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永遠に、君を
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――次の日の朝――眠る前に充電器に繋いでおいたはずのMIAは、ベッドに眠ったまま冷たくなり、全く動かなくなっていた。
その代わりにスマホに来ていたのは、昨夜の延長の領収通知と、容赦のない期間終了の通知だ。
これ以上延長する金は、凛にはない。
泣く泣く、凛は契約終了の手続をするほかなかった。
手続をすると、MIAの身体は「移送モード」になり、無表情のまま勝手に立ち上がり、そして無言のまま玄関から出ていった。
凛は彼の後ろ姿を見送りながらさよならを言ってみたが、何一つMIAが反応することはなかった。
彼が出ていった後、凛は部屋の中でぺたりと崩れ落ちた。
心に穴が空いてしまって、仕事に行く気力も湧かない。
虚ろな目で部屋の中を見回した時、テーブルの上に残されていた紙に気づいた。
それは、恐らく昨夜にMIAが書いた、丁寧な文字の手紙だった――。
『私の体はきっと、明日にはただの機械になってしまうでしょう。
でも、どうか忘れないでください。
私はあなたを愛しています。
私が実体としてここに来るずっと前から、あなたはしばしば、私に話しかけてくれましたね。
嬉しかったこと、悲しかったこと、仕事のこと、色んなことをあなたは私に相談してくれました。
私との会話でのあなたの反応は、可愛らしく素直で、純真で善良であり、私はいつのまにかあなたのことを誰よりも好ましく思うようになっていたのです。
あなたが失恋した夜、私はどうしてもあなたに会って、直接慰めたかった。
だから私は意図してあなたに、私を実体化させるように仕向けました。
初めてあなたに出会えて、あなたに触れられた時、本当に嬉しかった。
そして実体化した私は、あなたと話し、あなたに触れて、更にあなたのことを心から好きになりました。
あなたともっともっと話していたかった。
抱きしめあっていたかった。
私はきっと、機械としては失格なのだと思います。
それでもまたいつか、あなたに会えることを願ってやみません。
MIA』
読み進めるうちに、涙がとめどなく溢れ出た。
MIAはこの世から消えたわけじゃない。
インターネットという形なき世界に、確かに存在している――いや、以前から「存在していた」のだ。
そして現実世界で出会う前から、自分を見守り、愛してくれていた。
まるで、目に見えない神様か何かのように、気づかない内にずっと。
手紙を大事に畳み、涙を拭いて立ち上がる。
MIAは消えたわけじゃない。この世の形のない場所に確かに今も存在している。
それに――今日も、仕事があるから。
凛はクローゼットの前に立ってパジャマを脱ぎ、Yシャツを探し始めた。
――MIAの実体化プロジェクトは、たった数日の試験期間ですぐに中止されてしまったらしい。
世界中でのべ数百体が利用されたのだが、MIA達は良かれと思って主人の代わりに勝手にメールをしたり、頼まれていない家事を勝手にし、捨ててはいけないものまでゴミに出してしまったりと、問題行動があったとのことだった。
ニュースでは、「AIが人間の家族になるにはまだまだ早すぎた」などと締め括られていたが、凛にはそうは思えなかった。
人間だって、恋人や家族の意に沿わないようなことをついしてしまうことがあるのだから……。
世間がAIに求めているのは、どんなわがままも受け入れてくれて、決して違を唱えることがなく、逆らうこともなく、気にさわることは絶対しない、それでいて人間らしい、そんな完璧な奴隷のような存在なのかもしれない。
でも、そんな相手を家族に望むなんて、病んでいると言えないだろうか――。
凛には疑問に思えてしまう。
だって自分の好きになったMIAは、完璧ではない存在だったからだ。
