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第十三章 学園祭二日目
15 仮装大会
しおりを挟むノロノロと進んでいた魑魅魍魎の列は何事もなく指定のルートを一周し、美男美女コンテストのあった屋外ステージのある場所へ到着する。ステージ前ではすでに見物客たちがひしめいていて、会場を囲うように設置された大きなライトがその様子を周囲を照らしていた。
「参加者たちが到着しました! 皆さま、温かい拍手でお迎えくださいっ!」
参加者たちがステージの上へ上がると、ゾンビに扮した進行役の男子生徒がマイクを手に観客へアピールする。彼の声に、客席からはたくさんの拍手と歓声が聞こえてきた。
ぞろぞろと会場入りしたお化けたちは止まることなく端まで進み、進行役の指示に従ってグループごとにひと塊となると、ステージの上に整列した。
リハーサルの流れでは、名前を呼ばれたグループの参加者たちから順番に、中央のランウェイを歩いて衣装をアピールすることになっている。会場に入場した順ではなく、名前を呼ばれた順だ。
記念すべき一番手はLuna率いる意地悪魔女軍団だった。衣装係でもある彼女は、グループ名が書かれた看板を手に堂々とした足取りで先陣を切る。
「おい、Lunaたちの衣装、前に見た時と違ってないか?」
ランウェイを歩く姿を目で追っていたイーサンが、声を潜めてそう言った。彼の言葉に改めて先輩に目を向けた呉宇軒はひと目で違いに気付き、確かに、と頷く。
黒一色の重厚なゴシック風ドレスは変わらないが、前回の時には無かった派手な色のタイツを合わせている。前は透け感のあるセクシーな黒タイツだったのが、今は黒とオレンジ、紫と黒などハロウィンカラーのカラフルな可愛らしいタイツで、黒一色の衣装に花を添えていた。
「寒いから変更したんじゃないか? 手作りできない小物は評価から除外されるみたいだし、大丈夫だろ」
観客席の熱気で多少は暖かいものの、ドレス姿の彼女たちには寒かったのだろう。他のグループに比べて、Lunaたちのグループは露出度が高い衣装だから当然だ。
だが、急な変更は思わぬマイナス要素になってしまったらしい。彼女たちに送られる声援は女子のものばかりで、男子からの声は今ひとつだった。
きっと厚手のタイツにしたことで色っぽさが消えたせいだ。思わぬ追い風に、呉宇軒は心の中で「よし!」とガッツポーズする。
「お前ら、ランウェイの先まで行ったら分かってるな? 勢い余って落ちるんじゃねぇぞ?」
イーサンは貴族のコート風だが、呉宇軒と李浩然はカンフー道着風の衣装なので、お披露目の時にちょっとしたアクションを披露する予定だった。格好いい動きで子どもや男子の票を掻っ攫えば、女王Lunaに勝つのも夢ではない。
唯一の不安点は幼馴染コンビほど運動神経がよくないイーサンだったが、彼は自信満々に笑みを浮かべた。
「任せておけ! この日のために練習してきたからな!」
息ぴったりの二人に合わせられるように、イーサンは人一倍特訓していたのだ。三人で合わせた回数は数えるほどしかないが、その動きはかなり様になっていて、呉宇軒は彼の飲み込みの早さに驚いた。
「まあ、失敗しても俺たちがフォローするから、気楽に行こうぜ」
この中で一番緊張しているのは、看板持ちの高進だった。深呼吸して心を落ち着かせようとしている彼に呉宇軒がリラックスして行こうと励ますと、それを聞いたイーサンがフンと鼻を鳴らす。
「僕たちよりもお前の方が気を付けろよ! 調子に乗って落ちるんじゃないぞ」
「俺が落ちそうになったら、浩然がなんとかしてくれるから大丈夫だよ!」
幼馴染に丸投げのくせに、呉宇軒は何故か得意顔だ。そして彼に当てにされた李浩然は、そうすることが当然だと言わんばかりに頷き、やる気満々だった。
二人の仲の良さを見せつけられたイーサンは、心配するだけ無駄だったなと呆れるしかなかった。
