デルモニア紀行

富浦伝十郎

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グリュン大森林

憑依の由来

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「 憑依モードに時間的な制限はありません 」
ヨーコがあっさりと答える。
「 マスターが指示されるか、HPが尽きるまで解除されません 」
( "ドーム行き” になると解除か! )
「 …しかしそれだとさ 」
俺は更に尋ねる
「 レギュラープランと変わらなくね? 」
・・ずっと人間でいられるならさ。

「 …それは解釈に依るのではないでしょうか 」
僅かの間を置いてヨーコが答える。
「 確かに狐型アシスタントの憑依機能はEクラスエコノミーの救済も考慮したものです 」
( やっぱりな ! )
「 私の知る時点でADオプションの申込みはEクラスが94%を占めていました 」
( そんなにか  !)
「 ”無料”という気安さもあったのでしょうが開発・運営は頭を抱えました 」
( そりゃあ、な )


 ヨーコの話は俺がPC化する以前の事だという。
開発チームが懸念したのは俺が進藤と話したのとはまるで反対の現象だった。
ゴブリンの姿で逃げ惑う大勢のEクラスを少数のP・Rクラスが狩り倒して回る、
阿鼻叫喚の地獄絵図。    ・・・とてもじゃないが公開広報できない。
そこで出て来たのがEクラスの緩いアップ設定だったのだという。( ナルホド )
・・それでもEクラスの”大量虐殺” は避けられないのではないか。
そう考えた一部の開発が別に出来ていたアシスタントに搭載したのが”憑依”だ。
『戦いを忌避するEクラスプレヤーは人間に仮身して市街で過ごせる』ように。

 その仕様が定まる前に ADサーバーに一人のEクラスプレイヤーが降りた。
オレだ。
そのプレイヤーの行動を具にモニターしていた開発陣はパニックに陥った。
既に語られていることであるが、ゴブリンが虐待される世界などとんでもない。
打倒不能な”魔王オレ” に導かれ率いられた夥しいEクラスゴブリン達に蹂躙される世界。
開発チームがシミュレートしたのは前予想など比較にならない ”悪夢” だった。


「 マスターと進藤様の会見で開発の懸念は(かなり)晴れたらしいのですが 」
ヨーコの話は続く。
「 アシスタントはモードに依らずEXP経験値SPスキルも得られぬ仕様とされました 」

 成程な。
アシスタントに憑依して人間の姿でいる内はレベルもスキルも上がらないのか。
街に籠る為の機能、といっても過言でないな。
元から美女・イケメンなプレミアムやレギュラープレイヤーには無要なものだし。

 しかしADサーバーを "死後の世界" と捉えれば( それが本来の意義だけど )
良い”落し処” かもしれない。

( 隠居モード、 か・・ )









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