担任に一目ぼれしちゃったのでコバンザメとして頑張ります。

ちくわぱん

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春爛漫

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 ハラリと舞い落ちるのは淡く染まる頬の様な桜の花びら達。
 見上げれば数え切れないほどの花の固まりを惜しげなく春風に揺らす桜の枝。視界をほぼ占拠する花の向こうには薄い青色と白い筋雲がまるで桜に負けたように広がっていた。
 そして、ぺたり、と頬に仄かに張り付く感触。もちろん桜の花が降ってきたんだ。指を顔に滑らせてそれを摘むと、そっと地面に落とす。足下にあるおろしたての革靴の甲にも、いつの間にか桜の花がいっぱいで、今、高校へと続く石畳の歩道を歩く己も含め、周りの誰もがまさに、桜舞い散る花道を歩いてるんだ。

「今日から、高校生かぁ」

 思わずしんみりと声が出た自分に「もっと喜ばしく言いなさいよ、年寄りみたいじゃない」と隣の母が呟いた。
 いつもにまして化粧に時間をかけ、肩までの髪の毛を丁寧にブローして、淡いベージュのスーツを身にまとった40もとうに過ぎた母。

「母さんの準備に待ちぼうけしたからね」
 とからかったら、
「そう言う史彰フミアキこそ、高校になる前に身長が伸びて良かったわね、あのままだと、チビフミってずっと言われっぱなしじゃない。それも可愛いからよかったのに。今じゃ、カワイゲの欠片もないわね」
 と反撃されてしまった。

 確かに俺は、幼い頃は可愛いね、っていわれてたし、姉の服を無理矢理着せられて(しかも小6の時)女の子に間違われたこともあったけど、今は、充分男っ!サッカー部で鍛えた体は服の上からも分かるだろ! 誰も俺のこと女だなんて思わないよ。実は髭も生えてきたんだから。自分で言うのもなんだけど、結構眉毛も薄い訳じゃないし整えなくてもいける。それにさ、やっぱどう見ても男だぞ俺っ! 別れちゃったけど中3の時は彼女もいたし、イケメンって言われてコトもあるんだよ、これでも一応3回は。(母は絶対『その子目が腐ってるわね』って言うだろうから教えないけど)
 そんでカワイゲなんてなくていいしっ! と、心の中で言い返した。

 まあ俺は中学時代身長がなかなか伸びなくて、実は中3の春、病院で検査を受けたくらいだ。なんだかんだ言って、親も心配してたんだろうな。その時医師は骨のレントゲン写真を見ながら「成長点があるから、たぶんもう少し伸びると思います。しばらく様子を見ましょう」と言った。なんとそれから、あれよあれよと伸びて診察受けた時の160から、今は174という人並みになった訳で。

「1年で14センチも伸びるなんて驚いたけど、おかげで高校の制服も何とか似合うようになったし」

 今来てる制服は紺のブレザーにグレー地に黒と赤いラインがアクセントのチェック柄スラックス。ネクタイはエンジ色。女子も似たような色合いの制服で、結構人気がある。道行く彼女たちはチェックのミニスカから覗く細い足を紺ソで強調してて、やっぱ可愛い。ブレザーの袖からカーディガンの袖が少し見えてるのもなにかと萌えでして。男としてそれは確実に幸せの一瞬。たまに吹いてくる春の突風に舞い上がるスカートの裾も、ドキドキを高めてくれる。中学時代は学ランにセーラー服だったから、イメージも変わって目の保養だ。なんて思ったのは母には秘密。

 ちらと母を横目でみれば「もう身長伸びなくていいからね、制服高いんだから」と現実的なことを言われた。
 そして「そう言えば、アンタ新入生代表の挨拶するんでしょ? しっかりやりなさいよ」と、すっかり忘れてたけどなニュアンスで言葉を付け足した。自分の子供が成績1位入学で代表の挨拶をすると言うのに、なんでこんなんなんだ。

