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7 猫の風呂
翌日、俺は早朝筋トレの後に近所で開店直後のホームセンターに駆け込み、猫獣人用の生活用品のアレコレを買い込んだ。
昼近くになって家に帰ると、猫の姿になった司が応接間の一人がけのソファの座面で丸くなって寝ている。
本当は祖父の使っていた部屋とベッドに寝るように促したのだが、寒くて移動するのが面倒くさくなったんだろう。
下に、椅子用の正方形の電気敷物と一緒に、風呂用に渡したバスタオルが、渡した時そのままの形で敷いてある。
本当は真っ白なはずの毛は、相変わらず汚れて灰色だ。
……風呂も入ってないな、これは。
俺の中の謎の使命感に火が付いた。
買ってきた猫獣人用のブラシで、夢うつつの司を優しくブラッシングしていく。
所々あるハゲには当たらないように、痛がらないように慎重に。
目を閉じたまま、司はゴロゴロ音を出しながら、お腹も……と寝返りを打った。
しめしめとお腹側に残ってる毛もしっかりブラッシングして、抜け毛をとっていく。
これで、第一段階はクリアだ。
続けて、ピンと立っている小さな耳に、そっと話しかけた。
「うすうすいわしせんべい」
司は目が半分閉じたまんま、ニャーンと一声鳴いて、ソファをすとんと静かに飛び降りた。
先導するように俺がキッチンに向かって歩き出すと、司も毛が生えた肉球で床を踏みながらスイスイと着いてくる。
そのままキッチンに入る……フリをして、俺は脱衣所に入った。
司もつられて、中に入って来る。
その隙を狙い、脱衣所の引き戸を閉め、素早く鍵を閉めた。
行き先に見えたバランス釜のレトロな風呂に、司の尻尾が太くなり、毛が逆立つ。
「シャーッ!」
「シャーじゃない。そんな汚れてると猫型で外に出た時に保健所に連れて行かれるだろ」
「フーッ!!」
「怒るな、怒るな。怖かったら獣面人身になってもいいけど、頼むから、人間になって毛を引っ込めたりするなよ」
司は激怒顔のまま、しぶしぶレトロなモザイクタイルの風呂場に足を踏み入れた。
湿っぽくてヒヤッとするのか、一歩歩くごとに、ブルブルっと震えて片足を浮かせている。
シャワーは嫌がることが分かっているので、ぬるめの湯を洗面器に張り、徐々に、足先の方から少しずつ、少しずつ手でかけて濡らした。
勿論司はかなり嫌そうだったが、顔にはかけていないので、パニックになることはない。
顔以外が十分濡れて、司の大きさが三分の一くらいに見えるようになったところで、低刺激の獣人用ボディーソープを昨日傷だらけになった手で泡立てる。
俺は少し痛いが、原液のまま付けるのは言語道断だ。
素早く洗っていくと、毛の汚れがどんどん泡と一緒に浮いてきた。
もう一度ぬるま湯を洗面器に溜めて、慎重に慎重に泡を流していく。
完全に綺麗になったら、最後の難関、顔の番だ。
「眼帯、外すからな」
もうここまで来ると司も諦めモードになっていて、力無く頷いてくれた。
眼帯を取り、濡れタオルで優しく拭いていくと、ウ~と唸りはするものの、逃げはしない。
最後に大きなバスタオルでしっかり吸水して、新しいもう一枚で包んで、しっかりエアコンで温まってる応接間に連れ帰った。
空気が乾燥してるし、ここでブラッシングしながら自然乾燥が一番だ。
カーペットに下ろすと、司は部屋の隅にダッシュして、気が狂ったみたいにずっと自分の身体をペロペロし始めた。
俺はソファの電気敷物に座って、獣人用ブラシを片手に、司の気が済むまでしばらく待つ。
そのうち司も、寒い部屋の隅にいるより、俺の膝の上でブラッシングされる方がいいと気付いて、恐る恐る近づいて来た。
「よしよし。後でうすうすせんべい、やるからな」
膝の上でしっかり毛を整えているうちに、真っ白な毛がふんわりモフモフに膨らんできた。
一部ハゲているが、もうどこからどう見ても野良猫じゃない。
俺の知ってる、俺の自慢の飼い猫だった……。
切なくなって思わず名前を呼ぶ。
「司……」
「ニャーン」
機嫌の良くなった司が、返事と共にこっちを見上げてくる。
彼の右目は……やっぱり、濁ったような灰色のままだった――。
「……今日の午後、一緒に病院に行こう」
言葉を続けると、司は膝からはみ出すようにウーンと伸びをして目をつぶってしまった。
これは誤魔化して来たな……。
「今すぐ捨て猫になるか……?」
司のモフモフの身体を抱っこしてソファを立ち上がる。
「ニャッ」
それは嫌だとばかり、司は俺のニットに四つの足の爪を引っ掛けて必死でしがみついて来た。
クッ……気が狂いそうなほどに可愛い……!!
こんな可愛い猫を捨てられるわけがない……!!
