここは絶好の観察ポイントだ。秋にまた子育てに来るかもな」
「おにいちゃん、いっしょにみようよ。ひな、いちどでいいからみてみたい」
そこに、大地君の担当である医師がやって来た。加賀さんと言う先生であり、まだ 三十代前半なのだそうだ。
「失礼しますね」
加賀先生はパンパンと手を二度叩くと、ベッドに近付き素早く敷布を整えた。残念ながら一時間の面会時間が終わったのだ。
「はいはーい。大地君、お休みしようね」
「えー……はやいよー……」
大地君は救いを求めるように僕を見上げた。僕は苦笑し大地君の栗色の髪を撫でる。
「また来週来るから。今日はもう休もう」
「はぁい……」
大地君はしぶしぶと、それでも素直に頷いた。僕は大地君をベッドに横たえ、胸までタオルケットをかける。
「荘田さんは?」
僕は先生を振り返り事情を説明した。
「買い物に行ったのでしばらく時間がかかるでしょう。ところで少しだけお話をしたいのですがいいですか」
実は瑠奈に頼んだコーヒーは病院の自販機にはない。ただ義理堅く律儀な彼女のことだから、きっと外のコンビニにまで探しに行くことだろう。それを踏まえてあえてその銘柄を頼んだのだ。
先生は戸惑いながらもはいと頷く。
「ええ、それは構いませんが……」
「では、さっそく」
僕は先生に続き病室を出て行った。
「大地君、またな」
扉を閉める前にベッドを振り返ると、大地君は大きく頷き「約束だよ」と笑った。
「ぼく、いいこにして、まってる」
大地君は人見知りをしない性格で、あっと言う間に僕にも懐き、病室を訪ねるごとにぱっと顔を輝かせ、「おにいちゃん」と手を差し伸べてくるようになった。特に体調のよい時僕に高々と抱き上げられ、病室の窓の外を見るのが気に入ったらしい。ベッドから見上げる景色と全く違うのだと言う。
「――おにいちゃん、またそとをみたい」
その日も僕は大地君にせがまれたので、威勢良く「よし!」と答えるが早いか、小さな身体を一気にベッドから抱き上げた。大地君は甘え上手なところも昔の瑠奈を連想させる。
「そらっ!」
「わっ!あははっ!」
大地君が笑いながら僕の首に手を回した。瑠奈も「仕方ないなぁ」と笑いながら「ありがとう」と礼を述べる。それから僕に頼まれた缶コーヒーを買いに病室をいったん出ていった。大地君は中庭を興味津々で見下ろしている。
「おにいちゃん、みてみて。あのきにとりのすがあるよ。からっぽだけど、またくるかなぁ?」
「ああ、あれは鳩の巣か? 確かにここは絶好の観察ポイントだ。秋にまた子育てに来るかもな」
「おにいちゃん、いっしょにみようよ。ひな、いちどでいいからみてみたい」
そこに、大地君の担当である医師がやって来た。加賀さんと言う先生であり、まだ 三十代前半なのだそうだ。
「失礼しますね」
加賀先生はパンパンと手を二度叩くと、ベッドに近付き素早く敷布を整えた。残念ながら一時間の面会時間が終わったのだ。
「はいはーい。大地君、お休みしようね」
「えー……はやいよー……」
大地君は救いを求めるように僕を見上げた。僕は苦笑し大地君の栗色の髪を撫でる。
「また来週来るから。今日はもう休もう」
「はぁい……」
大地君はしぶしぶと、それでも素直に頷いた。僕は大地君をベッドに横たえ、胸までタオルケットをかける。
「荘田さんは?」
僕は先生を振り返り事情を説明した。
「買い物に行ったのでしばらく時間がかかるでしょう。ところで少しだけお話をしたいのですがいいですか」
実は瑠奈に頼んだコーヒーは病院の自販機にはない。ただ義理堅く律儀な彼女のことだから、きっと外のコンビニにまで探しに行くことだろう。それを踏まえてあえてその銘柄を頼んだのだ。
先生は戸惑いながらもはいと頷く。
「ええ、それは構いませんが……」
「では、さっそく」
僕は先生に続き病室を出て行った。
「大地君、またな」
扉を閉める前にベッドを振り返ると、大地君は大きく頷き「約束だよ」と笑った。
「ぼく、いいこにして、まってる」
あなたにおすすめの小説
触れられないはずの私が、ただ一人の彼にだけ心も体も許してしまいました
由香
恋愛
男性に触れられると体調を崩す令嬢リリア。
そんな彼女にとって唯一“触れられる”存在は――幼なじみの公爵令息レオンだけだった。
手を取られ、抱き寄せられ、当たり前のように触れられる日々。
それがどれほど特別なことなのか、彼女はまだ知らない。
やがて政略結婚の話が持ち上がり、“触れられない相手との結婚”か、“彼に触れられる人生”かを選ぶことに。
「お前に触れていいのは俺だけだ」
逃げ場のない独占と、甘すぎる溺愛。
これは、触れられないはずの少女が、ただ一人にだけすべてを許していく物語。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす
小木楓
恋愛
完結しました✨
タグ&あらすじ変更しました。
略奪された大納言家の香子を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。
「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」
「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」
大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。
しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。
強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。
夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。
恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……?
「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」
逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。
それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。
「一生、私の腕の中で溺れていろ」
守るために壊し、愛するために縛る。
冷酷な仮面の下に隠された、
一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。
★最後は極上のハッピーエンドです。
※AI画像を使用しています。
皇帝の愛妾を痛めつけたら、相手は皇帝の姉でした
由香
恋愛
後宮で最も愛された妃・麗華。
ある日、皇帝に寵愛される“謎の女”を敵と誤解し、手を下してしまう。
だが――
その正体は、皇帝の姉だった。
「……遅かったな」
すべてを失った後で知る、取り返しのつかない真実。
愛も地位も壊れた先に残るのは、静かな後悔だけ。
これは、「愛されたかった女」が、すべてを壊すまでの物語。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
藤白ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です!
https://estar.jp/novels/26513389
魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて
アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。
二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――