「誰に似たのかねえ。私も父さんも大した頭脳じゃないのに」
「いい加減な親だから子供がしっかりしたんじゃね?」

 ケラケラ笑うと「じゃ、アンタの子供は落ちこぼれになるわね」と、またもやイタいしっぺ返しがきた。さすが母さん。
 くだらない会話のうちに、俺たちは「入学式」と大きな字で書かれた白い布を張り付けた板のある校門まで来た。その人だかりを「後で撮ろうか」と言いながら通り過ぎる。そしてもう少し歩いて幅3メートルはあろうかというベニヤ板に張り出されたクラス分け表の前までやってきた。
 クラス確認に溢れる人混みに押されながらも自分の名前を探すと、全10組のうちのA組でした。まあ、AからCまでが俺の通う特別進学科だから、3組の中から探せばいいわけで、すぐ見つかったんだけど。

「あ、確か担任に挨拶しに行かなきゃいけないんでしょ?」
 自分の名前見つけてほっとしてたら、そんな母の声で気付いた。

 そうだ。新入生代表挨拶の打ち合わせがあったんだ。

「ごめん母さん、ここでお別れ。式は体育館だしそっち行ってて。俺職員室に寄ってから、教室行くし」
「あんた緊張すると滑舌悪いのさらに悪くなるんだから、噛まないように気をつけんのよ」
 立ち去る俺の背中に向けて、またもさりげなくイタい一言を言った母だった。


  *

「えっと、職員室は……っと」

 場所が分からなくて、俺は学校の正面玄関すぐ近くの廊下にある校内見取り図を眺めていた。やっぱり高校は中学と違って大きいなあ、なんて当たり前のコトを思っていると「新入生か?」と声をかけられた。
 振り返るとそこには手に大量の紙束を抱えた先生が一人。男の人なのに、すごい綺麗な顔してるその人は、俺よりちょっと小柄で童顔。なんだろ、日本人形って言う感じが一番かも。彫りは深くないけど、小顔で鼻筋通ってて黒目が結構大きくて、うん、やっぱり日本人形だな、しかも女の人系の。
 その先生は濃いグレーのスーツに白地に淡いベージュのチェック柄ネクタイをしてて、綺麗だけど、やはり大人です。だけとこの人、日本人形みたいな顔なのに、髪が茶色。しかも短いし柔らかそうな猫っ毛。てかいいのかな? 染めてて。
 すべすべして見える肌もなぜかこんがり焼けてるから、運動部の先生?
 なんて思いつつ、その先生に返事をした。

「あ、そうなんです。職員室に行きたくて」

 俺の言葉に
「は? 教室じゃなくてか?」
 と驚いた声を出した先生。

「呼ばれてて。俺、挨拶す、するんで」
 と、少し言葉を濁しつつ言ったら、なんでかズイッと俺に顔を近づけた先生……っ、っ近いっす先生っ!
 手の平ほどしか、隙間っ、空いてないじゃないですかっ!

 目の前に、彼のウルンとした黒い大きな目があって、それに、何だかいい匂いがする。たぶん香水だろうけど、男なのに甘くておいしそうな香り。綺麗な顔といい匂いに俺は、ドクドクと心拍数があがってしまった。

 そしてそのまま
「おまえ、篠原史彰シノハラフミアキ、か?」
 とマジマジ顔を見る先生。

「は、はい、そ、そうです。お、俺のこと知っちぇ、あ、知ってるんですか?」

 動揺でオドオドしたあげく、ちょっと噛んでしまって超恥ずかしいっ。何でこんな時に限ってうまく動かないんだ俺の口!

 そんな俺に、ははははっ、と笑った先生。
 だけど俺、その笑顔に目が離せなくなった。

 くしゃっと顔を笑みで崩した彼は、潤んだ黒目が見えなくなって、小さな口がほころんだ奥にキラリと赤い舌が見える。そして白い歯は八重歯のせいでちょっとだけ乱れてて。
 なんだか、俺、身体の奥が疼くみたいで、ドクドクが止まらない。

「俺、担任だよ。江嶋理比人エジマリヒト。よろしくな」

 先生の笑う顔、すげぇ可愛い…… 

 ……あれ?

 先生、男、だろ……?

 なぜか高鳴る胸にあり得ない疑問が湧いた俺だったけど、目の前の先生はびっくりするくらい可愛い笑みから、男前に一瞬で表情を変えると、
「わりいけど、これ、一緒に持ってくんねぇ? 今から教室行くんだ。これ、お前等に渡す書類」
 と俺に大量の書類を押しつけた。

 えっ、いきなり小間使いですかっ?
 てゆーか先生っ、その口調、ひどくない? 先生じゃないよっ!

