陽炎と裂果

かすがみずほ@3/25理想の結婚単行本

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変えられた体

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 ーー勿論、油断させるための嘘のつもりだった。
 二つ目はともかく、処女云々は……恐らく、嫌がらせの冗談だろう。
 こんな身体を本気でどうこうするつもりはないに違いない。
 相手の嗜虐心を満足させ、その隙に気絶するほど殴りつけてこの屋敷を脱出する……。
 出来るだろうか。
「やっと立場が分かったか。さあ、脱ぐのか脱がねえのかはっきりしろよ」
「ど、どいてくれ……。脱げない、から……」
 静かにヴァランカが俺の上から身体を起こし、両腕が解放された。
 相手はベッドの上に胡座をかいている。
 血流が阻害されていたせいか、腕に力があまり入らない。
 反撃するのは、まだ早い……。
 冷たい視線を痛いほど感じながら、俺はなるべくのろのろと軍服を脱ぎ始めた。
 緊張の中でネクタイを解き、ジャケットを落とし、シャツを脱ぐ。
 もういい、と言われるのを待ったが、ヴァランカは無言だった。
 隙を窺おうとするが、羞恥の方が勝り、なかなかタイミングが掴めない。
 脱げかけたズボンと下着が足首から落ち、とうとう、相手が要求するとおりの全裸になってしまった。
 ヴァランカはそんな俺の姿を食い入るように見ているだけで、ブーツ一つ脱がない。
 緊張感で吐きそうになりながら、俺はヴァランカの前で膝を抱え、対峙した。
「お、お前の言う通りに、した……」
「じゃあ、しゃぶれ」
「……? 何をだ……?」
 何を命令されたのか分からずに聞き返すと、ヴァランカが呆れたように口を開いた。
「俺のチンポに決まってんだろうが。何カマトトぶってんだ。後ろまで処女な訳じゃねえだろ」
「……っ! ち、ちん……!」
 その下品な単語に頭が真っ白になって、その後の言葉が頭に入ってこない。
 本気で俺にそんなことをさせるつもりなのか。
 固まっているうちに、ヴァランカが腰の帯を解き、武器と一緒にベッドの下へ放った。
 重ね合わせてある長い上衣の前を開いて脱ぐと、一瞬見惚れるほどに美しく鍛え上げられた上半身があらわになる。
 布のたっぷりした黒いズボンとブーツだけの姿になった相手の指が、股間の前立てを閉じている紐を指で解いた。
 不穏な予感に視線を向けると、俺のかつて持っていたものと同じモノとは思えない、赤黒く太く、長いものがそこから取り出される所だった。
「ひっ……!」
 思わず息を呑んだ。
 一体なんという色をしているのだろう。
 赤黒く光る粘膜と、黒々とした皮膚……。
 陰毛も太く縮れていて、いかにも凶悪な見た目をしている。
 何より、血管が浮き立っているその陰茎が、女の腕ほどの太さがあった。
 かつての自分のは、記憶にある限りでは、形も色も違う。
 一番色の濃い所でもせいぜい少し赤みがかっている程度だ。大きさ太さだってこんなにはない。
 俺の毛は元々薄い上に細く色も薄いので、殆ど目立たなかったし……。
 まるで別の生き物のような……こんなものは、俺の知っている男性器ではない。
 しかも、更にそれをしゃぶるだなんて、そんな娼婦のような真似はとても不可能だ。
「こ、断る……!」
 僅かな距離でも逃げようと、膝を崩して後ずさった。
「はあ……? 自分の立場わかってんのか?」
「わっ、分かってる、だがどうしても出来ない……! や、やり方も分からないしっ、お前だって俺にそんなことをさせて何が楽しい……!? 他のことなら何でもするっ、考え直せ……っ」
「ちっ。仕方ねえな」
 必死で拒む俺の腕を、ヴァランカが強く掴んで引き寄せた。
「あ!」
 体勢が崩れ、胸の中に抱き締められるような形で体が、肌が密着する。
「……!」
 心臓がドクンと高鳴った。
 こんなふうに誰かと肌と肌で密着したのは生まれて初めてだ。その上、ヴァランカの赤銅色の肌が燃えるように熱い……。
 この男がそうなのか、人間なら誰でもそうなのか、経験がないから分からない。
 けれどそれが、どうしてか懐かしく心地よく感じて戸惑った。
