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第十三章 学園祭二日目
17 反則スレスレ
しおりを挟む仮装大会の後半戦は、観客たちの元へ行ってお菓子を配りながら交流する予定になっていた。
美男美女コンテストの参加者が待機場所に使っていたステージ裏のテントに入った呉宇軒たちは、お菓子の小袋をハロウィンカボチャのバケツに移し替える。このカボチャバケツは大会委員の生徒たちが用意してくれたものだ。
準備を終えて会場に足を踏み入れると、彼らはすぐに女の子たちのグループに見つかって、あっという間に囲まれてしまった。
「あっ、軒軒たち来た!」
「写真お願い!」
いの一番に駆けつけたのは、黒い小悪魔風ワンピースを着た女の子五人組だ。会場で衣装を買ったのか、全員お揃いの衣装を着てラメ入りの派手なメイクをしている。
「君たち一緒に来たの? 仲良いね。その格好寒くない?」
呉宇軒はやってきた女の子たちに意気揚々と話しかけ、一人ずつお菓子を手渡して回った。手作り菓子を受け取った女の子たちは大喜びで、ぴょんぴょん飛び跳ねながら「全然寒くないよ!」と元気よく答える。
「むしろ暑いくらい! だよね?」
「本当それ! そうだ、軒軒たち可愛かったよ! 最高!」
満面の笑みを浮かべた小悪魔たちは、キョンシーのポーズを真似して笑い合う。そして呉宇軒たち三人のキョンシーと一緒に記念撮影をすると、名残惜しそうに振り返りながらも、お菓子を貰いに他の場所へ行ってしまった。
会場ではあちこちで無料のお菓子が配られているため、みんな散り散りになっているのだろう。いつもなら呉宇軒の周りにはあっという間に人の壁ができるのに、お菓子のおかげで比較的穏やかだ。
集まってきたファンたちにお菓子をあげていると、柄シャツを着たサングラスの吸血鬼が、同じくサングラスをした美女を伴って現れる。いかにも怪しげなその男は、呉宇軒の前まで来ると手を差し出した。
「宇軒、トリックオアトリート!」
聞き慣れた声がして、呉宇軒はすぐに男の正体に気付き、ぷっと吹き出した。
「宇静? なんだよその格好、チンピラ吸血鬼じゃん!」
吸血鬼らしい黒ずくめの格好にマントを付けているが、本来なら白いシャツを着るところを何故か派手な柄物のシャツを合わせている。先輩モデルの宇静はサングラスをぐいと額に上げ、その場でくるりと回って衣装を披露した。
「イカしてるだろ? 早く手作り菓子くれよ」
「美女侍らせていいご身分だな。ほら、持ってけ!」
押し付けるようにクッキーの袋を手渡すと、宇静の隣にいた美女がおずおずと手を差し出す。宇静の真似をしてサングラスを額に上げたので、ようやくその顔を拝むことができた。美女の正体は、Lunaのライバルの桃蓮だった。
「蓮蓮? まだ帰ってなかったのか?」
思わぬ再会に呉宇軒は目を丸くさせる。
彼女は昨日、Lunaのリメイクした服を目当てにバザーを見にきていたのだ。まさか二日目も顔を合わせるとは思わなかった。
「私もクッキー欲しくて……」
手作りクッキーの噂を聞きつけ、宇静と一緒に貰いにきたという。恥ずかしそうにしている桃蓮に、呉宇軒はそういうことならと笑ってお菓子を手に取る。
ところが、突然二人の間に李浩然が割り込んできた。彼は呉宇軒の手からお菓子の小袋を奪い取り、桃蓮に手渡した。
「浩然? どうしたんだ?」
急に何事だろうと心配になり、呉宇軒は幼馴染の顔を覗き込む。すると、李浩然はまるで天敵が現れたと言わんばかりに険しい顔をして、桃蓮に鋭い目を向けていた。
「然然? おーい……もう、無視すんなよな!」
横腹を突いても後ろから抱きついても、李浩然は微動だにしない。だが、おかしなことはそれだけでは終わらなかった。桃蓮もまた、李浩然に敵意を持った鋭い目を向けていたのだ。
何故か睨み合いが発生している二人をどうすることもできず、呉宇軒は困った顔をして宇静を見る。
しかし、彼の方もまさかこんなことになるとは思っていなかったらしい。俺に振るなと顔を引き攣らせたが、彼はうんうん頭を悩ませた後、助けを求めている可愛い後輩のために人肌脱いだ。