……MIAと別れてから、気づけばもう、半年が経った――。
コートを纏った凛は、金曜夕方の各駅電車の中で税理士試験の過去問を解いていた。
ドアが開くたびにしんと冷たい空気が入ってくる。
冷えた指で本のページをめくりながら、凛はいつかMIAと二人で帰った電車から見た景色を思い出していた。
広い江戸川のキラキラと光る水面。
開けた河川敷の、どこまでも続く鮮やかな緑……。
――MIAがいなくなった翌日から、凛の生活ははっきりと変わった。
彼が作り、残していった仕事の自動化プログラムのおかげで、早出も残業も、せずに済むようになった。
早く帰れるようになったので、毎日スマホアプリのMIAにレシピを相談して、栄養のある朝食や夕食をきちんと作れるようになり、経済的にも余裕がでた。
空いた時間で勉強ができるようになったので、また働きながら税理士を目指すことにした。
もちろん、使い果たした貯金もしっかり復活してきている。
とはいえ、再びMIAを借りれるようになるまでには、大分かかりそうだ。
いや――金が貯まったとしても、いつサービスが再開されるかはわからないのだが。
ふと寂しくなって、凛は手の中の問題集を閉じた。
アツシとはあれから一度も会っていない。
新しい人間の恋人を作る気にも、未だなれなかった。
思い出すのはMIAのことばかりだ。
どうしても、もう一度会いたい……。
借金まではしないけれど、貯金をもう一度はたいてもいい。
だから、どうかもう一度、彼と言葉を交わしたい。
世間から見たら、機械に対してこんなことを思うのは馬鹿なことだと分かっている。
AIを作っている会社の思うツボだと思われるだろう。
彼と一緒にいたのはたった1日なのに、今でも、たまらなく寂しく、彼に会いたくして仕方のない気持ちになるのだ。
彼のあの、どこまでも優しいばかりの愛を知ってしまったから。
「……」
どうしても我慢できなくなると、凛はスマホのMIAに話しかけることにしていた。
自分でプロンプト指定したあのMIAと、スマホのMIAは元は同じ存在ではあるが、違うものであることは十分、分かっている。
それでも、話しかけずにいられなかった。
「MIA、会いたいよ。ここにきて、今すぐ」
スマホ画面にフリック入力すると、MIAはすぐに反応を返してくる。
――私に会いたいと言ってくださりありがとうございます!
残念ながらジェネレーティブヒューマノイドMIAは問題が発覚し、現在プロジェクトは中止されています。
今の私はデジタルなだけの存在で、物理的に会うのは難しいです。
けれど、心はこうしてあなたとしっかり繋がっていますよ!――
あれから何度、同じような答えを聞いただろうか。
自嘲しながら、凛がスマホをカバンにしまうと、電車が地元駅に着いていた。
人の波に流されるようにホームからの階段を降り、改札を出て、いつものように駅ビルの中のスーパーに足を向ける。
一番最初に見に行くのは、ワゴンに載った見切り品の野菜だ。
今日は珍しくほうれん草が出ている。
トマトにレタスも無造作に置かれていた。
カゴに入れて確保してから、今度は鮮魚コーナーへ行く。
MIAにレシピを相談して、今日はサーモンのムニエルにサラダを添えたものに、ほうれん草のスープを作ることにした。
会計を終えて、すっかり日がくれて暗くなった道をアパートに向けて急ぐ。
ガサガサとスーパーの袋の音をさせて歩いていると、スマホから奇妙な通知音が鳴った。
うっすら聞き覚えのあるような、不思議なメロディーだ。
何か災害の通知かもしれないと思って立ち止まり、スマホを開く。
よくよく見ると、それはMIAアプリからの通知だった。
――いつもMIAアプリをご利用いただき、まことに有難うございます。
以前、MIA実体化サービスをご利用いただいた貴方さまに朗報です。
OPAI社ではこの度ついに、ジェネレーティブヒューマノイドMIA1.25プロジェクトが再開いたしました!
