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16 迷子の猫
その夜――。
俺と司は理性を放り出したまま、明け方近くまで炬燵でのぼせるほど何度もセックスした。
司にねだられて、乳首を自慰しながら騎乗位で中出しされたり、猫の交尾のように後ろから犯されたり……。
俺のフェロモンにあてられた司は何度も何度も求めてきたけど、俺の方が体力があるせいか、夜中の3時ごろに途中でバテて気絶していた。
それでフラフラ風呂に入りに行ったことで、ようやく俺は冷静になり……学生時代、自分の財布に予備の抑制剤を入れていたことを思い出したのだった。
薬を飲んでようやく理性を取り戻した俺がまず最初にしたことは、能天気に全裸で炬燵に入って寝ていた司を引き摺り出し、寝技で組み伏せ、腕を捻り上げて私人逮捕(※現行犯なら逮捕は一般人でも可能)することだった。
「あいたたたたた!! 寒い寒い痛い!! 何すんの、貴弘君!!」
「猫井司、不同意性行の現行犯でお前を逮捕する!! このまま本土の警察署まで連行してやるから、観念しろ……!」
「ななな何で逮捕っ。貴弘君、どう見てもノリノリで同意してたじゃん!! 俺のこと好きって言ってたもん!」
「発情中のオメガの発言が言質になるかっ。大体、薬を入れ替えたのはお前だろう!? そっちの容疑も上がってるんだぞ!!」
「そうかもしれないけど、悪気はないもん!!」
「悪気がないで済むなら、警察は要らないだろう!?」
「ニャーッ!」
腕の中で司がヌルリと抜け出した――かと思ったら、猫になっている。
白い毛玉はそのまま炬燵机の上から壁際の棚を駆け上り、俺の手の届かない天井近くの棚上に登って身を潜めてしまった。
「全くお前は!! 都合のいい時ばかり猫になって!!」
腹立ち紛れに叫んだが、相手はぴくりとも動かず、うんともすんとも言わず、完全に気配を消している。
その存在感の無さはまるで忍術の域だ。
……そう言えば、本格的に喧嘩した時はいつもこうだったな……。
そして、いつも先に折れて、薄々せんべい片手に呼びかけるのも、俺……。
脱力して、踵を返した。
軋む階段をゆっくり踏み、暗い二階に上がる。
襖を開け、まだ朝日もささない真っ暗な部屋の中で浴衣を脱いで服に着替え、コートを着て、荷物をまとめた。
そして最後に、出会った猫をスケッチする用に持っていたノートを一枚破り取って、司への伝言を書いた。
『俺は朝一のフェリーで帰る。警察に行ったりはしないし、もし妊娠していても子供は俺一人で育てるから余計な心配はするな。あと、俺はあの家を引っ越す予定だ。お前にはもう二度と会いたくないから、絶対に来るなよ。 貴弘』
――書きながら、前の人生の最後のシーンがフラッシュバックした。
そうだ、あの時も俺は……。
スマホでメッセージするとかじゃなくて、置き手紙を置いておいたんだ……家に。
『俺はしばらく留守にする。前にも言ったが、もうすぐこの家は人手に渡るから、今月中にお前の荷物を全部引き取るか、処分してほしい。もう、お前とは二度と会いたくない。最後に……愚痴になるが、婚活するなら、ちゃんと別れてからにして欲しかった。 貴弘』
また、同じことを繰り返してるな……と気付いて、何だか笑えてきた。
もう、これを最後にするんだ。
そう決意した途端、俺より体力無いくせに一晩中求めてくれた、夕べの記憶が蘇ってきて……。
ああ、胸が甘くて苦しくて、痛い。
本当にバカだな、司も俺も……。
頬に伝った涙をぬぐう。
財布から宿代と帰りの交通費の金を出し、手紙と一緒に、使わなかった布団の枕元に置いた。
