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第三章 夢いっぱいの入学式
10 打倒女王様
呉宇軒はめげずに幼馴染越しに話をしようとしたが、またもやチラシが壁となって立ちはだかる。邪魔な紙を指で弾くと、何食わぬ顔で邪魔をしてくる李浩然をジト目で見た。
「然然? 俺との約束、忘れてないだろうな」
尋ねるも、彼は黙ったままで視線を合わせようともせず、顔を覗き込むと今度は明後日の方向を向く。悪いことをしている自覚がある何よりの証拠だ。
呉宇軒はどうにか目を合わせようと、耳を引っ張ったり頬っぺたをつねったりしてちょっかいをかけたが、彼は毅然として無視を決め込んでいる。一通りの悪戯を試した呉宇軒が次の手は何にしようか考えていると、李浩然は急に彼を強く引っ張り、自分の膝の上に乗せてしまった。
ちょうど高進に背を向ける形で幼馴染の上に乗ってしまった呉宇軒は、彼がついに強硬手段に出たと思い文句を言おうとしたが、それを遮るようにして李浩然が口を開いた。
「話したいならこの状態で」
「これじゃあお前の顔しか見えないんだけど?」
幼馴染の腕に背中を預け、小さな頃と全く変わらない我儘に微笑む。どうしても面と向かって話してほしくないらしい。
李浩然は聞こえないふりをして幼馴染の言葉を聞き流した。都合が悪くなるとすぐにこれだ。
仕方がないので、どうにか体を捻って後ろの高進と話そうと位置を調整していると、視界の端にこちらを見る猫猫先輩が見えた。音もなく忍び寄って来ていた彼女を見て、呉宇軒は驚いてビクッとした。
「うわっ!? びっくりした……先輩何やってるんですか」
「君たち本当仲良いね」
そう言ってふふふ、と意味ありげに笑う。テーブルの陰から覗き見るように目だけを出している姿は、はっきり言って不気味すぎる。
彼女に気付いた猫奴が身を乗り出し、野良猫を追い払うようにしっしと手で払う。猫猫先輩は失礼な後輩に怒るでもなく、名残惜しそうな顔をしながらスーッと下に消えていった。消え方が完全に不審者だ。
「わぁ……なんかいけないモノ見ちゃった気分」
一体彼女はどこへ行ったのだろうかと目で追おうとしたが、幼馴染ががっちり腰に手を回して動けないようにしていたので感想を言うに留める。
「刺激するなって言ったろ? 追い払ってもすぐ戻って来るぞ」
二人は先輩後輩の仲ではあるが、師弟関係でもあるので力関係は猫奴の方が上らしい。まるで妖怪のような言い草だ。
話しやすい体勢をあれこれ試した呉宇軒は、結局高進に少し後ろへ下がってもらうことで話ができるようにした。
彼はしばらく黙っていたが、ややあって思い切ったように切り出した。
「俺、あんたに頼みたいことがあったんだけど……」
仲良くなりたいと思っていたところにそう言われ、呉宇軒は食い気味に身を乗り出す。
「なになに? なんでも言ってよ! 俺基本NG無いから」
「学園祭の終盤に仮想大会があって……」
「仮想大会?」
高進の話によると、学園祭とハロウィンの時期が近いので、毎年仮想大会が行われているらしい。参加者は服飾科の生徒や手芸サークルの生徒が多く、ハロウィンをテーマにした衣装を着て大規模なパレードを行うそうだ。
「投票で一位になったグループには金一封が配られるらしいんすよ。桑陽にも協力してもらえることになったんだけど、衣装を着てくれる人が居なくて……」
ルームメイトの謝桑陽が参加するなら、ますます断る理由がなかった。彼はミシンの扱いに慣れているので強力な戦力になるだろう。
「なるほど! 入学早々金一封狙いとはやるじゃないか」
人気モデルの呉宇軒が衣装を着れば、票が集まるのは間違いない。勝ちを狙うならこれ以上ない選択だ。
ところが高進は何故か浮かない顔をした。
「それが、去年の優勝はLuna先輩だったみたいで。今年も当然出るだろうから勝てるかどうか……」