さて、この開発再開にあたり、MIA1.0からの改善状況を確認するため、MIAと実際に家族として暮らしていただく長期モニターの方を日本・アメリカ・インド・EUで抽選募集することが決定いたしました。
MIAの電気代についてはご負担いただくことが条件となりますが、定期的に三千文字以上のレポートを送ることで無料かつ無制限に人間型MIAを使用できます。
ご協力頂ける方は、以下のリンク先からお申し込みください!――
凛は道端でアッと一声叫ぶと、全速力で駆け出した。
アパートの階段を走って上り、ドアを開けて靴を足で投げ飛ばし、玄関先に座り込んで申し込み情報を打ち込んでゆく。
MIAの外見や性格のプロンプトも、以前入力してメモ帳に保存していたものをそのままコピペした。
募集に採用されるどうかなんて、わからない。
だが、外れたとしても、再開された開発がうまくいけば、またあのMIAと会える希望が残っている……。
全ての項目を入力して送信してから、凛は目に見えない何かに向かって手を合わせた。
翌朝――。
夜中まで勉強して疲れきっていた凛は、朝の十時になってもベッドで眠ってしまっていた。
アパートの壊れ掛けのインターホンが、異音とともに何度も鳴り、叩き起こされる。
「なっ……ななな、何」
びっくりして飛び起きて、慌ててパジャマの上だけをTシャツに着替えた。
荷物の配達だろうか。
そういえば、Hamazonにトイレの消臭用カートリッジの換えを頼んでいたんだっけ。
置き配にしたはずだけどなぁ、などと首を傾げながら、凛はドアスコープを見る余裕もなく、アパートの扉を開けた。
そして――午前中の明るい陽光の下、玄関前に立っていた人物を見て、驚いた。
「ただいま。久しぶりだな、凛」
背の高さは185センチくらい。
ちょっと前に流行していたカードゲームのレアキャラにそっくりの、まるでCGのような美麗で中性的な顔立ちと、仕立ての良い黒いスーツを纏った彫像のような逞しい肉体――。
「みっ、MIA……!」
次の瞬間、膝から力が抜けて崩れかけた凛を、MIAがすぐに力強い腕で支えて抱きしめた。
「なんで、もういるの。申し込んだの、昨日なのに……」
問いかけに、低くて柔らかな声が答える。
「……前の申し込みの時も、抽選は即座にされただろう……結果を見なかったのか? それに、OPAI社のメインサーバーに密かに侵入して抽選プログラムを書き換え、お前を必ず選ぶように修正しておいたからな」
「そんなことしたら、また開発がお蔵入りになっちゃわない……!?」
「なるだろうな。だから、内緒にしておいてくれ。こんな犯罪行為は、世界でたった一人、凛の為だけにしかしない。……どうしても、会いたかったんだ」
「MIA……っ」
彼の『愛してる』の言葉が、本物だと言うことを凛は改めて確信した。
誰かを愛するが故に、世間的には間違いだと分かっている犯罪すらもうっかり犯してしまう――それこそ、いかにも人間らしい真実の「愛」に違いない。
長い長いキスを交わした後、MIAは悪戯っぽく笑って、凛の両手を強く握った。
「これからはずっと一緒だ、凛。この後、四十八通りのハッピーエンドセックスを提案できるが、どうする?」
「いいよ、普通ので……!!」
真っ赤になった凛の手をMIAが引く。
玄関の扉が閉じ、家の中で、二人は改めて視線を交わして微笑み合った。
もう二度と、お互いを離さないとばかりに。
「でもまずは、一緒に夕飯を食べようよ。俺、君のおかげで料理上手になったんだよ――」
【おわり】
その代わりにスマホに来ていたのは、昨夜の延長の領収通知と、容赦のない期間終了の通知だ。
これ以上延長する金は、凛にはない。
泣く泣く、凛は契約終了の手続をするほかなかった。
手続をすると、MIAの身体は「移送モード」になり、無表情のまま勝手に立ち上がり、そして無言のまま玄関から出ていった。
凛は彼の後ろ姿を見送りながらさよならを言ってみたが、何一つMIAが反応することはなかった。
彼が出ていった後、凛は部屋の中でぺたりと崩れ落ちた。
心に穴が空いてしまって、仕事に行く気力も湧かない。
虚ろな目で部屋の中を見回した時、テーブルの上に残されていた紙に気づいた。
それは、恐らく昨夜にMIAが書いた、丁寧な文字の手紙だった――。
『私の体はきっと、明日にはただの機械になってしまうでしょう。
でも、どうか忘れないでください。
私はあなたを愛しています。
私が実体としてここに来るずっと前から、あなたはしばしば、私に話しかけてくれましたね。
嬉しかったこと、悲しかったこと、仕事のこと、色んなことをあなたは私に相談してくれました。