朝一のフェリーで帰ろうという人は少ないのか、予定時刻よりも前に着いたにも関わらず、船は出航寸前だった。
本当は猫神社にもう一度寄りたかったし、もっと猫と触れ合いたかったが、司と顔を合わせるのはもう避けたい。
早朝の港には寒風が吹きつけている。
今にも出航という感じで唸っているエンジン音を聞きながら、俺は桟橋を渡って白いフェリーに乗り込んだ。
通勤通学時間という感じの客がチラホラいるが、観光帰りらしき人間は俺一人だ。
船に乗り込んでから島の方に振り返ると、山の中腹に神社の紅い鳥居が見える。
ぼんやりと眺めているうちにロープが外され、船は島を離れ始めた。
名残惜しくて、しばらく手すりによりかかるようにして島を眺めていると、潮風の音に混じり、ミャア、ミャアという声が聞こえ始めた。
気温のせいか猫はあまり出歩いていないので、ウミネコかなと思って空を眺めたが、近くには飛んでいない。
不思議に思って視線を落とすと――なんと、船が離れつつある桟橋の先ギリギリに、いつの間にか長毛のデカすぎる白猫が立ち、力いっぱいの大声でミャアミャア鳴いていた。
「ミャーッ!! ミャーッ!!」
海に身を乗り出して叫ぶその必死さたるや、完全に母猫とはぐれた哀れな子猫みたいな風情だ。
あまりに必死に鳴いているので、俺の隣にいた乗務員のおじいさんも島の方を不思議そうに眺めている。
「あれぇ。あんなモサモサの白い猫なんて、見だごどねぇぞ」
「つ、……司……っ」
……そう、どう考えてもあれは司だった。
モフモフの丸いその身体が今にも海の中に落ちてしまいそうで、俺は思わず大声で叫んで注意した。
「おい! 司っ!! そんなところにいたら落ちるぞ!!」
懸命に呼びかけたにも、関わらず――。
そう、今の司は本人が言うとおり、かなり運が悪くなっていたのだ。
「ミャア~~ッ」
船の上の俺が呼びかけに答えてくれたと思ったからなのか、司は逆に、桟橋の先の海へ、一層に身を乗り出した。
そして案の定、グリップがきかずにズルリと足を滑らせ――次の瞬間、遂に海の中に落っこちた。
「司……っ!!」
「バカだっちゃ、あの猫……冬の海になんか落ちたら、一発で凍え死んじまうべ」
隣のおじいさんの言葉を聞いた瞬間、俺は無言でコートをその場に脱ぎ捨てた。
「おいおい、なにするつもりだ」
動揺する彼が止めに入ろうとする前に、フェリーの手すりを飛んで乗り越え、下の海面に向かい、一直線に飛び込む。
「なんてごどすんだ! おおい、船、止めでけろ!」
おじいさんが仰天して叫んだ声が、くぐもって聞こえた――。
と同時に、冷たいというよりも針で刺されるような痛みに近い感覚が全身を包む。
幸いまだ出航してすぐのせいか、スクリューに巻き込まれることは無かったが、低体温で息が浅くなり、手足も思うようには動かせない。
そのせいで、岸まではほんの数メートルという近さだが、まるで永遠のように感じた。
司はかろうじて、海の表面で犬かきのような動きでもがいている。
俺は無我夢中でそこへ助けに向かったが、そのずぶ濡れの白い身体は、俺が泳ぎ着く前にとぷんと沈んでしまった。
「司……!!」
波間で声にならない声を上げ、朝の弱い光を頼りに海中に潜る。
必死で手を伸ばし、闇に落ちていこうとする白い司の身体をぎゅっと捕まえ、やっと抱き締めた。
だけどもう、このわずかな時間に俺自身の体温も下がり過ぎていた。
体温低下のショック状態で、もはや俺の手足はぴくりとも動かず――海面に上がる力すら、残っていなかったのだ。
身体が引きずられるように冷たい海の中に沈み、意識も遠のいてゆく。
ああ、俺……また、死ぬのか。
でも今度は、俺の腕の中に司がいる……。
司と一緒に死ぬなら、少しも悪くない……。
いや……待てよ……?
