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第2部
30.幸福と果実(4)
僕と瑠奈はそれから産婦人科へ行き、医師との入念な相談と検診の上、子どもを作ることを決意した。大地の早産のこともあり不安だったのだが、現在の瑠奈には血液にも内臓にも問題はないと、そうゴーサインをもらったのだ。半年に渡り励んだ結果無事瑠奈は妊娠し、それから九ヶ月後に僕は出産に立ち会った。
処置室に元気のいい産声が響き渡る。
『はい、お父さん、どうぞ』
術衣を着た金髪の看護師から、まずひとり目の赤ん坊が手渡される。出生前診断で聞いた通りに可愛い女の子だ。僕と同じ薄い茶の髪の色をしていた。それから二十分後にはふたり目の産声が重なり、その子は分娩台に横たわる瑠奈に手渡された。こちらも女の子でひとり目と同じ顔だ。その子は瑠奈の胸元に置かれ、プルプルと動いている。
そう、僕らに授けられたのは一卵性の双子の女の子だった。
改めて生まれたばかりの娘を見つめる。初めて見る温かく小さな命と紅葉のような小さな手――僕は感動のあまり目が潤むのを感じた。
もうひとりの赤ん坊を抱く瑠奈の顔を覗き込む。その顔は誰よりもきれいで輝いて見えた。
「瑠奈、ありがとう」
僕は瑠奈の額にキスをする。瑠奈は汗を滲ませながら、赤ん坊と僕を見上げた。
「わたしこそ、ありがとう……」
僕はこの時喜びだけではなく胸を撫で下ろしていた。これで瑠奈は僕のもとから離れることはないと、恐らくあの男と同じ安堵を抱いていたのだ。その事実に気が付いたのは十八年後のことになる。
それから二日後、僕は瑠奈と双子をマンションへ連れ帰り、待ち構えていた大地とベビーシッターに笑顔で迎えられた。大地の提案で、双子の娘は杏奈、梨奈と名付けた。僕の名前にある「樹」から木に実る果実を連想し、瑠奈の名前からも一文字取ったのだそうだ。僕も瑠奈もこの命名が大いに気に入り、ほぼ一発で決まってしまった。
その夜僕らは三人でベビーベッドに並んで眠る双子たちを見下ろした。甘いミルクの香りがふんわりと辺りに漂い、僕たちをいっそう優しい気分にさせた。
「可愛いね」
大地がニコニコと笑い杏奈、梨奈の頭をそれぞれ撫でた。
「僕の妹だ!」
「そうね。大事にしようね」
瑠奈はそんな大地の肩を抱く。
「一気に五人になったなぁ」
僕はそんな瑠奈の肩を抱いた。
――幸せだった。
僕はこの幸福が続くと信じて疑わなかった。
『いつか、返してもらいます』
あの男の最後の言葉は記憶の海に封印し、深い底にまで沈めてしまった。
『必ず返してもらう。瑠奈を……迎えに行く』
処置室に元気のいい産声が響き渡る。
『はい、お父さん、どうぞ』
術衣を着た金髪の看護師から、まずひとり目の赤ん坊が手渡される。出生前診断で聞いた通りに可愛い女の子だ。僕と同じ薄い茶の髪の色をしていた。それから二十分後にはふたり目の産声が重なり、その子は分娩台に横たわる瑠奈に手渡された。こちらも女の子でひとり目と同じ顔だ。その子は瑠奈の胸元に置かれ、プルプルと動いている。
そう、僕らに授けられたのは一卵性の双子の女の子だった。
改めて生まれたばかりの娘を見つめる。初めて見る温かく小さな命と紅葉のような小さな手――僕は感動のあまり目が潤むのを感じた。
もうひとりの赤ん坊を抱く瑠奈の顔を覗き込む。その顔は誰よりもきれいで輝いて見えた。
「瑠奈、ありがとう」
僕は瑠奈の額にキスをする。瑠奈は汗を滲ませながら、赤ん坊と僕を見上げた。
「わたしこそ、ありがとう……」
僕はこの時喜びだけではなく胸を撫で下ろしていた。これで瑠奈は僕のもとから離れることはないと、恐らくあの男と同じ安堵を抱いていたのだ。その事実に気が付いたのは十八年後のことになる。
それから二日後、僕は瑠奈と双子をマンションへ連れ帰り、待ち構えていた大地とベビーシッターに笑顔で迎えられた。大地の提案で、双子の娘は杏奈、梨奈と名付けた。僕の名前にある「樹」から木に実る果実を連想し、瑠奈の名前からも一文字取ったのだそうだ。僕も瑠奈もこの命名が大いに気に入り、ほぼ一発で決まってしまった。
その夜僕らは三人でベビーベッドに並んで眠る双子たちを見下ろした。甘いミルクの香りがふんわりと辺りに漂い、僕たちをいっそう優しい気分にさせた。
「可愛いね」
大地がニコニコと笑い杏奈、梨奈の頭をそれぞれ撫でた。
「僕の妹だ!」
「そうね。大事にしようね」
瑠奈はそんな大地の肩を抱く。
「一気に五人になったなぁ」
僕はそんな瑠奈の肩を抱いた。
――幸せだった。
僕はこの幸福が続くと信じて疑わなかった。
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