 落とさないように慌ててそれを持ったら、彼はクルッと身を翻してさっさと廊下を歩き出す。

「わっ、待って下さいっ、江嶋先生っ」

 叫んだ俺にピタ、と足を止めて正面玄関の真ん中辺で、俺に振り返った先生。

 その姿に、今度は息が、止まった。
 彼の背後にはちょうど大きく開いた玄関ドアの向こうにある桜が見えて、そして、ドアから入る太陽光に淡い色の髪の毛が煌めいて。

 それはまるで
 ……桜の……花の、妖精……?

 バサ、バサササっ

 そのとき、盛大な音を立てたのは、俺の心臓だけじゃなく、沢山の書類たち。

「うわっ、篠原っ何やってんだっ」

 呆然とした俺の手から、先生に渡された書類いっさいが全部、みごとに床に落ちてしまったんだ。
「す、すみませんっ」
 ドクドクなる心臓のまま、慌ててしゃがんでそれを拾い始めた俺の傍に江嶋先生も来てくれて。
「お前、頭脳明晰で顔も結構なイケメンなのに、結構動きニブいんだな。でも中学ん時、サッカー部だったんだろ?」

 さっきの、花と見間違うほどの美しさと相反する汚い口調で、俺と一緒に書類を拾う。そして、最後の書類を掴んだら、彼もそれを握ってて、ほんの少しだけ先生と指先が触れ合った。
 その指はこれまでの俺の人生で見たこと無いって言っていいくらい、ものすごく綺麗な形をしていて、彼と触れた俺の指先が火傷したみたいに熱くなったんだ。

 俺はバッとその手を書類から離してしまった。
 そんな俺を見て、
「篠原、もしかして緊張してんのか? 大丈夫だよ。呼ばれたら立って『これからがんばります』ってだけ言えばそれでいいから。気にすんなよ。長い話したって誰も聴いちゃいねぇからな。校長の祝辞なんて、寝ちまうだろ?」
 と、先生らしからぬ言葉で、朗らかに励ましてくれた。

「あ、ありがとう、ございます」

 ペコりと頭を下げた俺は、書類を落としたこともこの動機も代表挨拶をするせいじゃないと分かってた。
 目の前の、この人のせいだ。
 さっきたくさん見た制服姿の女の子を見るドキドキとは、性質が全然違う。
 初めてだ。
 こんな、体中の血管がブワって目一杯広がったみたいな……
 だけど、喉の奥と胸がギュッて苦しくて息が出来ないみたいな……
  
 ポン、と下げた頭に、彼の片手が乗せられた。そしてグシャグシャと俺の髪の毛を掻き回す。めっちゃきれいな顔のこの人の、長い指のすげぇ綺麗な手が、俺の頭に乗ってるなんて……
 ドクンドクンと脈打つ音が、さらに一気に早くなったのを俺は理解した。

 先生……っどうしよう……っ

 だけど俺のそんな気持ちなんてお構いなしに「安心しろ」って笑う大人な彼。恥ずかしさに頬が赤いのを自覚して、頭が上げられない。

 そのとき開け放たれた玄関から春の突風が吹いてきて、俺らのとこまで桜の花びらが沢山飛んできた。

 それにつられて、なんとか頭を上げた俺。
 目の前には手に持った書類がとばされないようにぎゅっと胸に握りしめ、風に目を細めた綺麗でカッコいい先生がいた。

 そして、舞い散る桜吹雪の中。

「春の風も桜も、お前を祝ってくれてんなぁ。入学おめでとう」

 桜の花のように微笑んで、彼は俺ひとりだけに最大級の祝辞を述べてくれた。
 その言葉と笑顔が、もう眩しくて、どうしようもなく胸に突き刺さって……
 
 ぼうっと立ち尽くした俺に「篠原、教室行くぞ」の声を掛けつつ、スタスタと廊下を進む江嶋先生に気づき、俺は動機で絡みそうになる足を動かして、慌ててその背中を追いかけたんだ。
 
 春、爛漫の入学式。 
 俺は、まさかの担任(しかも男)に『一目惚れ』してしまったみたいだ。

(この後、教室の先生自己紹介で、彼が俺の倍生きてる30のおっさんだと知ったのは、さらに衝撃だった)
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