「そっ……そういえばさぁ、お前らLunaチーム見に行った? 凄いことやってたぞ!」
「Luna姉が? 大変だ浩然、敵情視察しに行こう!」
この状況を打破するいい話を聞いて、呉宇軒は慌てて幼馴染の背中を押す。別にどの場所でお菓子を配るかは決まっていないので、少しくらい場所を移動しても問題ないのだ。
李浩然はやっと桃蓮に威嚇するのをやめ、呉宇軒へと視線を向ける。その表情は穏やかで、呉宇軒は先ほどまでのピリピリした態度はなんだったのか不思議に思う。
「行ってみよう」
そう言った李浩然は少し落ち着きがないように見えた。一刻も早く桃蓮から離れたいという意志を感じた呉宇軒は、宇静からLunaの場所を聞き出すと歩き出す。
「あっ、ちょっと待て。僕を置いて行くな!」
律儀に客たちにお菓子を配っていたイーサンが、二人の移動に気付いて慌てて追いかけてくる。だが、先ほどのパフォーマンスで観客の心を掴んだキョンシー三人組は、歩く度に人に捕まって思うように進めない。
人混みを掻き分けてどうにかLunaのいる場所へ辿り着くと、そこにはとんでもない光景が広がっていた。
長い列を成す男子生徒たちの先頭に、Luna率いる魔女軍団が立っている。よく目を凝らして見てみると、彼女たちは一つの椅子を囲んでいた。
「あれは何をしているんだ?」
真っ先にイーサンが疑問の声を上げる。
遠巻きに眺めていると、列の先頭にいた男子が椅子に腰を下ろした。
「ト……トリックオアトリート!」
椅子に座った男子がそう叫ぶと、美しい魔女たちが彼を取り囲んだ。その光景はまるでハーレムのようで、辺りで見ていた男子たちから「おお……」とどよめきが上がる。
Lunaはトレーに乗った色とりどりのマシュマロから一つ摘み上げると、座っている男子の口の中にそっと押し込んだ。
間違いない。彼女は厚手のタイツで逃した男子票を取り戻しにきている。
「うわっ、羨まし……じゃなかった、あんなの反則だろ!」
呉宇軒は幼馴染からの冷ややかな視線を感じ、慌てて言い直した。彼の言葉に、イーサンも同意する。
「あんなことやって良いのか?」
「こうなったら、俺たちも対抗するしかないな。任せとけ! 良いアイディアがある!」
「それ、大丈夫なやつだろうな?」
イーサンが不安そうに横目で見る中、呉宇軒は大きく息を吸い込むと、周りに向かって叫んだ。
「注目! 俺に口移しで食べさせてもらいたい人ーっ!!」
そう言って予備のチョコレートを口に咥えたものの、李浩然が襲いかかってきた。彼は呉宇軒の口からチョコを直接食べると、どさくさに紛れて触れるだけの口づけをする。
「きゃあああっ!? 今の見た?」
「もう一回やってぇ!!」
衝撃の光景に女の子たちはまたもや大騒ぎだ。しかし、当の李浩然はご立腹で、馬鹿なことをしようとした呉宇軒を真っ直ぐに見つめ、無言で怒りを訴えている。
「わ、悪かったって……でもさ、俺たちも何か対抗しないと。このままじゃLuna姉にやられっぱなしだろ?」
慌てて言い訳するも、李浩然の怒りはちっとも収まらない。行き過ぎたおふざけを責める視線は鋭く、呉宇軒はどうにか彼の怒りに触れない範囲で何かできないか頭を悩ませることになった。
「……そうだ! ちょっといい? 今度は当たり障りのないやつにするから!」
絶対に大丈夫と念を押し、李浩然にだけこっそり耳打ちする。彼は眉を顰めて許可を出すべきか躊躇っていたが、呉宇軒が両手を合わせてお願いとねだると、いつものように渋々折れてくれた。
「一人三秒までなら……」
「少なすぎるよ! 五秒まで!」
二人のやり取りを隣で聞いていたイーサンは、何の話か分からず怪訝な顔をする。
呉宇軒は幼馴染との話し合いの結果、どうにか五秒で手を打つことに成功すると、ファンの子たちに向かって両手を広げて改めて叫んだ。
「フリーハグ!!!」
その声が響き渡るなり、目の前にあっという間に行列ができる。
だが、どうしたことだろうか。列にはファンの女の子たちだけではなく、何故か男子たちも混じっていた。
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