真面目ちゃんの裏の顔

てんてこ米

文字の大きさ
318 / 362
第十三章 学園祭二日目

15 仮装大会

しおりを挟む

 ノロノロと進んでいた魑魅魍魎の列は何事もなく指定のルートを一周し、美男美女コンテストのあった屋外ステージのある場所へ到着する。ステージ前ではすでに見物客たちがひしめいていて、会場を囲うように設置された大きなライトがその様子を周囲を照らしていた。

「参加者たちが到着しました! 皆さま、温かい拍手でお迎えくださいっ!」

 参加者たちがステージの上へ上がると、ゾンビに扮した進行役の男子生徒がマイクを手に観客へアピールする。彼の声に、客席からはたくさんの拍手と歓声が聞こえてきた。
 ぞろぞろと会場入りしたお化けたちは止まることなく端まで進み、進行役の指示に従ってグループごとにひと塊となると、ステージの上に整列した。
 リハーサルの流れでは、名前を呼ばれたグループの参加者たちから順番に、中央のランウェイを歩いて衣装をアピールすることになっている。会場に入場した順ではなく、名前を呼ばれた順だ。
 記念すべき一番手はLunaルナ率いる意地悪魔女軍団だった。衣装係でもある彼女は、グループ名が書かれた看板を手に堂々とした足取りで先陣を切る。

「おい、Lunaたちの衣装、前に見た時と違ってないか?」

 ランウェイを歩く姿を目で追っていたイーサンが、声を潜めてそう言った。彼の言葉に改めて先輩に目を向けた呉宇軒ウーユーシュェンはひと目で違いに気付き、確かに、と頷く。
 黒一色の重厚なゴシック風ドレスは変わらないが、前回の時には無かった派手な色のタイツを合わせている。前は透け感のあるセクシーな黒タイツだったのが、今は黒とオレンジ、紫と黒などハロウィンカラーのカラフルな可愛らしいタイツで、黒一色の衣装に花を添えていた。

「寒いから変更したんじゃないか? 手作りできない小物は評価から除外されるみたいだし、大丈夫だろ」

 観客席の熱気で多少は暖かいものの、ドレス姿の彼女たちには寒かったのだろう。他のグループに比べて、Lunaたちのグループは露出度が高い衣装だから当然だ。
 だが、急な変更は思わぬマイナス要素になってしまったらしい。彼女たちに送られる声援は女子のものばかりで、男子からの声は今ひとつだった。
 きっと厚手のタイツにしたことで色っぽさが消えたせいだ。思わぬ追い風に、呉宇軒ウーユーシュェンは心の中で「よし!」とガッツポーズする。

「お前ら、ランウェイの先まで行ったら分かってるな? 勢い余って落ちるんじゃねぇぞ?」

 イーサンは貴族のコート風だが、呉宇軒ウーユーシュェン李浩然リーハオランはカンフー道着風の衣装なので、お披露目の時にちょっとしたアクションを披露する予定だった。格好いい動きで子どもや男子の票を掻っ攫えば、女王Lunaに勝つのも夢ではない。
 唯一の不安点は幼馴染コンビほど運動神経がよくないイーサンだったが、彼は自信満々に笑みを浮かべた。

「任せておけ! この日のために練習してきたからな!」

 息ぴったりの二人に合わせられるように、イーサンは人一倍特訓していたのだ。三人で合わせた回数は数えるほどしかないが、その動きはかなり様になっていて、呉宇軒ウーユーシュェンは彼の飲み込みの早さに驚いた。

「まあ、失敗しても俺たちがフォローするから、気楽に行こうぜ」

 この中で一番緊張しているのは、看板持ちの高進ガオジンだった。深呼吸して心を落ち着かせようとしている彼に呉宇軒ウーユーシュェンがリラックスして行こうと励ますと、それを聞いたイーサンがフンと鼻を鳴らす。

「僕たちよりもお前の方が気を付けろよ! 調子に乗って落ちるんじゃないぞ」

「俺が落ちそうになったら、浩然ハオランがなんとかしてくれるから大丈夫だよ!」

 幼馴染に丸投げのくせに、呉宇軒ウーユーシュェンは何故か得意顔だ。そして彼に当てにされた李浩然リーハオランは、そうすることが当然だと言わんばかりに頷き、やる気満々だった。
 二人の仲の良さを見せつけられたイーサンは、心配するだけ無駄だったなと呆れるしかなかった。



 他のグループが名前を呼ばれてちょっとしたパフォーマンスをする中、呉宇軒ウーユーシュェンはいつ自分たちの番が来るかソワソワしながら待っていた。しかし、彼らのグループは一向に名前を呼ばれず、時間だけが過ぎていく。
 他の参加者に拍手と声援を送りながらも、すっかり落ち着きをなくした呉宇軒ウーユーシュェンは、隣の李浩然リーハオランに寄りかかって衣装の裾をちょんちょんと引っ張った。

「なあ、俺たちの出番まだかな?」

 不満げに眉を下げてそう言うと、李浩然リーハオランは呆れ半分の視線を向け、まるで子どもを諭すように言い聞かせる。

「静かに。すぐにくるから、大人しく待っていなさい」

 そう注意しながら、李浩然リーハオランは落ち着きのない彼の腰に手を回して抱き寄せ、勝手に飛び出して行かないように捕まえた。呉宇軒ウーユーシュェンの突飛な行動に警戒していたイーサンは、それを見てほっと胸を撫で下ろす。