もしかしたら、俺はやっぱり事故で死んでいて、実はこの一週間は、神様がくれた最後のご褒美の時間だったんじゃないのか。
それならば、感謝しかないな……。
全ての感覚が遠のいていく中で、俺は腕の中の愛おしい飼い猫を、決して離すまいと抱き締めた。
『……置いていったりしてごめんな』
どんどん暗く、息苦しくなっていく海中で、何もかもが闇に溶けてゆく。
――だが、このまま沈むばかりだと思っていた俺の身に、突然謎の異変が起きた。
急激に、ぐいと身体が何かに引き上げられたのだ。
「……!?」
誰かが、俺の洋服の首根っこを掴んで、グイグイ上に引っ張っている……!?
しかも、クレーンか何かみたいな……人間業とは思えないような、すごい力だ。
何が起こったのか分からないまま、あたりはどんどん明るくなり、遂には、俺と司は海面から飛び出した。
ジャバッという激しい水音と一緒に空中に吊り上げられ、凍えるような強い海風が吹き付けて、地球の重力が一気に身体にかかる。
すぐ上から、巨大な獣の息遣いがフーッ、フーッと聞こえてきて、別の意味でも身体が凍りついた。
何か、巨大な真っ黒い化け物が、桟橋いっぱいに四つ足で立ち、俺の服の襟首を咥えてブラブラさせている……。
「ヒッ」
あまりにも非現実的過ぎる出来事に血の気が失せたその時、俺達の身体は桟橋の上にストンと下ろされた。
後ろを振り返った瞬間に、金色の巨大な虹彩と目が合う。
――眼球だけでバレーボールくらいありそうな、真っ黒な猫の顔。
『ミャア~オ』
低い低い猫のような鳴き声がして、その姿が、まるで風に吹かれるチリのようにさあっと消えてゆく。
その残りが次第に細かい黒い粉のようになって、神社のある山の方に吹かれていった。
今のは……猫、だったのか……?
「な……んだったんだ、一体……」
しばらく狐につままれた、というか、猫につままれた気分でボンヤリとしていたが、ハッとして腕の中の司のことを思い出した。
「司、おい、司……!!」
戻ってくるフェリーのエンジン音を聞きながら、俺は司に呼び掛け、その身体を揺り動かし続けた。
俺と司は理性を放り出したまま、明け方近くまで炬燵でのぼせるほど何度もセックスした。
司にねだられて、乳首を自慰しながら騎乗位で中出しされたり、猫の交尾のように後ろから犯されたり……。
俺のフェロモンにあてられた司は何度も何度も求めてきたけど、俺の方が体力があるせいか、夜中の3時ごろに途中でバテて気絶していた。
それでフラフラ風呂に入りに行ったことで、ようやく俺は冷静になり……学生時代、自分の財布に予備の抑制剤を入れていたことを思い出したのだった。
薬を飲んでようやく理性を取り戻した俺がまず最初にしたことは、能天気に全裸で炬燵に入って寝ていた司を引き摺り出し、寝技で組み伏せ、腕を捻り上げて私人逮捕(※現行犯なら逮捕は一般人でも可能)することだった。
「あいたたたたた!! 寒い寒い痛い!! 何すんの、貴弘君!!」
「猫井司、不同意性行の現行犯でお前を逮捕する!! このまま本土の警察署まで連行してやるから、観念しろ……!」
「ななな何で逮捕っ。貴弘君、どう見てもノリノリで同意してたじゃん!! 俺のこと好きって言ってたもん!」
「発情中のオメガの発言が言質になるかっ。大体、薬を入れ替えたのはお前だろう!? そっちの容疑も上がってるんだぞ!!」
「そうかもしれないけど、悪気はないもん!!」
「悪気がないで済むなら、警察は要らないだろう!?」
「ニャーッ!」
腕の中で司がヌルリと抜け出した――かと思ったら、猫になっている。
白い毛玉はそのまま炬燵机の上から壁際の棚を駆け上り、俺の手の届かない天井近くの棚上に登って身を潜めてしまった。
「全くお前は!! 都合のいい時ばかり猫になって!!」
腹立ち紛れに叫んだが、相手はぴくりとも動かず、うんともすんとも言わず、完全に気配を消している。
