真面目ちゃんの裏の顔

てんてこ米

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第十章 不穏

23 当然の結果

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 幸せいっぱいに抱き合う二人に、周りから一斉に拍手の雨が降り注いだ。友人たちは彼らを取り囲むようにわっと集まってきて、口々にお祝いの言葉を口にする。

軒軒シュェンシュェン然然ランランおめでとぉ!」

 一際大きい王茗ワンミンの声を皮切りに、パンパンとクラッカーの音が鳴り響き、その中にカメラのシャッター音が混ざる。浮かれて幼馴染に抱きついていた呉宇軒ウーユーシュェンが顔を上げると、正面で猫猫マオマオ先輩が涙ぐみながらカメラを構えていた。
 そんな中、大喜びな友人たちの輪を外れ、一歩引いた二人が肩を並べて様子を眺めている。高進ガオジン子陽ズーヤンだ。

「おい、あいつらなんか物騒なこと言ってなかったか?」

「怖い怖い、金持ち怖い」

 子陽ズーヤンのさり気ない突っ込みに、高進ガオジンも全力で同意する。彼らのやり取りは一見情熱的だが、言っていることはかなり物騒だった。

「まあ、なんにせよ、これで呉宇軒ウーユーシュェンの馬鹿がやっと静かになるな」

 そう皮肉を言いながら、二人の元へイーサンが混ざってくる。彼は両思いにも拘らず大騒ぎする呉宇軒ウーユーシュェンの恋バナに散々付き合わされていたので、人騒がせな彼らに呆れ顔だ。
 友人たちが婚約成立した二人を囲んでわいわい騒いでいると、キッチンの方から呂子星リューズーシンの不機嫌な声が聞こえてきた。

「おい、もう持っていっていいんだよな? 行くぞ!」

 返事を待たずに姿を現した彼は、三段重ねのピンク色のケーキを持って登場する。叔父の経営するカフェでお祝い用のケーキを頼んでいてくれたのだ。ケーキのてっぺんには、婚約おめでとうと書かれたチョコレートのプレートが飾ってある。
 まるで初めから結果が分かっていたかのようなプレートの文字に、呉宇軒ウーユーシュェンは苦笑いするしかなかった。

「なんだよ……お前たち、わざわざこのために準備してくれてたのか?」

 思い返してみると、不自然な点が色々あった。李浩然リーハオランがめっきり寄り付かなくなったことに始まり、イーサンとLunaルナのぎこちない会話、何故か妙に焦っていた王茗ワンミン……。おかしいとは思っていたが、みんな呉宇軒ウーユーシュェンからプロポーズ計画を隠すために必死だったようだ。
 ケーキをテーブルに置いた呂子星リューズーシンは、幼馴染の腕の中にすっぽりと収まっている呉宇軒ウーユーシュェンに呆れ気味の視線を向ける。

「お前が突然、結婚しようって言い出した時は肝が冷えたぞ。李浩然リーハオランが上手く流してたけど」

 李浩然リーハオランが作った手作り蒸し海老餃子を食べた時に、つい口をついて出た言葉だ。あの時、確かにその場の空気が凍りついて不思議に思っていたが、理由を知った今なら納得だった。

「ああ、あれな。マジでビビったよ。俺、何か変なこと言ったかなって……もしかして、浩然ハオランが部屋に寄り付かなかったのってプロポーズ計画のためだったのか?」

 李浩然リーハオランの優秀さなら、料理の練習は一週間も必要ない。そのことに思い当たった呉宇軒ウーユーシュェンが喜びに目を輝かせて尋ねると、李浩然リーハオランは彼に向かって優しく微笑んだ。

「うん。君に先を越されると思って、会うのを我慢していた」

 何もかもお見通しな幼馴染からそう言われて、呉宇軒ウーユーシュェンはへへへ、とはにかんだ。最近様子がおかしかったので、李浩然リーハオランも彼の好意に薄々気付いていたらしい。そのため、先に告白されないようにあえて距離を置いていたのだ。
 すると、せっかくの苦労を一瞬で水の泡にしていたことを思い出した呂子星リューズーシンが鼻で笑う。

