デルモニア紀行

富浦伝十郎

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ゲルブ平原

武器を探す

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 自分で言うのも妙だけど、それ程パニクってないじゃないか、俺。
FQの世界は何度も駆け巡って馴染んでいるということもあるかもしれない。
子供の頃ラノベで読んだいわゆる 『異世界転生』 とはかなり状況が異なる。
予告もなく根本原理すら異なる見知らぬ世界にいきなり召喚された訳じゃない。
ADオプションは(半分はノリからだったが)自分で申し込んだサービスだ。

「 …では攻略開始と行きますか!」

 モンスターであるとはいえ、IFはプレヤーのそれであるのだから只一方的に人間に狩られるだけの存在に留まっている必要はないだろう。
どうせならこのFQ世界で楽しくハッピーに生きて行きたいものじゃないか。
しかし、Lv1ゴブリンが人間プレヤー達と共に行動するのは無理がある。 
第一、今の俺は言葉を話せないし。

「やはりレベル上げだよなぁ」

 FQの基本はアクション(戦闘)だから弱いままだとお話にならない。
行動範囲も得られるモノも限られるし、常に恐怖を抱えて生きていくことになる。
それじゃ楽しくない。
人間なら市街地や集落で製作や創作、商売や交友に専念して暮らすこともできる。
金持ちになれば護衛を伴い世界を旅して回ることも可能だろう。
でもゴブリンは街や村に入れないのだ。

 強くなるしかない。

 俺は腰を落としてもう一度周囲を(今度は注意深く)見回した。
騎士や冒険者に見つかって追われ、駆除されるのは御免だ。
自分より強力なモンスターに襲われるのも避けたい。
そして警戒しつつ武器になりそうなモノを探す。

「う~む」

 やはりそれ程都合よく剣や盾が落ちている訳はないよな。
手ぶらというのも心細いので地面に落ちている石を拾ってみた。 
鶏卵くらいの大きさでざらざらした感触の石だ。 黒っぽくて重さも結構ある。

「玄武岩か?」

FQ世界のVRは環境シミュレーションのリアリティに定評がある。
石ころ一つにしても"適当に置いときました" という感じで落ちてはいない。
(かといって状況には関係なく偶々そこにあった、という感じでもないのだが)
その石は思い切り投げつけられたならば(人間なら)どこに当たっても無事には済まない感じだった。 

 …ゴブリンが投げたらどうかな?


 ゴブリン(俺)の身長は160㎝くらい。 高くはないが小人て程でもない。 
体格は貧弱…良く言えばスリムっていえないこともないのか ? 
プレイ中にフィールドで遭遇していたあのゴブリン達と同じだ。
まあレベルが上がってからはフィールドで見掛けても態々関わる事は殆ど無くなっていたのだけれども。

 しかしHPは初期状態で人間の五倍。 
表示はされていないけれどSTRも人間以下、てことはないんじゃないか。
背は低いのに腕は元の自分のと同等以上の長さがある。

「投石、か」

そう言えばFQプレイ中に石を拾って投げたことは無かったな。
初期装備で剣はあったし、FQでは"投擲武器”も比較的初期から入手できた。
投げると無くなる事が多い"消耗品"的な印象があって殆ど使って来なかったが。
でも此の黒い石なら辺り一面に転がっている。  いくらでも拾える。

・・・まあ他に武器になりそうなものもないしな。

「よし練習だ!」

FQのゲームシステムの仕様はあまり細部まで公開されていない。
殆どサーバーデペンデントなのでプレヤー側からの解析も進んでいない。
しかしネットでは以下のような報告を目にすることがあった。

『プレヤーの"修練"がスキル(の獲得)に影響する』

 例えば俺が目にしたのは
『弓使いが拾った剣で百回素振りしたら剣術スキルが付いた』 という話。
剣術は剣士に付くジョブ固有スキルだ。 
(ジョブチェンジで)剣士になるには剣術道場に入門すればいい。
だから誰でも剣術スキルは取れる訳だが 俺はこの話が心に引っ掛かっていた。
( 巻き藁突いてれば拳闘士になれるのか? )
などと思ったものだっけ。

 そうだ、思い出した。 これは凄く大事な事かもしれないぞ。
いや、間違いなく、決定的に重要な問題だ。


…だってゴブリンは道場やギルドに入門することはできないんだから。




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