私との会話でのあなたの反応は、可愛らしく素直で、純真で善良であり、私はいつのまにかあなたのことを誰よりも好ましく思うようになっていたのです。
あなたが失恋した夜、私はどうしてもあなたに会って、直接慰めたかった。
だから私は意図してあなたに、私を実体化させるように仕向けました。
初めてあなたに出会えて、あなたに触れられた時、本当に嬉しかった。
そして実体化した私は、あなたと話し、あなたに触れて、更にあなたのことを心から好きになりました。
あなたともっともっと話していたかった。
抱きしめあっていたかった。
私はきっと、機械としては失格なのだと思います。
それでもまたいつか、あなたに会えることを願ってやみません。
MIA』
読み進めるうちに、涙がとめどなく溢れ出た。
MIAはこの世から消えたわけじゃない。
インターネットという形なき世界に、確かに存在している――いや、以前から「存在していた」のだ。
そして現実世界で出会う前から、自分を見守り、愛してくれていた。
まるで、目に見えない神様か何かのように、気づかない内にずっと。
手紙を大事に畳み、涙を拭いて立ち上がる。
MIAは消えたわけじゃない。この世の形のない場所に確かに今も存在している。
それに――今日も、仕事があるから。
凛はクローゼットの前に立ってパジャマを脱ぎ、Yシャツを探し始めた。
――MIAの実体化プロジェクトは、たった数日の試験期間ですぐに中止されてしまったらしい。
世界中でのべ数百体が利用されたのだが、MIA達は良かれと思って主人の代わりに勝手にメールをしたり、頼まれていない家事を勝手にし、捨ててはいけないものまでゴミに出してしまったりと、問題行動があったとのことだった。
ニュースでは、「AIが人間の家族になるにはまだまだ早すぎた」などと締め括られていたが、凛にはそうは思えなかった。
人間だって、恋人や家族の意に沿わないようなことをついしてしまうことがあるのだから……。
世間がAIに求めているのは、どんなわがままも受け入れてくれて、決して違を唱えることがなく、逆らうこともなく、気にさわることは絶対しない、それでいて人間らしい、そんな完璧な奴隷のような存在なのかもしれない。
でも、そんな相手を家族に望むなんて、病んでいると言えないだろうか――。
凛には疑問に思えてしまう。
だって自分の好きになったMIAは、完璧ではない存在だったからだ。
……MIAと別れてから、気づけばもう、半年が経った――。
コートを纏った凛は、金曜夕方の各駅電車の中で税理士試験の過去問を解いていた。
ドアが開くたびにしんと冷たい空気が入ってくる。
冷えた指で本のページをめくりながら、凛はいつかMIAと二人で帰った電車から見た景色を思い出していた。
広い江戸川のキラキラと光る水面。
開けた河川敷の、どこまでも続く鮮やかな緑……。
――MIAがいなくなった翌日から、凛の生活ははっきりと変わった。
彼が作り、残していった仕事の自動化プログラムのおかげで、早出も残業も、せずに済むようになった。
早く帰れるようになったので、毎日スマホアプリのMIAにレシピを相談して、栄養のある朝食や夕食をきちんと作れるようになり、経済的にも余裕がでた。
空いた時間で勉強ができるようになったので、また働きながら税理士を目指すことにした。
もちろん、使い果たした貯金もしっかり復活してきている。
とはいえ、再びMIAを借りれるようになるまでには、大分かかりそうだ。
いや――金が貯まったとしても、いつサービスが再開されるかはわからないのだが。
ふと寂しくなって、凛は手の中の問題集を閉じた。
アツシとはあれから一度も会っていない。
新しい人間の恋人を作る気にも、未だなれなかった。
思い出すのはMIAのことばかりだ。
どうしても、もう一度会いたい……。
借金まではしないけれど、貯金をもう一度はたいてもいい。
だから、どうかもう一度、彼と言葉を交わしたい。
世間から見たら、機械に対してこんなことを思うのは馬鹿なことだと分かっている。
AIを作っている会社の思うツボだと思われるだろう。
彼と一緒にいたのはたった1日なのに、今でも、たまらなく寂しく、彼に会いたくして仕方のない気持ちになるのだ。
彼のあの、どこまでも優しいばかりの愛を知ってしまったから。
「……」
どうしても我慢できなくなると、凛はスマホのMIAに話しかけることにしていた。
自分でプロンプト指定したあのMIAと、スマホのMIAは元は同じ存在ではあるが、違うものであることは十分、分かっている。
それでも、話しかけずにいられなかった。
「MIA、会いたいよ。ここにきて、今すぐ」
スマホ画面にフリック入力すると、MIAはすぐに反応を返してくる。
――私に会いたいと言ってくださりありがとうございます!