その存在感の無さはまるで忍術の域だ。
……そう言えば、本格的に喧嘩した時はいつもこうだったな……。
そして、いつも先に折れて、薄々せんべい片手に呼びかけるのも、俺……。
脱力して、踵を返した。
軋む階段をゆっくり踏み、暗い二階に上がる。
襖を開け、まだ朝日もささない真っ暗な部屋の中で浴衣を脱いで服に着替え、コートを着て、荷物をまとめた。
そして最後に、出会った猫をスケッチする用に持っていたノートを一枚破り取って、司への伝言を書いた。
『俺は朝一のフェリーで帰る。警察に行ったりはしないし、もし妊娠していても子供は俺一人で育てるから余計な心配はするな。あと、俺はあの家を引っ越す予定だ。お前にはもう二度と会いたくないから、絶対に来るなよ。 貴弘』
――書きながら、前の人生の最後のシーンがフラッシュバックした。
そうだ、あの時も俺は……。
スマホでメッセージするとかじゃなくて、置き手紙を置いておいたんだ……家に。
『俺はしばらく留守にする。前にも言ったが、もうすぐこの家は人手に渡るから、今月中にお前の荷物を全部引き取るか、処分してほしい。もう、お前とは二度と会いたくない。最後に……愚痴になるが、婚活するなら、ちゃんと別れてからにして欲しかった。 貴弘』
また、同じことを繰り返してるな……と気付いて、何だか笑えてきた。
もう、これを最後にするんだ。
そう決意した途端、俺より体力無いくせに一晩中求めてくれた、夕べの記憶が蘇ってきて……。
ああ、胸が甘くて苦しくて、痛い。
本当にバカだな、司も俺も……。
頬に伝った涙をぬぐう。
財布から宿代と帰りの交通費の金を出し、手紙と一緒に、使わなかった布団の枕元に置いた。
朝一のフェリーで帰ろうという人は少ないのか、予定時刻よりも前に着いたにも関わらず、船は出航寸前だった。
本当は猫神社にもう一度寄りたかったし、もっと猫と触れ合いたかったが、司と顔を合わせるのはもう避けたい。
早朝の港には寒風が吹きつけている。
今にも出航という感じで唸っているエンジン音を聞きながら、俺は桟橋を渡って白いフェリーに乗り込んだ。
通勤通学時間という感じの客がチラホラいるが、観光帰りらしき人間は俺一人だ。
船に乗り込んでから島の方に振り返ると、山の中腹に神社の紅い鳥居が見える。
ぼんやりと眺めているうちにロープが外され、船は島を離れ始めた。
名残惜しくて、しばらく手すりによりかかるようにして島を眺めていると、潮風の音に混じり、ミャア、ミャアという声が聞こえ始めた。
気温のせいか猫はあまり出歩いていないので、ウミネコかなと思って空を眺めたが、近くには飛んでいない。
不思議に思って視線を落とすと――なんと、船が離れつつある桟橋の先ギリギリに、いつの間にか長毛のデカすぎる白猫が立ち、力いっぱいの大声でミャアミャア鳴いていた。
「ミャーッ!! ミャーッ!!」
海に身を乗り出して叫ぶその必死さたるや、完全に母猫とはぐれた哀れな子猫みたいな風情だ。
あまりに必死に鳴いているので、俺の隣にいた乗務員のおじいさんも島の方を不思議そうに眺めている。
「あれぇ。あんなモサモサの白い猫なんて、見だごどねぇぞ」
「つ、……司……っ」
……そう、どう考えてもあれは司だった。
モフモフの丸いその身体が今にも海の中に落ちてしまいそうで、俺は思わず大声で叫んで注意した。
「おい! 司っ!! そんなところにいたら落ちるぞ!!」
懸命に呼びかけたにも、関わらず――。
そう、今の司は本人が言うとおり、かなり運が悪くなっていたのだ。
「ミャア~~ッ」
船の上の俺が呼びかけに答えてくれたと思ったからなのか、司は逆に、桟橋の先の海へ、一層に身を乗り出した。
そして案の定、グリップがきかずにズルリと足を滑らせ――次の瞬間、遂に海の中に落っこちた。
「司……っ!!」
