太陽と月の禁断

東 万里央(あずま まりお)

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第2部

41.大地と海(3)

「ねえ、大地、せっかくなんだし全部の部屋を見ておこう」

 七海の声に我に返る。

「見取り図持っているんでしょう?」
「ああ、そうだな」

 僕は答えながら階段を上り七海に追い付いた。今日の僕は少々感傷的になっている。この洋館がそうさせているのだろうか。

 僕と七海はともに二階を目指した。不意に七海が僕を見上げ問い掛ける。

「そうだ、お義父さん前体調崩したそうだけど、大丈夫?」
「ああ、風邪と軽い肺炎。一日で治ったよ。すぐ入院させたからね」

 母さんがガンで闘病の末に死んで以来、僕は家族の健康に前にも増して敏感になってしまった。とは言え、どれだけ細心の注意を払おうが、完全に予防しきれないのが病気だ。もっともそれらに負けるつもりは一切ないが。僕は大真面目にこの世のありとあらゆる病気の撲滅を目指しているのだ。

 七海は僕の説明にほっと胸を撫で下ろしている。

「そう、よかった。杏奈ちゃんも梨奈ちゃんも、進学で家を出ちゃって、家にはお義父さんひとりしかいないじゃない。ちょっと心配していたの。お義父さんは再婚は……考えていないの?」

 さすがにその問いには僕も首を振るしかない。

「さすがに母さんが亡くなってまだ三年だからね。そんな気にはなれないんだと思う」

 七海はでも、と首を傾げる。

「前秘書のマンディさんだっけ?その人がお義父さんを好きみたいだって言っていたけど、あれから進展は何もないの?」
「父さんがその気じゃないからな……。好きな人ができても仕方ないって、妹たちとも言っているんだけどね」

 僕はニスで磨き込まれた手すりを掴んだ。

「僕と父さんはよく似ているから分かるんだよ。父さんはまだ母さんが好きなんだと思う」

 そう、父さんは昔からよく「大地は母さん似だな」と言っていたが、母さんや杏奈に梨奈、僕たち家族をよく知る人は、皆僕は父さんそっくりだと言っていた。考え方や性格、ふとした仕草が同じなのだそうだ。

「……そう」

 七海はあと一段を残し立ち止まる。

「何だか羨ましいね」

 僕は思わず七海を見下ろした。

「羨ましい? 何が?」

 七海は僕を見上げふと笑った。

「それだけお義母さんを好きなお義父さんも、それだけお義父さんに好かれるお義母さんも、かな」

 なかなか聞き捨てならない発言に、僕は「へえ」と腕を組んだ。

「それは僕の今の君への思いだけじゃ足りないってことかな? よし、分かった。部屋はどこがいいかな? さっそくたっぷり君に僕の心を知ってもらうことにしよう」

 言うが早いか七海の膝裏と背中に手を回し、ひょいと腕の中に抱き上げてしまう。

「きゃあっ!!」

 七海はバランスを取ろうとしたのか、慌てて僕の首に手を回した。

「ま、待って、待って。嘘、嘘です!大地が一番っ!!」
「――駄目。お仕置き」

 僕たちは笑いながら、顔を寄せ合いキスをした。



 それから僕と七海はひとつひとつの部屋を見て回った。その数と内装のバリエーションの多さに改めて驚く。居間の「百合の間」、書斎の「月光の間」、大広間の「白藤の間」、一人部屋の「金枝の間」、客間の「木蓮の間」、応接間の「桜花の間」――ほかにもいくつもの部屋がある。

 けれどもそれ以上に僕の胸はやはり懐かしいと言う思いと、あるひとつのアイデアに占められつつあった。

 僕は七海と「金枝の間」に立ち寄った際、窓からケヤキに生えるヤドリギを見ながら、その是非を七海に問ことにした。肩を抱き寄せ柔らかな髪に頬を埋める。

「なあ、七海」
「うん?」
「ちょっと考えていたんだけど、やっぱりここを売るのは止そうかと思う。理由はよくわからないけど、手放してはいけない気がしたんだ」
「じゃあ、どうするの?」

 首を傾げる七海に僕は提案をする。

「この建物のままアパートにしようと思うんだ」
「……!!」

 七海の黒い瞳がキラキラと輝き始める。僕の計画を先読みしたのだろう。

「オーナーは僕のままだけれどもちゃんとした管理人を雇って、一部屋一部屋にこの洋館を好きになってくれる人に住んでもらおう。僕たちには専用の部屋を一部屋だけ取っておいてもらって、そこに毎年旅行に来ることにしよう。僕がリタイアした後にはここでずっと暮らす……七海、このアイデアをど思う?」

 七海は答えの代わりに僕の首に手を回し引き寄せた。

「すてき、すてきね」

 軽いキスをひとつしたのちにくすくすと笑う。

「じゃあ、まずどの部屋にするか決めなくちゃ」
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