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第一章 早すぎる再会
3 呉宇軒、才女に出会う
しおりを挟む呂子星の提案を採用し、三人は先に食堂へと向かうことにした。昼食にはまだ少し早いが、学生が多いので混み始める前に済ませてしまった方が良い。
近道を知っていると言う呂子星の案内に従って、人のまばらな図書館の中を進んでいく。呉宇軒たちが寝泊まりする学生寮とは目と鼻の先にあるこの図書館は、最近内装を新しくしたようで外から見るよりもずっと綺麗だった。
天窓から降り注ぐ日差しが眩しく、呉宇軒は思わず目を細めた。
八月もあと少しで終わりとはいえ、まだまだ日差しは強い。本格的に授業が始まる頃には落ち着くだろうが、明日から始まる軍事訓練は厳しいものになるだろう。
夏休み中らしく賑やかな図書館には、驚いたことに勉強している学生たちが何人も座っていた。中には居残っている先輩が混ざっているかもしれないが、この時期にいるのは十中八九新入生だ。
大学の試験前を思わせる地獄のような光景に、呉宇軒はうげぇっと心底うんざりした声を出した。
「最初の授業もまだだってのに、もう勉強してるやつがいんのかよ」
朝から晩まで勉強漬けだった日々からようやく一時解放されたのに、自主的に勉強をする者がいるとは。それもまだ夏休み中にだ。
さすが、国内で一二を争う難関大学だ。髪の内側を真っ赤に染めている呉宇軒は、こうして見渡してみると周りから少々浮いていた。
「そりゃあいるだろ。皆が皆お前みたいに勉強できる訳じゃねぇんだし」
呂子星は勉強している学生たちを眺めながら先を行っていたが、あっと声を上げて足を止めた。急に止まったせいで王茗が背中に顔をぶつける。
「なんだよぉ!」
「いや、あそこに高校の同級生が座ってるんだよ。満点合格したうちの一人」
不満げに鼻を擦る王茗に、呂子星は四人掛けのテーブルで一人勉強に励んでいる女子を顎で指した。熱心にノートに書き込んでいる彼女の前には、分厚い本が何冊も積み上がっている。
王茗の背中から顔を出し、呉宇軒は興味津々に彼女を見た。
「へぇ、俺と浩然以外にも満点取ったやつがいたんだ。しかも女の子!」
ただでさえ難しいと言われている高考の試験、満点を取った学生が同じ大学に集結するとは凄い偶然だ。
真っ直ぐな黒髪をおさげに結んだその女子生徒は、四人掛けのテーブル席を広々と使いながら真剣な顔でノートに向かっている。いかにも真面目な優等生だ。
「彼女の名前は? ちょっと挨拶してこようかな」
何故か関わりたくなさそうにしている呂子星から名前を聞き出すと、呉宇軒はにこにこしながら彼女の向かいに座った。
何せ、ようやく女子と会話ができるのだ。浮かれないでいる方が無理と言うものだろう。
ルームメイト二人は着いてくる気がないらしく、離れたところからひっそりと様子を伺っている。呂子星が渋い顔をしているのが少しだけ気になったが、呉宇軒は構わず彼女に声を掛けた。
「やあ、満点合格した王清玲って君のこと? 俺呉宇軒って言うんだ。君と同じ満点合格者」
王清玲は迷惑そうにノートから顔を上げてずれた眼鏡を直すと、赤く染まった呉宇軒の髪を見てぎょっとした表情で固まった。
当然の反応だ。いきなり目の前に派手な髪色の男が現れたら誰でも驚く。
狙い通りに女子のびっくりした顔を拝めた呉宇軒は、吹き出しそうになるのを堪えて彼女に微笑んだ。
彼女は不安そうにキョロキョロと辺りを見回し、どうしたものかと困惑した様子で躊躇いがちに口を開く。
「あの……あなたが呉宇軒?」
高考で満点を取るのはかなり珍しいので、彼女の方は呉宇軒の名前を知っていたらしい。疑うような眼差しに、呉宇軒は軽薄な笑みを浮かべたままうんうんと頷いた。
「分かるよ、頭良さそうに見えないだろ? よく言われる」
髪色が派手なせいもあり、見た目は真面目とは程遠い。呉宇軒をよく知らない人は大抵、彼がテストで満点以外を取ったことがないと言うと大層驚くのだ。
彼女はそんなことは……と口ごもるも、隠しようもなく疑わしげな表情をしている。それからどうも、と素っ気なく挨拶を返し、関わりたくないと言わんばかりの態度で視線をノートに戻した。
「私、勉強してるので……」
気安く話しかけてくる男に対して、この手の真面目系女子が素っ気ないのは想定内だ。そして、呉宇軒はこの手の女子と話すのが何よりも大好きだった。
真剣に勉強するその姿に悪戯心がむくむくと沸き上がる。昔からの悪い癖で、素っ気なくされるほどつい構いたくなってしまう。
話し掛けられまいと一心不乱にペンを走らせる姿は、長年女の子にちょっかいをかけ続けてきた呉宇軒からすると隙だらけだ。身を乗り出すと気配を殺してそろりと手を伸ばし、無視を決め込む彼女の眼鏡を素早く取った。
「ちょっと! 返してよ!」
驚いて顔を上げた王清玲がペンを叩き置き、キッと睨み付けてくる。
ちょっとした悪戯でも真面目な子ほどよく食い付くもので、まんまと釣り上げることに成功した呉宇軒は悪びれもせずへらへらと笑って返した。
「えぇー? なんでなんで? 俺の格好いい顔がよく見えないから?」
「そんなわけないでしょ! 自惚れないで!」
大きな声に周りから注目が集まる。遠巻きに様子を伺う生徒たちの好奇の目に晒され、王清玲は怒り心頭に身を乗り出した。
眼鏡を取り返そうと手を伸ばす彼女の目を見つめ、呉宇軒はにやりと笑った。
「君、眼鏡を取っても可愛いね」
怒りからか羞恥からか、王清玲の顔がたちまち真っ赤に染まる。振り上げた拳はぷるぷる震え、今にも爆発寸前だ。
「ふ、ふざけないでよ!」
「本心だけど?」
彼女は服装こそ垢抜けないが、顔立ちは意外にも整っていた。可愛い服を着て化粧をすれば一気に美少女の仲間入りをしそうなのに、なんとも勿体ない。
伸びてきた手をかわしてからかっていると、不意に誰かが呉宇軒の手首を掴む。
この状況で割り込んでくるなんていい度胸だ。どんな顔をしているか拝んでやろうと振り返ると、そこにはよく知った人物が立っていた。
育ちの良さそうな清廉とした佇まいの青年が、呆れ気味に口を開く。
「阿軒、返してあげなさい」
咎めるような切れ長の瞳に見下ろされ、呉宇軒はむっとして眉を顰めると心の中で舌打ちした。こんなところで李浩然に出くわすとはついてない。
「掴まれてたら返せないんだけど?」
嫌味ったらしく指摘するとすぐにぱっと手が離れ、呉宇軒はやれやれとため息を吐いた。全く、これでは興醒めもいいところだ。
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