 オルファンと同じ色の肌をして、背格好もどこか似ているからだろうか。
「やめろ、離せ……っ」
 戸惑って抵抗するが、力が入らない。
「うるせえな。少し黙れ」
 ドンと胸を押され、シーツの上に仰向けに押し倒された。
 熱い肌の感触どころか、分厚い肉体の重みが上からのしかかってくる。
 その上、俺の股間に、あの、熱く、弾力を伴ったアレの感触が……。
「どっ、どけ……っ」
 こんなことはオルファンとしかしたくないと思っていたのに、何故か自分がおかしい。
 恐怖と戸惑いに息も絶え絶えになっていると、足首を掴まれて、ガバリと左右に開かれた。
「なっ、何をする……!」
「どうせだから、教えてやるよ。あんたのここがどうなってんのか、な。スカした貴族ヅラが恥ずかしがる顔でも見りゃあ、少しは勃つかもしれねぇし」
「なっ……!」
「しっかり自分で膝、持っとけ。しゃぶらされたくなけりゃ」
 凄まれて、無理矢理両膝を抱えさせられた。
 女の部分がヴァランカに向けて剥き出しになるが、俺の目には薄っすらと盛り上がった白い丘しか見えない。
「うぅ……っ」
 恥辱に耐えていると、ヴァランカは声を張った。
「おい、キリム! 鏡もってこい」
 ひいっ、と息が止まった。
 この状況で、この部屋にこれ以上誰かが入ってくるなんてたえられない。
「やめっ、何をっ、」
 涙目で首を振ったが、ヴァランカは聞かず、ベッドを降りて扉の方へズカズカと歩いていく。
 その後ろ姿を初めて見て、心臓が跳ねた。
 赤い髪が流れるように落ちる、盛り上がった背中の筋肉の表面に……まるで皮膚を何度も削ったような……酷い、傷痕がいくつもある。
 まるで鞭で酷く打たれたような……?
 見入っている内に、ガチャリと扉が開く音がして、美しい彫刻を施した銀製の手鏡を持った少年が部屋に入ってきて、ハッとした。
 あんな年端も行かない少年に、こんな姿を見せてはいけない。
 素早く膝を閉じてぎゅっと目を瞑り、壁の方を向いてやり過ごす。
「――ああ、助かった。行っていい」
 ヴァランカの声とともに、パタパタと足音が遠ざかっていく。
 恐る恐る目を開けると、ヴァランカが俺の上半身を起こし、背中側に回り込んできた。
「しっかり持っていろ」
 背中を隆起した胸筋で支えられながら、もう一度脚を広げさせられた。
 人の顔ほどの大きさの丸い手鏡が、枕を支えに、股の間にかざされる。
 俺の変わり果てた場所がそこに映されていた。
「く、う……っ」
「……見えるか? 淡いピンク色の、キレイな下の口が」
 恥辱に涙ぐむ目を背けながら、数度頷く。
「ふふっ、可愛い顔するじゃねえか……しっかり見ろ。ほら、肉びらが左右対称になってるだろう――あんたのは小さくて形もいいな」
 鏡の中で、ヴァランカの中指と人差し指が肉の唇をしっかりと押し分ける。
「こっちが小便の出る穴だ。……なかなか意外な所にあるだろう? こんなところから出るようになって、どんな気分だ? ン?」
「や、やめ……!」
 恥ずかしくて死んでしまいそうだ。
 殴ってやりたいのに、後ろから肘で肩が強く押さえられ、出来ない。
「下の方に、男を受け入れる為の穴がある。――まだ処女膜もがっつりあるな?」
 指先が奥に潜り込もうとしてきて、痛みが走る。
「いっ、痛……!」
 思わず膝を閉じようとして、鏡に阻まれた。
「い、痛い……っ、嫌だ……っ」
「一々うるせえな……じゃあ次だ、こっち」
 ヴァランカの指先が陰唇をなぞり上げ、その上を探るように動き始めた。
 感覚がさっきよりも数倍鋭敏になって、勝手にビクビクと腰が跳ねる。痛み、ではない。
「……!? そ、そこ、は……っ」
 何となく、この感覚は覚えがある。
 だが……俺が知っているそれよりも、これはもっと、ずっと……。
「……これが今のあんたのチンポだよ。随分可愛い姿になっちまっただろ? 皮に包まれてるが、剥いてやると出てくる」
 ヴァランカの指がそこを掻き分け、根本をグッと圧迫した。
 丸くぷっくりとした肉の芽がむき出しになって、そこを触れるか、触れないかの距離でもう片方の手の指先がかする。
「んぁ……っ!」
 まるで電撃が走ったようになって、息が一瞬止まった。
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