猫にしては大柄なその身体をヒシッと抱きしめながら、説得した。
「……じゃあ、俺の服を貸してやるから。取り敢えず外に出掛けられるように人間になってくれ」
昼近くになって家に帰ると、猫の姿になった司が応接間の一人がけのソファの座面で丸くなって寝ている。
本当は祖父の使っていた部屋とベッドに寝るように促したのだが、寒くて移動するのが面倒くさくなったんだろう。
下に、椅子用の正方形の電気敷物と一緒に、風呂用に渡したバスタオルが、渡した時そのままの形で敷いてある。
本当は真っ白なはずの毛は、相変わらず汚れて灰色だ。
……風呂も入ってないな、これは。
俺の中の謎の使命感に火が付いた。
買ってきた猫獣人用のブラシで、夢うつつの司を優しくブラッシングしていく。
所々あるハゲには当たらないように、痛がらないように慎重に。
目を閉じたまま、司はゴロゴロ音を出しながら、お腹も……と寝返りを打った。
しめしめとお腹側に残ってる毛もしっかりブラッシングして、抜け毛をとっていく。
これで、第一段階はクリアだ。
続けて、ピンと立っている小さな耳に、そっと話しかけた。
「うすうすいわしせんべい」
司は目が半分閉じたまんま、ニャーンと一声鳴いて、ソファをすとんと静かに飛び降りた。
先導するように俺がキッチンに向かって歩き出すと、司も毛が生えた肉球で床を踏みながらスイスイと着いてくる。
そのままキッチンに入る……フリをして、俺は脱衣所に入った。
司もつられて、中に入って来る。
その隙を狙い、脱衣所の引き戸を閉め、素早く鍵を閉めた。
行き先に見えたバランス釜のレトロな風呂に、司の尻尾が太くなり、毛が逆立つ。
「シャーッ!」
「シャーじゃない。そんな汚れてると猫型で外に出た時に保健所に連れて行かれるだろ」
「フーッ!!」
「怒るな、怒るな。怖かったら獣面人身になってもいいけど、頼むから、人間になって毛を引っ込めたりするなよ」
司は激怒顔のまま、しぶしぶレトロなモザイクタイルの風呂場に足を踏み入れた。
湿っぽくてヒヤッとするのか、一歩歩くごとに、ブルブルっと震えて片足を浮かせている。
シャワーは嫌がることが分かっているので、ぬるめの湯を洗面器に張り、徐々に、足先の方から少しずつ、少しずつ手でかけて濡らした。
勿論司はかなり嫌そうだったが、顔にはかけていないので、パニックになることはない。
顔以外が十分濡れて、司の大きさが三分の一くらいに見えるようになったところで、低刺激の獣人用ボディーソープを昨日傷だらけになった手で泡立てる。
俺は少し痛いが、原液のまま付けるのは言語道断だ。
素早く洗っていくと、毛の汚れがどんどん泡と一緒に浮いてきた。
もう一度ぬるま湯を洗面器に溜めて、慎重に慎重に泡を流していく。
完全に綺麗になったら、最後の難関、顔の番だ。
「眼帯、外すからな」
もうここまで来ると司も諦めモードになっていて、力無く頷いてくれた。
眼帯を取り、濡れタオルで優しく拭いていくと、ウ~と唸りはするものの、逃げはしない。
最後に大きなバスタオルでしっかり吸水して、新しいもう一枚で包んで、しっかりエアコンで温まってる応接間に連れ帰った。
空気が乾燥してるし、ここでブラッシングしながら自然乾燥が一番だ。
カーペットに下ろすと、司は部屋の隅にダッシュして、気が狂ったみたいにずっと自分の身体をペロペロし始めた。
俺はソファの電気敷物に座って、獣人用ブラシを片手に、司の気が済むまでしばらく待つ。
そのうち司も、寒い部屋の隅にいるより、俺の膝の上でブラッシングされる方がいいと気付いて、恐る恐る近づいて来た。
「よしよし。後でうすうすせんべい、やるからな」
膝の上でしっかり毛を整えているうちに、真っ白な毛がふんわりモフモフに膨らんできた。
一部ハゲているが、もうどこからどう見ても野良猫じゃない。
俺の知ってる、俺の自慢の飼い猫だった……。
切なくなって思わず名前を呼ぶ。
「司……」
「ニャーン」
機嫌の良くなった司が、返事と共にこっちを見上げてくる。
彼の右目は……やっぱり、濁ったような灰色のままだった――。
「……今日の午後、一緒に病院に行こう」
言葉を続けると、司は膝からはみ出すようにウーンと伸びをして目をつぶってしまった。
これは誤魔化して来たな……。
「今すぐ捨て猫になるか……?」
司のモフモフの身体を抱っこしてソファを立ち上がる。
「ニャッ」
それは嫌だとばかり、司は俺のニットに四つの足の爪を引っ掛けて必死でしがみついて来た。
クッ……気が狂いそうなほどに可愛い……!!
こんな可愛い猫を捨てられるわけがない……!!
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