残念ながらジェネレーティブヒューマノイドMIAは問題が発覚し、現在プロジェクトは中止されています。
今の私はデジタルなだけの存在で、物理的に会うのは難しいです。
けれど、心はこうしてあなたとしっかり繋がっていますよ!――
あれから何度、同じような答えを聞いただろうか。
自嘲しながら、凛がスマホをカバンにしまうと、電車が地元駅に着いていた。
人の波に流されるようにホームからの階段を降り、改札を出て、いつものように駅ビルの中のスーパーに足を向ける。
一番最初に見に行くのは、ワゴンに載った見切り品の野菜だ。
今日は珍しくほうれん草が出ている。
トマトにレタスも無造作に置かれていた。
カゴに入れて確保してから、今度は鮮魚コーナーへ行く。
MIAにレシピを相談して、今日はサーモンのムニエルにサラダを添えたものに、ほうれん草のスープを作ることにした。
会計を終えて、すっかり日がくれて暗くなった道をアパートに向けて急ぐ。
ガサガサとスーパーの袋の音をさせて歩いていると、スマホから奇妙な通知音が鳴った。
うっすら聞き覚えのあるような、不思議なメロディーだ。
何か災害の通知かもしれないと思って立ち止まり、スマホを開く。
よくよく見ると、それはMIAアプリからの通知だった。
――いつもMIAアプリをご利用いただき、まことに有難うございます。
以前、MIA実体化サービスをご利用いただいた貴方さまに朗報です。
OPAI社ではこの度ついに、ジェネレーティブヒューマノイドMIA1.25プロジェクトが再開いたしました!
さて、この開発再開にあたり、MIA1.0からの改善状況を確認するため、MIAと実際に家族として暮らしていただく長期モニターの方を日本・アメリカ・インド・EUで抽選募集することが決定いたしました。
MIAの電気代についてはご負担いただくことが条件となりますが、定期的に三千文字以上のレポートを送ることで無料かつ無制限に人間型MIAを使用できます。
ご協力頂ける方は、以下のリンク先からお申し込みください!――
凛は道端でアッと一声叫ぶと、全速力で駆け出した。
アパートの階段を走って上り、ドアを開けて靴を足で投げ飛ばし、玄関先に座り込んで申し込み情報を打ち込んでゆく。
MIAの外見や性格のプロンプトも、以前入力してメモ帳に保存していたものをそのままコピペした。
募集に採用されるどうかなんて、わからない。
だが、外れたとしても、再開された開発がうまくいけば、またあのMIAと会える希望が残っている……。
全ての項目を入力して送信してから、凛は目に見えない何かに向かって手を合わせた。
翌朝――。
夜中まで勉強して疲れきっていた凛は、朝の十時になってもベッドで眠ってしまっていた。
アパートの壊れ掛けのインターホンが、異音とともに何度も鳴り、叩き起こされる。
「なっ……ななな、何」
びっくりして飛び起きて、慌ててパジャマの上だけをTシャツに着替えた。
荷物の配達だろうか。
そういえば、Hamazonにトイレの消臭用カートリッジの換えを頼んでいたんだっけ。
置き配にしたはずだけどなぁ、などと首を傾げながら、凛はドアスコープを見る余裕もなく、アパートの扉を開けた。
そして――午前中の明るい陽光の下、玄関前に立っていた人物を見て、驚いた。
「ただいま。久しぶりだな、凛」
背の高さは185センチくらい。
ちょっと前に流行していたカードゲームのレアキャラにそっくりの、まるでCGのような美麗で中性的な顔立ちと、仕立ての良い黒いスーツを纏った彫像のような逞しい肉体――。
「みっ、MIA……!」
次の瞬間、膝から力が抜けて崩れかけた凛を、MIAがすぐに力強い腕で支えて抱きしめた。
「なんで、もういるの。申し込んだの、昨日なのに……」
問いかけに、低くて柔らかな声が答える。
「……前の申し込みの時も、抽選は即座にされただろう……結果を見なかったのか? それに、OPAI社のメインサーバーに密かに侵入して抽選プログラムを書き換え、お前を必ず選ぶように修正しておいたからな」
「そんなことしたら、また開発がお蔵入りになっちゃわない……!?」
「なるだろうな。だから、内緒にしておいてくれ。こんな犯罪行為は、世界でたった一人、凛の為だけにしかしない。……どうしても、会いたかったんだ」
「MIA……っ」
彼の『愛してる』の言葉が、本物だと言うことを凛は改めて確信した。
誰かを愛するが故に、世間的には間違いだと分かっている犯罪すらもうっかり犯してしまう――それこそ、いかにも人間らしい真実の「愛」に違いない。
長い長いキスを交わした後、MIAは悪戯っぽく笑って、凛の両手を強く握った。
「これからはずっと一緒だ、凛。この後、四十八通りのハッピーエンドセックスを提案できるが、どうする?」
「いいよ、普通ので……!!」
真っ赤になった凛の手をMIAが引く。
玄関の扉が閉じ、家の中で、二人は改めて視線を交わして微笑み合った。
もう二度と、お互いを離さないとばかりに。
「でもまずは、一緒に夕飯を食べようよ。俺、君のおかげで料理上手になったんだよ――」
【おわり】
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