「Luna姉か……確かにそれは手強いな。でも俺たちには心強い味方がいるだろ?」
そう言うと、呉宇軒は聞き耳を立てていた幼馴染の頬をつんつんと突いた。
「浩然、もちろん協力してくれるよな?」
「君の頼みなら聞かないわけにはいかないな」
二つ返事で頷いた李浩然がにっこりと微笑む。幼馴染から承諾の言葉を引き出してぐっと親指を立てると、一縷の望みが見えた高進はぱっと表情を明るくさせた。
しかし、相手はトップモデルのLunaだ。幼馴染コンビがいくら女子人気が高くても、女子票を総取りできるとは限らない。呉宇軒はキョロキョロと辺りを見渡し、鮑一蓮と話していたイーサンに目をつけた。
「イーサン、ちょっとこっち来てくれない?」
ブンブンと手を振って呼びかけると、彼は幼馴染の膝の上に座る呉宇軒を見て目を丸くさせ、慌てて駆け寄って来た。
「一体何をしてるんだお前は」
「ああ、これ? 気にしないで。いつもの事だから」
美男が三人集まり、途端に華やかな空気になる。高進の話をそっくりそのまま教えると、親密な幼馴染二人に怪訝な顔をしていた彼はたちまち目を輝かせた。
「あのLunaを倒せたら一躍時の人になれるな。そういう事なら協力してやってもいい」
モデルをしているだけあって、こういった行事には抵抗がない。イーサンは突然の誘いにも関わらず乗り気で頷いてくれた。
打倒Lunaを掲げ、四人は心を一つにする。
「衣装はどうする? 俺キョンシーが良いな!」
「ハロウィンなんだから吸血鬼だろう!」
呉宇軒とイーサンの意見がぶつかり合い、一つになった心が早速真っ二つに別れた。すると、李浩然がそっと幼馴染に一票を投じる。
「さすが俺の然然!」
呉宇軒は感謝の気持ちを込めて幼馴染をぎゅっと抱きしめた。頼れる味方の李浩然は、多数決の場ではいつも助けてくれる。
「おい! お前たち狡いぞっ」
二対一になり、途端に不利になったイーサンが吠える。そうは言っても作るのは自分たちではないので、実のところここで意見を戦わせてもあまり意味は無かった。
「お前さ、作りやすさもちゃんと考えてやれよ? それに吸血鬼の衣装って個性が出し辛いだろ?」
審査対象はあくまでも衣装なのだ。独自性で勝負をするなら自由度が高い方がいい。
イーサンはいい反論が思いつかなかったのか、悔しそうにぐぬぬ……となって押し黙った。
「衣装係の高進はどっちがいい?」
呉宇軒が決定権を委ねると、彼は困った顔をしてチラチラとイーサンの方を窺い、言い辛そうに答えた。
「俺!? ええと……キョンシーの方がアレンジがしやすくていいかな……」
自分の案が採用されず、イーサンががっくりと肩を落とす。一人も味方が居ないのはさすがに可哀想で、呉宇軒は彼の肩をポンポンと叩いて慰めた。
「心配すんなって! 格好いい衣装作ってもらおうぜ」
「そ、そうそう、それにまだ本決定じゃねぇから。被ったらくじ引きになるし……」
高進も慌ててそう付け加え、二人から慰められたイーサンは僅かに元気を取り戻した。そして落ち込んでいたことを誤魔化すようにふんと鼻を鳴らす。
「ダサい衣装作ったら承知しないからなっ」
彼はそう言って李浩然の隣にどすんと腰を下ろした。先ほどまで座っていた席が埋まり、呉宇軒はむっとして口を尖らせる。
「俺の席が無くなったんだけど!」
「お前はずっとそこに居ろ!」
「浩然、あいつあんなこと言ってる! ちょっと……聞いてんのか? おーい」
こんな時に限って味方になってくれない李浩然は、黙ったままそっと目を逸らした。このままでいてほしいという無言の意思表示だ。
口に出せば怒られるから黙ってごり押そうとしている。子どもっぽい抵抗に呉宇軒は堪らず吹き出した。
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