【完結済】「理想の恋人 〜タイムリープしたので、全財産貢いだダメ猫と別れます

かすがみずほ@理想の結婚二巻発売中

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6 猫の甘え

 司は腹が空いていたのか、薄々いわし煎餅を夢中で頬張っている。
 俺もついつい、飼い主の気持ちで、微笑ましくその様子に見入ってしまい……ハッとした。
 いかん、飼えない猫を無意識に餌付けしてしまった……!
 深く後悔していると、司は煎餅を咀嚼し終わり、自己紹介を始めた。
「保健証見たから、もう知ってると思うけどさ……俺、猫井《ねこい》司《つかさ》って言うんだ。見ての通り猫の獣人でさ」
「……ああ、そうみたいだな」
 名前を改めて聞いて、ドキッとした。
 俺、うっかり名前を呼んだりしてないよな……?
 不安を誤魔化すように、俺は改めて司に質問した。
「今日君に寄ってたかって暴行してた連中は、なんだったんだ?」
「うーん……話せば長いんだけど。俺、子供の頃から色々あって、親と絶縁してて。ろくに学校も出てないから、働き口があんまりなくてさ。この通り見た目がいいから一応モデルやってたんだけど、それだけじゃ稼げないじゃん?」
 そこら辺は、俺もよく知ってる話だ。
 ……というそぶりは見せず、俺は頷いた。
「普通の昼職で働くのはダルいからさ、夜だけ、猫専門のホスト始めたんだよね。ニャーチューブの配信で猫好きを引っ掛けてさ……最初は調子よくお客さんがついてくれてたんだけど、なんでか、ここ一ヶ月……マジでついてなくてさ」
「……ついてない?」
「ウン。一番お金使ってくれるエースのお姫様が突然来なくなっちゃったり、売掛した金も返してもらえないし、他にもストーカーみたいな客に刺されそうになったり……。しかも、一緒に住んでた本営の彼女からは家を追い出されるし、挙げ句の果てに、久しぶりに太客に指名されたーって思ったら相手がなんとヤクザの娘でさ。組の下っ端のチンピラに、貢いだ金全部返せーって言われて、そんなこと出来るわけないから逃げてたら、今日ついに、痛い目にあったってわけ。……ね、可哀想でしょ?」
 ゾクリと背に悪寒が走った。
 俺が知っているこの頃の司は、沢山の女性客やオメガ客に人気で、結構順風満帆だったはずだ。
 俺一人と出会わなかったせいで、こんなに違う状況になるなんて、そんなことあるのか……?
 ……やっぱり俺は、司と一緒にいなければダメだった……?
 いやいや……そんなことないはずだ。
 司のことだ、この話は多少盛って、同情を煽ってる可能性もあることを考えないと。
 だけど……目の不調は、明らかに盛ってるとか、そう言う感じじゃなさそうで、心配だった。
「……そっちの目、どうしたんだ?」
「あー、これ? あんまり覚えてないんだけど、朝起きて気が付いたら、いきなりこうなってた。まぁ、見えない訳じゃないから、いいんだけどさ……おかげで、モデルの仕事が全然来なくなっちゃったよ。眼帯もカッコいいのにね?」
 そんなことまで聞いてしまうと、ますます心配でたまらなくなってきた。
「……。治るのか?」
「分かんない。金ないからさ、病院にも行ってないしね」
 思わず、俺は身を乗り出して叫んだ。
「それは絶対に行ったほうがいい! 金なら貸すから……!」
「ほんと? 俺今ホームレスだし、完全に返すあてないけど、いいの? 貴弘君、超いい人だね」
 いや、踏み倒すにしても堂々としすぎでは……?
 でもこのまま放っておいて失明でもされたら、司個人がどうこうというよりも、猫好きとして耐えられない。
「構わない。一週間だけならうちに居ていいから、その間にちゃんと病院に行ってくれ」
 俺がそう言うと、司は指を組んだ祈りのポーズで立ち上がった。
「ええ~っ、超有難う。貴弘君って、天使?」
 ――しまった、ついうっかり……。
 いやでも、別に今回はホストクラブに貢ぐ訳じゃない。なんと言うか、困ってる人間を助けるだけ――そう、ボランティアだ。
 だから許してくれ、俺を過去に戻してくれた誰かよ……(涙)。
 額に手を当てて謝罪の念を天に送っていると、いつの間にか猫頭に変身した司が、ソファの隣に座り、身体をすり寄せて来た。
「貴弘君、これからしばらく宜しくね。大好き♡」
 手を握りながらモフモフの顔の毛をスリスリと擦り付けられて、思わずギャっと叫んでとびのいた。
 司のズボンのウエストから出たモフモフの白い尻尾の毛が逆立っている。
「……どしたの? ただ懐いただけなのに」
 ……な、懐かれるのが一番危険なんだ……!
「……お、俺はこんな見た目でもオメガだから、あんまり近くに来ないでほしい……!」
「? そんなの、匂いでとっくに分かってるよ。でも今、別に発情期じゃなさそうだし……?」
「なくても、ダメだ! 不用意にくっついて来たら追い出すからな……!」
 きっぱりと言い切ると、司はしょんぼりと尻尾をソファの座面に垂らした。
「ニャ~。貴弘君に甘えたかったのに」
 さ、殺人的に可愛いじゃないか……。
 俺はこのまま、司に抱きついてあったかいモフモフを吸うことを我慢できるのだろうか。
 図らずも、俺の理性が試される一週間が始まってしまった――。


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