「バカだっちゃ、あの猫……冬の海になんか落ちたら、一発で凍え死んじまうべ」
隣のおじいさんの言葉を聞いた瞬間、俺は無言でコートをその場に脱ぎ捨てた。
「おいおい、なにするつもりだ」
動揺する彼が止めに入ろうとする前に、フェリーの手すりを飛んで乗り越え、下の海面に向かい、一直線に飛び込む。
「なんてごどすんだ! おおい、船、止めでけろ!」
おじいさんが仰天して叫んだ声が、くぐもって聞こえた――。
と同時に、冷たいというよりも針で刺されるような痛みに近い感覚が全身を包む。
幸いまだ出航してすぐのせいか、スクリューに巻き込まれることは無かったが、低体温で息が浅くなり、手足も思うようには動かせない。
そのせいで、岸まではほんの数メートルという近さだが、まるで永遠のように感じた。
司はかろうじて、海の表面で犬かきのような動きでもがいている。
俺は無我夢中でそこへ助けに向かったが、そのずぶ濡れの白い身体は、俺が泳ぎ着く前にとぷんと沈んでしまった。
「司……!!」
波間で声にならない声を上げ、朝の弱い光を頼りに海中に潜る。
必死で手を伸ばし、闇に落ちていこうとする白い司の身体をぎゅっと捕まえ、やっと抱き締めた。
だけどもう、このわずかな時間に俺自身の体温も下がり過ぎていた。
体温低下のショック状態で、もはや俺の手足はぴくりとも動かず――海面に上がる力すら、残っていなかったのだ。
身体が引きずられるように冷たい海の中に沈み、意識も遠のいてゆく。
ああ、俺……また、死ぬのか。
でも今度は、俺の腕の中に司がいる……。
司と一緒に死ぬなら、少しも悪くない……。
いや……待てよ……?
もしかしたら、俺はやっぱり事故で死んでいて、実はこの一週間は、神様がくれた最後のご褒美の時間だったんじゃないのか。
それならば、感謝しかないな……。
全ての感覚が遠のいていく中で、俺は腕の中の愛おしい飼い猫を、決して離すまいと抱き締めた。
『……置いていったりしてごめんな』
どんどん暗く、息苦しくなっていく海中で、何もかもが闇に溶けてゆく。
――だが、このまま沈むばかりだと思っていた俺の身に、突然謎の異変が起きた。
急激に、ぐいと身体が何かに引き上げられたのだ。
「……!?」
誰かが、俺の洋服の首根っこを掴んで、グイグイ上に引っ張っている……!?
しかも、クレーンか何かみたいな……人間業とは思えないような、すごい力だ。
何が起こったのか分からないまま、あたりはどんどん明るくなり、遂には、俺と司は海面から飛び出した。
ジャバッという激しい水音と一緒に空中に吊り上げられ、凍えるような強い海風が吹き付けて、地球の重力が一気に身体にかかる。
すぐ上から、巨大な獣の息遣いがフーッ、フーッと聞こえてきて、別の意味でも身体が凍りついた。
何か、巨大な真っ黒い化け物が、桟橋いっぱいに四つ足で立ち、俺の服の襟首を咥えてブラブラさせている……。
「ヒッ」
あまりにも非現実的過ぎる出来事に血の気が失せたその時、俺達の身体は桟橋の上にストンと下ろされた。
後ろを振り返った瞬間に、金色の巨大な虹彩と目が合う。
――眼球だけでバレーボールくらいありそうな、真っ黒な猫の顔。
『ミャア~オ』
低い低い猫のような鳴き声がして、その姿が、まるで風に吹かれるチリのようにさあっと消えてゆく。
その残りが次第に細かい黒い粉のようになって、神社のある山の方に吹かれていった。
今のは……猫、だったのか……?
「な……んだったんだ、一体……」
しばらく狐につままれた、というか、猫につままれた気分でボンヤリとしていたが、ハッとして腕の中の司のことを思い出した。
「司、おい、司……!!」
戻ってくるフェリーのエンジン音を聞きながら、俺は司に呼び掛け、その身体を揺り動かし続けた。
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