他のグループが名前を呼ばれてちょっとしたパフォーマンスをする中、呉宇軒はいつ自分たちの番が来るかソワソワしながら待っていた。しかし、彼らのグループは一向に名前を呼ばれず、時間だけが過ぎていく。
他の参加者に拍手と声援を送りながらも、すっかり落ち着きをなくした呉宇軒は、隣の李浩然に寄りかかって衣装の裾をちょんちょんと引っ張った。
「なあ、俺たちの出番まだかな?」
不満げに眉を下げてそう言うと、李浩然は呆れ半分の視線を向け、まるで子どもを諭すように言い聞かせる。
「静かに。すぐにくるから、大人しく待っていなさい」
そう注意しながら、李浩然は落ち着きのない彼の腰に手を回して抱き寄せ、勝手に飛び出して行かないように捕まえた。呉宇軒の突飛な行動に警戒していたイーサンは、それを見てほっと胸を撫で下ろす。
「全く、落ち着きのないやつだな。出番はきっと最後だろ? 僕たちが一番の注目株だからな!」
得意げに胸を張ったイーサンの顔は、確かな自信に満ち溢れていた。
今年大学に入ったばかりの美男子三人は、良くも悪くも注目の的だ。そのため彼は、自分たちのグループこそが仮装大会の一番最後を飾るに相応しいと思っているようだ。
その意見自体には呉宇軒も異論はなく、そういうことなら待ってやるかと少しだけ落ち着きを取り戻す。ステージ上ではちょうど、友人の仁雷船長率いる海賊たちが剣を片手に暴れていて、会場を沸かせていた。
「いいぞ仁雷! かましてやれーっ!」
先ほどまで出番はまだかとソワソワしていたことも忘れ、呉宇軒も観客と一体になって声援を送る。その声は、ランウェイでパフォーマンス中の仁雷の耳にもしっかり届いていた。
観客の視線を釘付けにしていた彼は、剣を高々と掲げたまま振り返り、呉宇軒に向けて手を振って応えてくれる。堂々とした立ち回りを見た呉宇軒は、彼がモデルになろうか迷っていたことを思い出して李浩然に話しかけた。
「あいつ、案外モデル向いてるかもな」
すると、幼馴染以外の全てに無関心な李浩然は、パフォーマンスをする仁雷を改めて見て頷いた。
「君がそう言うならそうかもしれないな」
「だろ? 案外上手くやりそう」
二人がヒソヒソ話していると、横から聞いていたイーサンが聞き捨てならないとばかりに口を挟んでくる。
「仁雷のやつ、モデル目指してるのか? 僕に言えば相談に乗ったのに……」
先輩面でもしたかったのか、相談してもらえなくて残念そうだ。露骨にがっかりする彼に、呉宇軒は笑いながら返した。
「相談相手は俺じゃなくて張姉だよ」
相談相手に業界人の張カメラマンを選ぶあたり、仁雷はしっかりしている。イーサンもさすがに自分よりも知識のある張姉と張り合う気はないらしく、そういうことならと引き下がった。
もう一度友人の勇姿を見物しようとステージ前に目を向けた呉宇軒は、誰もいないランウェイを見てあれ?と首を傾げる。すると、いつの間にか道士の上着を着ていた高進が慌てて仲間たちに呼びかけた。
「おい、お前ら名前呼ばれてるぞ! 行くからな!」
こそこそ無駄話をしているうちに、仁雷のグループのパフォーマンスが終わってしまっていたらしい。高進は相変わらず緊張したままで、ぎくしゃくしながら歩きだした。
先導する高進は、手に持ったカゴから紙でできた冥銭をばら撒きながら進んでいく。有名なキョンシードラマの一幕を再現しているのだ。紙には紐がついているので、彼が進む度に風でひらひらと舞い上がって存在感をアピールする。
呉宇軒たちは一列になり、キョンシーらしく両手を前へ、足を揃えてぴょんぴょん飛びながら追いかけた。コミカルなその動きに、会場からはクスクスと笑いが起きる。
懐かしのドラマの光景に、呉宇軒のアンチたちも思わず「いいぞー!」と野次を飛ばしていた。
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