デルモニア紀行

富浦伝十郎

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ゲルブ平原

疑問

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 眼下の狼は三匹。  残るペレットは3つ。
時の流れが凍り付いたような世界の中で俺は空中から狼を"撃"った。  
左の狼。  手前の狼。  右の狼。
最後のペレットを撃ち終わった瞬間、世界が解けた。
風を切って普通に着地する。(本来はここから連投で三匹を倒す目算だった)

「・・・・・」

”FQの仕込みは底なし” だと言われていたがこんなものまであったとは。
これはネットとかで見聞きしたことは無い。 (ADモンスター専用の能力なのか? )
確かにヒューマンでジョブに沿うプレイをするなら発現機会は少ないと思うけど…
( FQには "グライダー" はないしな )
でもFQには "あのゲーム" を知っているプレヤーも大勢いる筈だ。
実装されていてまだリポートされていない、というのはまずあり得ない。
( 最近実装されたばかりなのかな ? )

 ・・・しかし考えて見るとおかしいんだよな。
Y M S バレットタイムは云わば"プレヤーのクロックアップしかも超高倍率"だ。
もしMMОRPGで複数(多数)のプレヤーが発現させたら大変なことになる。
レイドとかならほぼプレヤー全員が使うに決まってるし。
( これは想像するだに恐ろしいプレイ再生の点からも )
"あのゲーム"はソロでプレイする作品だったから実装が可能だったと云える訳で。
( プレヤー以外をクロックダウンさせれば良い理屈だからな )

「・・・・・」

 今さっき5匹も討伐したばかりだからこの辺りにはもう狼はいない筈だが、
念のために周囲の全方向を詳細に確認する。
( これはしっかり考えてみないといけない問題かもしれないぞ )



「そもそも"この"FQ自体がおかしいといえばおかしいんだ」
俺は討伐アイテムを収容しながら独り言ちる。 (狼の毛皮は31枚になった)
もうゴブリンになって体感で4時間くらい経つ。
それなのに他のプレヤーはおろかNPCの一人にも行き会っていない。
アパートやコテージに籠るなら兎も角、ずっとフィールドに出ていたのに、だ。
( あぁ ちょっとドームにもとばされたっけ )
これは普通じゃない。


 ・・・・・ 第一、まだ日も暮れてないじゃないか。



 空を見上げると太陽は西に移っているもののまだ高い。 夕刻には少し早い。
俺がゴブリンとなってこのゲルブ平原に来たのは正午頃だった。
リアルなら何の不思議もないことだろう。
だがFQ世界ではこれはおかしいのだ。
FQでの一日は48分なのだから。

( これを今気付く というのはやはりブランクが長いのか ? )

 FQの一日を24時間で区切れば1時間はリアルの2分に相当する。
プレヤーがログイン時間に関わらず多様な時刻を体験できるようにする為だ。
( 俺はゴブリンとして本来ならば数昼夜を巡っていなければならない )

 今までの感覚からすると日没までまだ数時間は掛かる。
時間設定がリアルと同じ。  これはもう間違いない。 
…だとすると。

 サーバーが違う。

 俺(達)がプレイしていたサーバーじゃない。
(ドームを見た時から思ってはいたが) ADプレヤー専用のサーバーなんだろう。
…それならば色々と辻褄が合うものな。

 YMSだって発動中のプレヤー以外のクロックを下げれば済む話だ。
( 普通にログインしているプレヤーのクロックを落とす訳にはいかないものな )
その他にもADステイログインビジターのプレヤーを一緒にするのは問題があると思っていた。

「 どう 元気だった? 」
「 うん 死んでるよ? 」

・・・って 漫才とちゃいますがな !

「 オレだよ、オレ! アキラだよ!  殺さないでくれ~ 」

 昔の知り合いと会ったら そう言えばいいのか ?

( あ、ゴブリンは喋れないんだった )




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