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第2部
36.夕陽と青空(5)
その翌月の十月も終わりごろに、僕は約二十年ぶりに日本へ帰った。
日本は一見何も変わらずに見えて、やはりあちらこちらが変わっていた。成田に代わって羽田が日本を代表する国際空港となり、滑走路がかつてないほど増やされ、売店も一大ショッピングモールとなっている。アメリカに負けず劣らず、様々な人種が空港内を行き来していた。乗り継ぎ先の神戸空港も近代的に改装されており、浦島太郎になった錯覚に陥った。
神戸空港から神戸駅へと更に移動し、ホテルに荷物を置き一泊する。翌日は約束の時間になるまで神戸をぶらぶらと散策した。異人館付近はそれほど変わっていない。変わらないことが価値となっているのだろう。その代わりを果たすかのように、庭や道の木々の葉は赤や黄に色づき季節を僕に伝える。
途中、恋人時代に瑠奈と時折立ち寄ったカフェにも入った。イタリアのバールをイメージしたカフェであり、現在も順調に運営されていた。店内が満員だったため、路上に面するテラス席を選んだが、ここのコーヒーの味も変わらなかった。アメリカのコーヒーとは違い、苦味の聞いた懐かしい味だ。瑠奈はここにたっぷりミルクと砂糖を入れていた。
瑠奈の声がどこからか聞こえる気がする。目の前に十七歳の瑠奈の幻が一瞬現れて消えた。幻の瑠奈はテーブルに頬杖を突き、太陽のような笑顔を浮かべていた。
『一樹君、ブラック飲めるなんてすごいね! わたし、お砂糖二つは入れなきゃダメなんだ』
「……」
僕はカップを置き、ジャケットの懐に入れた「あるもの」に触れる。そして、心の中で語りかけた。
――瑠奈、ずっと帰りたかっただろうに、僕の器が小さかったばかりに悪かった。今から君の行きたかった場所へ行こう。
それから瑠奈の樋野のご両親の眠る墓地へと向かう。百二十年の歴史のある教会の墓地の入り口だ。石造りの壁の狭間に開け放たれた門があり、広い敷地と白い墓石が並んでいるのが見える。僕は今日この入口であの人と約束をしていた。
腕時計に目を落とし時間を確認する。午後二時五分前――そろそろ来てもいいはずだ。僕は顔を上げ道の向こうを眺めた。先にコツコツと固い靴の音が聞こえる。続いて、背の高い男が姿を現した。その頭には白いものが混じっている。お互い確実に年を取ったなと苦笑した。
「お久しぶりです――高野さん」
僕は腰を曲げ深々と頭を下げた。男も、高野さんもまた深々と頭を下げる。
「いいえ、こちらこそお久しぶりです」
高野さんはご案内しましょうと言い、僕を先導し門の中へと入った。
日本は一見何も変わらずに見えて、やはりあちらこちらが変わっていた。成田に代わって羽田が日本を代表する国際空港となり、滑走路がかつてないほど増やされ、売店も一大ショッピングモールとなっている。アメリカに負けず劣らず、様々な人種が空港内を行き来していた。乗り継ぎ先の神戸空港も近代的に改装されており、浦島太郎になった錯覚に陥った。
神戸空港から神戸駅へと更に移動し、ホテルに荷物を置き一泊する。翌日は約束の時間になるまで神戸をぶらぶらと散策した。異人館付近はそれほど変わっていない。変わらないことが価値となっているのだろう。その代わりを果たすかのように、庭や道の木々の葉は赤や黄に色づき季節を僕に伝える。
途中、恋人時代に瑠奈と時折立ち寄ったカフェにも入った。イタリアのバールをイメージしたカフェであり、現在も順調に運営されていた。店内が満員だったため、路上に面するテラス席を選んだが、ここのコーヒーの味も変わらなかった。アメリカのコーヒーとは違い、苦味の聞いた懐かしい味だ。瑠奈はここにたっぷりミルクと砂糖を入れていた。
瑠奈の声がどこからか聞こえる気がする。目の前に十七歳の瑠奈の幻が一瞬現れて消えた。幻の瑠奈はテーブルに頬杖を突き、太陽のような笑顔を浮かべていた。
『一樹君、ブラック飲めるなんてすごいね! わたし、お砂糖二つは入れなきゃダメなんだ』
「……」
僕はカップを置き、ジャケットの懐に入れた「あるもの」に触れる。そして、心の中で語りかけた。
――瑠奈、ずっと帰りたかっただろうに、僕の器が小さかったばかりに悪かった。今から君の行きたかった場所へ行こう。
それから瑠奈の樋野のご両親の眠る墓地へと向かう。百二十年の歴史のある教会の墓地の入り口だ。石造りの壁の狭間に開け放たれた門があり、広い敷地と白い墓石が並んでいるのが見える。僕は今日この入口であの人と約束をしていた。
腕時計に目を落とし時間を確認する。午後二時五分前――そろそろ来てもいいはずだ。僕は顔を上げ道の向こうを眺めた。先にコツコツと固い靴の音が聞こえる。続いて、背の高い男が姿を現した。その頭には白いものが混じっている。お互い確実に年を取ったなと苦笑した。
「お久しぶりです――高野さん」
僕は腰を曲げ深々と頭を下げた。男も、高野さんもまた深々と頭を下げる。
「いいえ、こちらこそお久しぶりです」
高野さんはご案内しましょうと言い、僕を先導し門の中へと入った。
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