「全く、落ち着きのないやつだな。出番はきっと最後だろ? 僕たちが一番の注目株だからな!」

 得意げに胸を張ったイーサンの顔は、確かな自信に満ち溢れていた。
 今年大学に入ったばかりの美男子三人は、良くも悪くも注目の的だ。そのため彼は、自分たちのグループこそが仮装大会の一番最後を飾るに相応しいと思っているようだ。
 その意見自体には呉宇軒ウーユーシュェンも異論はなく、そういうことなら待ってやるかと少しだけ落ち着きを取り戻す。ステージ上ではちょうど、友人の仁雷レンレイ船長率いる海賊たちが剣を片手に暴れていて、会場を沸かせていた。

「いいぞ仁雷レンレイ! かましてやれーっ!」

 先ほどまで出番はまだかとソワソワしていたことも忘れ、呉宇軒ウーユーシュェンも観客と一体になって声援を送る。その声は、ランウェイでパフォーマンス中の仁雷レンレイの耳にもしっかり届いていた。
 観客の視線を釘付けにしていた彼は、剣を高々と掲げたまま振り返り、呉宇軒ウーユーシュェンに向けて手を振って応えてくれる。堂々とした立ち回りを見た呉宇軒ウーユーシュェンは、彼がモデルになろうか迷っていたことを思い出して李浩然リーハオランに話しかけた。

「あいつ、案外モデル向いてるかもな」

 すると、幼馴染以外の全てに無関心な李浩然リーハオランは、パフォーマンスをする仁雷レンレイを改めて見て頷いた。

「君がそう言うならそうかもしれないな」

「だろ? 案外上手くやりそう」

 二人がヒソヒソ話していると、横から聞いていたイーサンが聞き捨てならないとばかりに口を挟んでくる。

仁雷レンレイのやつ、モデル目指してるのか? 僕に言えば相談に乗ったのに……」

 先輩面でもしたかったのか、相談してもらえなくて残念そうだ。露骨にがっかりする彼に、呉宇軒ウーユーシュェンは笑いながら返した。

「相談相手は俺じゃなくてチャン姉だよ」

 相談相手に業界人のチャンカメラマンを選ぶあたり、仁雷レンレイはしっかりしている。イーサンもさすがに自分よりも知識のあるチャン姉と張り合う気はないらしく、そういうことならと引き下がった。
 もう一度友人の勇姿を見物しようとステージ前に目を向けた呉宇軒ウーユーシュェンは、誰もいないランウェイを見てあれ?と首を傾げる。すると、いつの間にか道士の上着を着ていた高進ガオジンが慌てて仲間たちに呼びかけた。

「おい、お前ら名前呼ばれてるぞ! 行くからな!」

 こそこそ無駄話をしているうちに、仁雷レンレイのグループのパフォーマンスが終わってしまっていたらしい。高進ガオジンは相変わらず緊張したままで、ぎくしゃくしながら歩きだした。
 先導する高進ガオジンは、手に持ったカゴから紙でできた冥銭をばら撒きながら進んでいく。有名なキョンシードラマの一幕を再現しているのだ。紙には紐がついているので、彼が進む度に風でひらひらと舞い上がって存在感をアピールする。
 呉宇軒ウーユーシュェンたちは一列になり、キョンシーらしく両手を前へ、足を揃えてぴょんぴょん飛びながら追いかけた。コミカルなその動きに、会場からはクスクスと笑いが起きる。
 懐かしのドラマの光景に、呉宇軒ウーユーシュェンのアンチたちも思わず「いいぞー!」と野次を飛ばしていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

  【完結】 男達の性宴

蔵屋
BL
  僕が通う高校の学校医望月先生に  今夜8時に来るよう、青山のホテルに  誘われた。  ホテルに来れば会場に案内すると  言われ、会場案内図を渡された。  高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を  早くも社会人扱いする両親。  僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、  東京へ飛ばして行った。

平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)

優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。 本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。

寮生活のイジメ【社会人版】

ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説 【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】 全四話 毎週日曜日の正午に一話ずつ公開

オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」 そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。 しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は―― ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。 (……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ) ところが、初めての商談でその評価は一変する。 榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。 (仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな) ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり―― なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。 そして気づく。 「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」 煙草をくゆらせる仕草。 ネクタイを緩める無防備な姿。 そのたびに、陽翔の理性は削られていく。 「俺、もう待てないんで……」 ついに陽翔は榊を追い詰めるが―― 「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」 攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。 じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。 【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】 主任補佐として、ちゃんとせなあかん── そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。 春のすこし手前、まだ肌寒い季節。 新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。 風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。 何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。 拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。 年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。 これはまだ、恋になる“少し前”の物語。 関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。 (5月14日より連載開始)

マネージャー~お前を甲子園に連れて行ったら……野球部のエース♥マネージャー

夏目碧央
BL
 強豪校の野球部に入った相沢瀬那は、ベンチ入りを目指し、とにかくガッツを認めてもらおうと、グランド整備やボール磨きを頑張った。しかし、その結果は「マネージャーにならないか?」という監督からの言葉。瀬那は葛藤の末、マネージャーに転身する。  一方、才能溢れるピッチャーの戸田遼悠。瀬那は遼悠の才能を羨ましく思っていたが、マネージャーとして関わる内に、遼悠が文字通り血のにじむような努力をしている事を知る。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

処理中です...