デルモニア紀行

富浦伝十郎

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ゲルブ平原

ゴブリンの逆襲

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 ・・気が付くと俺はまた ”あの”聖堂に居た。
前と同じように誰もいない。 何もない。 しん、と静まり返っている。

 今なら分かる。 
恐らくここはどこでもない・・・・・・。  
ワールドマップ上の何処か特定の場所地点にある訳じゃないんだ。
サーバー内にテンポラリ 一時的 に設けられたワークスペース 作業空間 に過ぎないのだろう。
窓や出入り口が無いのは当然だ。 ( このドームの外には何もないんだからな )
此処にいる間はFQの世界に俺は、ってことだ。
( あのイヤな感じはそれだったんだ )

 通常のドームに復活させるより大幅に演算リソースが節約できる。
( ADプレヤー同士の”接触”も防げる訳だ )


 雑念を振り払い 俺は眼前にマップを展開した。
( そんなことより早くフィールドに戻らないと )

 一瞬でドームに飛ばされた。  一撃で倒された。 …クリティカルだ。
側面からの攻撃だから恐らく頭だ。 弓矢で狙撃されたんだろう。
( 移動速度が大幅に上がって殆ど進行方向正面しか見てなかったからな )
進路上を外れた位置にいた下手人に気付けなかった。
聞こえた ”音”の感じでは距離は50m以上。 100は離れていない筈。
アーチャーだとしてもかなりな ”手練れ” だ。
しかし”馬”に乗ってるならハンターやアーチャーだとは考えにくい。
( 騎士、か? )

 ドームに転送されてからまだ1秒少々。 
俺はポイントを指定してフィールドにワープバックした。
戻った場所は倒された時の自分から見て左に120m地点。
( 俺を攻撃した奴[等]のバックを取れる位置にしてみた ) 
転移して直ぐに身を低くして岩陰に隠れ、気配を消す。





「何なのだあのゴブリンは!?」
甲高い女の声。 所謂プリンセスボイス。
「姫様、落ち着かれませ」
渋い中年男性の声。 執事というよりは武人系。
「どこから湧いて出た? 私の獲物を一瞬で屠りおって」
「妙ですな。 ここら辺りからずっと東までは狼共の領分の筈」
「豹を倒したあの手際を見たか。全く驚かされたぞ」
「尋常でありませんでしたな、あのような者を目にするのは某も初めてです」
・・そうだろうとも。 俺だってカンストした見たことないぞ。
「かと思うとアイテムを拾った後は突っ立ってニヘラニヘラしおって」
・・・・・・・
「隙だらけでしたな」
「気色悪いので思わず撃ってしもうたわ。 獲物を横取りされたのもあるしな」
「お見事なお手前でした」
「ゴブリンなど射ても矢の穢れにしかならぬのにな」

・・・・オイ。 ( 言ってくれるじゃないの )





 何様だよ!  と思ったが”お姫様”だった。

 特上級の白馬に騎乗し白銀の甲冑を纏うのは第一皇女、”戦姫 マルグリッド”。
軽装(全てドラゴンスケイル製)で付き従うのは宮廷騎士団長のシュトロハイム。
二人ともFQのキーキャラクター(KC)だ。  当然俺は知っている。

 凄い弓アレは耐えられんを持ってやがる。 試射を兼ねて狩に出たのだろう。
大きな岩の西側に身を寄せて俺達が倒れた方を伺っている。
( 走って来る俺からは完全な死角になる位置だ )

・・初めから気付けなかったのは仕方がない。 
でも姫さんの言うとおりだ。  豹を仕留めてからの俺はダメだった。
思い返せば ”一度目”もそうだった。
イイ気分で調子にのってる時にやられている。 ( パターン化してるのか? )
厳しく反省しないとな。
だけど ”それはそれ”。
落とし前は付けて貰らわないと (プレヤーをPしといて只で済むと思うなよ)。



「ひ 姫様?」
「何だ、シュトロハイム」
「そろそろ戻りませぬか? もう日も暮れまする」
「…そうするか。 ゴブリンの耳など拾っても詮無いしの」

 流石は宮廷騎士長。 漠然と”危機”を察知したのか 皇女に帰城を促している。

 だがもう遅い。
騎乗する皇女の右前方10m程の地面に小石が落ちた。 
( 俺が抛った”ぺブル”だ )
皇女の左後ろに控える騎士団長からは丁度死角になる位置。
( 俺の投石スキルは”放物線軌道”でも百発百中だ )
二人の注意がぺブルに向いた時には俺の”狙撃”は完了していた。
( 30mもないこの距離は今の俺には”目と鼻の先”も同然だ )

 先ず騎士団長シュトロハイム。   次いで皇女殿下マルグリッド

防具を着用していない二人の頭部は俺のペレットを受けて一溜りもなく霧散した。
( 着用していても大差なかったと思う )
皇女はゆっくりと落馬し、騎士団長はその場に頽れた。
俺は隠れていた岩の上に上がり慎重に周囲を見回した。
( もう絶対に調子に乗ったりしないからな ! )
安全を確認してから二人の躯に近付く。 ( 馬は大人しくしている )


 二人の装備が地面に並んでいた。
グロ防止の観点からプレヤーやNPCの肉体は死亡すると速やかに消失する。
”人間”の報奨アイテムはなく、着用していた装備が残されるのは前述した通り。
皇族と騎士団長の装備だから特級品ばかりだ。
カスタムを極めたカンストプレヤーの装備をおけば最上級品なのは間違いない。
俺は一品一品確認したりせず、急くように片端から収納していく。
( 着衣防具は装着者に適合するからフィッティングは不要なのだ )
其々の品に感心するのは後回しだ。


「ほう、これは・・・」 


 なんてやってると、また ”ドーム行き” になりかねないからな !





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