鸞翔鬼伝 〜らんしょうきでん〜

紗々置 遼嘉

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七章 帰参

十四.森乱丸

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「…そうか」
信長が呟くように言ってから、続けて喋る。
「よくある事よ…戻って良いぞ」
「はっ…」
何か用があったから呼んだのでは無いのか…?
翔隆は不思議に思いながらも天主を出た。
すると、木々の間から小姓達がワラワラと現れて立ち塞がる。
「何をしていたんだよ色小姓が」
「ふー……」
翔隆は長い溜め息を吐く。
ここで小姓達が待ち伏せしているのを上から見て知っていたから、信長は早く出させたのだ。
今頃はどう対処するのかワクワクしながら見ているのだろう。
〈…何をしてもお咎め無し…な訳は無いし……。しかし何かはしなくてはならない〉
なんとも意地悪だ。
「土民上がりの白髪頭がっ!」
一人が言う。
〈…鬼なのだがな…〉
「何も言えんのか?」
「睦言に使う口はあっても喋る口は無いのでは無いか?」
そう言い笑い合う。
〈喋ろうとすると逃げるくせによく言う…〉
「女も抱けぬと噂だ」
「真に軟弱な!」
周りでそう言い立てて笑う間、翔隆は額に手を付いて溜め息を吐く。
「…黙っていれば小僧共は…」
「お、やる気か?」
小姓達は笑いながら身構える。
すると翔隆は眉をしかめて言う。
「ーーーやればいい、好きにすればいいだろう。ただし…出来ればな!!」
そう叫ぶと同時に翔隆は力を使う。
カッ ドドオォォーン!
天からなんの前触れもなく稲妻が落ちてきた。
「ひっ…?!」
その稲妻は爆音を轟かせて、立て続けに翔隆の周りにだけ落ちる。
それを見た小姓達は愕然としたり蒼白して腰を抜かす。
でどうした? 私がただの色小姓だとでも真に思っていたのか?私はなのだ。信長様にお仕えして十七年にもなる鬼だ…達に一度聞いてみればいい。私がどれ程の魔物なのかを!!」
ドドオォーン! 言うと同時に稲妻が翔隆に落ちた。
その光の中でも平然と目を吊り上げてこちらを睨む翔隆を見て、小姓達は恐怖のどん底に陥った。
その姿が本当に鬼に見えたのだ。
「うわああああっ!!」
叫ぶなり十人もいた小姓が蜘蛛の子を散らすかのように我先にと逃げて行った。
すると、パンパンと拍手が聞こえた。
「凄まじいな!真に鬼だ!」
そう言うのは森三左衛門可成(四十六歳)。
彼は三男の乱丸(六歳)を連れて立っていた。
「!可成殿!」
翔隆はすぐに力を収めて駆け寄る。
駆け寄っても、乱丸は目を見開いて見ているだけで怖がらなかった。
「見ておられたなら、止めて下さればいいものを…」
「いやいや、そなたが苛立っていそうなので近寄れなかったのだ。凄い気迫でな」
「またまた…」
翔隆は苦笑してから小姓達が逃げた先を見る。
「これで絡まなければいいのですがね」
「以後、見掛けたらわしからも注意しよう。もう二度と絡むまいがな!」
可成が笑って言う。
「…それはそうと、何かご用ですか?」
「実はお主にの修行を頼みたくてな」
そう言い可成は乱丸を前に出す。
「これはわしの三男坊の乱丸、六歳になる。大殿が気に掛けて下されて、是非お主に修行をさせるといいと仰有られるのでな…」
乱丸……いつか夢で見た子だ。
小姓として信長の側にいたのを、ハッキリと覚えている。
「…ですが…」
「いかに厳しくしようとも構わない! 無論、育てる費用も出す!」
「しかし…」
「二年程で良いのだ!その強さを、分けてやって欲しい、この通りだ!」
そう言い可成は乱丸と共に頭を下げた。
「お願い致します!」
乱丸も言う。
〈…大人気ないな…〉
翔隆は苦笑する。
これは、乱丸に対する羨望と嫉妬だ。
自分ではもう小姓は勤まらぬ故の感情。
「駄目だろうか?」
「…分かりました。信長様のご下知でもあるのでしょう。引き受けます」

そうして森乱丸を連れて屋敷に戻ると、翔隆は皆に紹介した。
「では、我々と川や山で修行ですね」
樟美くすみが言う。
「うむ、宜しく頼むぞ」
翔隆が言い、樟美と錐巴きりはが乱丸の案内をした。
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