「結局先越されてたけどな」

「あ、あれは冗談だって! まさか、プロポーズしようとしてたなんて思わなくって……ってか、俺が受けるってよく分かったな!」

 呉宇軒ウーユーシュェンは友人たちの前で幼馴染に惚れたと大騒ぎしていたものの、結婚の話まではしていなかった。それなのに、呂子星リューズーシンだけでなく友人たちのほとんどが、彼がプロポーズを受けると思って準備していた節がある。
 ニヤニヤして冷やかしモードの猫奴マオヌーが、彼の疑問に答えてくれた。

「お前なら喜んで飛びつくと思ってたからだよ。言っておくが、計画も前準備もやったのは李先生だからな。俺たちはちょっと手伝っただけだ」

 そう言って、彼は呉宇軒ウーユーシュェンに携帯の画面を見せた。
 そこには見慣れたアンチたちの姿が映っていて、大盛り上がりで祝杯の準備をしている。プロポーズの瞬間を見届けるために、テレビ電話を繋いでいたようだ。

「イケメンが二人、婚活市場から消えたぞ! お前ら祭りだあぁぁ!」

 飲み会の主催者らしい男子の大きな声を合図に、冴えない男子たちが歓声を上げながらグラスをぶつけ合う。呉宇軒ウーユーシュェン李浩然リーハオランが身を寄せ合って携帯を覗き込むと、小さな画面いっぱいに見慣れた眼鏡男子の顔が映った。

「おいクソ犬、絶対別れんじゃねぇぞ!」

「李先生を幸せにしてやれよな!」

 押し合いへし合いしながら、彼らはわいわいと賑やかに祝いの言葉をくれる。だが、彼らの後ろからふと冷静な声が聞こえてきた。

「待てよ? あいつらが付き合ったからって、女子が俺たちを選ぶと思うか?」

「おい馬鹿やめろ!」

「それを言うんじゃねぇ!」

 ご機嫌で祝っていた彼らは途端に顔をしかめ、余計なことを言った犯人を追いかけに行ってしまう。とにもかくにも大盛り上がりだ。
 それからしばらく画面の向こうは乱闘騒ぎで混乱を極めたが、主催者の男子がひょっこりと顔を出した。

「まあ、なんだ……おめでとう。近いうちにちゃんと祝おうな! おい、そろそろ静かにしろ! 店の迷惑だろうが!」

 アンチオフ会でまた会おうと言い残し、映像がぷっつりと切れる。嵐のような勢いに、画面を覗いていた二人は顔を見合わせて吹き出した。

「……あいつら、祝ってくれたんだよな?」

 どう見ても最後は大乱闘が始まっていたが、彼らは楽しそうだった。
 まさかアンチたちがこんな風に祝ってくれるとは思わず、呉宇軒ウーユーシュェンは嬉しくてニヤニヤが止まらない。すると、李浩然リーハオランは穏やかな笑みを浮かべて彼に尋ねた。

「うん。幸せにしてくれる?」

「あったり前だろ!」

 元よりそのつもりで、呉宇軒ウーユーシュェンは胸を張ってそう返す。
 李浩然リーハオランはどんな時でも自分を支えてくれた大切な家族だ。そして、今では最愛の婚約者になった。
 薬指に嵌った指輪にそっと触れ、彼はまるで誓いのキスでもするように愛しい幼馴染の唇に熱っぽく口づけた。

「じゃあ、ケーキ食べよう! ケーキ!」

 二人が醸し出すいい雰囲気をぶち破るように、王茗ワンミンの元気な声が響く。すると、謝桑陽シエサンヤンがケーキ用の長いナイフを持ってきて、呉宇軒ウーユーシュェンに手渡した。ご丁寧にも、持ち手の部分にピンクのリボンが巻かれている。

「少し気が早いですが、ケーキ入刀といきましょう」

 その一声で、部屋の中にケーキ!ケーキ!とケーキコールが巻き起こった。
 切り分けを託された二人は、互いに視線を交わして微笑むと、可愛らしいピンクの三段ケーキに向き直る。よく見るとケーキにはクリームで作った薔薇が乗っていて、いかにもウエディングケーキらしい。

「ケーキ入刀!」

 ノリノリで司会に扮した王茗ワンミンの声を合図に、二人はナイフをそっとケーキに差し込んだ。
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