理想のキャンパス・ライフ!?〜俺の獣人彼氏がミスターキャンパスに挑戦します〜

かすがみずほ@理想の結婚二巻発売中

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 そんな居酒屋での一件がきっかけとなって、数日後――突然、俺たちにとって驚きの事態が起きた。
「犬塚航君て、君だよね⁉︎」
 航を構内でゆっくり運動させてやろうと思って、朝早く一緒に大学の正門をくぐった途端――待ち構えていたように、見知らぬ女の人二人が寄ってきて、声をかけてきたのだ。
「――はい、俺ですけど」
 航が首を傾げながら返事をすると、どちらかというと派手めな容姿の二人はぱあっと笑顔になり、明るい声で話し始めた。
「私達、毎年学園祭でミスコンを主催してる、広告研究会の二年の佐藤と、杉田っていいます。他薦で、犬塚君を今年度のミスター立山に推薦する申し込みがあってね……犬塚君自身に立候補してみる気持ちがあるかどうか、聞かせてもらいたいの。今日か明日、どこかの時間が空いてませんか?」
 サークル名を聞いて、航を推薦したという人は、多分あゆ美先輩か、裕明のどっちかだとピンと来た。
 あの居酒屋で航を見た時に、これはと思ったのかもしれない。
 当の本人は鳩が豆鉄砲を喰らったような顔で、困ったように俺の方を見てくる。
「……岬……そもそも、ミスコンって何?」
 そ、そこからか……!
 俺の弟は獣人学校育ちの究極の純粋培養なんだった。
 航は家じゃ家事やってるか、筋トレと柔軟してるか、勉強してるかで、テレビもほとんど見ないしな……。
「とりあえず、どんなものかは俺が話してみるので、連絡先を貰えませんか? 俺、航の兄で、そちらの一年の横田裕明の友人です」
 俺が間に入ると、彼女たちはぱあっと目を輝かせた。
「あら、裕明の友達だったのね。それなら話が早いわ。私たちの主催するミスコンはね、学園祭の一番の目玉イベントなの。ミスコンの盛り上がりに、立山祭の成功がかかってると言っても過言じゃないのよ!」
「ミスター立山は、ミスに比べて歴史が浅くて、毎年ミス立山ほどは盛り上がらないの。でも、ミスター立山史上初の獣人の男子が候補に上がったら、学院内はおろか、メディアの注目度アップは間違いなし。裕明の友達なら、絶対協力してくれるわよね⁉︎」
「企業の協賛がたくさん付くから、副賞とか特別賞の賞品もすごいのよ~!」
 代わる代わるアピールが激しい先輩たち二人の情熱に圧倒されて、ただ頷くしか出来ない。
「じゃあ、この企画書に正式な応募方法と、私たちのサークルのメッセージアプリのIDが書いてあるから!」
 分厚い本のようなものが、航の胸板に押し付けられる。
「じゃあ、履歴書待ってるからねー!」
 まるで応募が決まったも同然、という勢いで、先輩たちはサークル棟の方へ消えていった。
 しばらく呆然と二人の姿を見送って、はっと我にかえる。
「……航、とりあえず今日は犬になるのはナシだ」
「えーっ」
 残念そうな航をぐいぐい引っ張って、俺はまだ人気のない、学食の入っている棟へと入った。
 テーブルのたくさん並んだがらんとした広い空間の中で、端っこの方の適当な場所に向かい合って座り、貰った本を二人の間に置く。
『ミス・ミスター立山学院コンテスト企画書……対外厳秘』
 さっきまでびっくりして頭が真っ白だったけど、これってつまり、俺の弟のカッコよさが人間にも認められたってことだよな。
 それは、嬉しいような気がしなくもない。
 けど……。
 航と一緒に企画書を一枚一枚めくるうちに、その活動内容がかなりハードなことが分かり始めて、甘い考えがどんどん無くなっていった。
 百人以上の立候補者の中から書類審査と面接で男女六人ずつ選ばれたミス・ミスター候補者は、6月に学内で行われるキックオフイベントでお披露目される。
 同時に特設ホームページや専用SNSアカウントが開設され、そこから四ヶ月もの間、SNSや動画配信を使った、ネット上での人気競争が始まる。
 その間、美容系の企業とコラボしたヘアアレンジ対決、服飾系企業が絡んだファッション対決、ポートレートやイメージビデオの撮影などがあり……。
 それだけでも大変なのに、文化祭当日の企画の準備はもっと過酷そうだった。
 ミスコンて、もっとチャラチャラしたものだと思っていたけれど……。
 やっぱり、アナウンサーや俳優への登竜門と言われるだけのことはある。
 これはただ美人なだけ、かっこいいだけの人間が選ばれるだけのお遊びの大会じゃない。
 大学のミスコンていうのは、出るからには大きな責任が伴う――そういうイベントなんだ。
 散歩をお預けされて肩を落としている航に、俺は話し始めた。
「航、ミスコンっていうのは、すごく簡単に言えば、この大学で一番の美人とか、カッコいい人を決める大会のことだよ」
「ふうん……? そんなの、四ヶ月もかけてわざわざ決めなくても分かりそうなもんだけどな。この大学で、一番美人なのは岬だよ」
「いや、決めるのはみんなだし、俺はそもそも美人じゃないから……。とにかく、そのミスコンの、ミスターの方に航が推薦されたんだ。それで、推薦された人間は、立候補するのか辞退するのかを明らかにする必要があるみたい」
「そう、なんだ……。でも、人間の友達をたくさん作るには良さそうだね。こういう企画に出るのも面白そう」
「そういう面もあるにはあるだろうけど……。拘束時間も長いし、世間に芸能人みたいに顔を知られることにもなるから、大学生活にも影響があるだろうし、リスクも高いと思うよ」
「うん」
「それでも、やってみるか?」
 航は、長い金色の睫毛を伏せ、長いこと考えにふけった。
 営業前の静かな食堂に、外を歩く学生の笑い声が微かに響く。
 やがて、航はいつもの穏やかな笑顔を浮かべながら、話し始めた。
「……俺がこの大学に来たのは、一番には、社会に出て働く前に、人間のことを勉強をしたいって思ったからなんだ。だから、チャンスがあるなら何でもやろうと思ってるよ。それに……もし俺が出れば、岬の友達も喜ぶんだよね?」
 俺はこくりと頷いた。
 確かに、航が出ることを決めて、結果的にミスコンが盛り上がれば、学園祭に熱心な裕明はきっと喜ぶだろう。
「岬も、俺がミスター立山になったら喜んでくれる?」
「それは勿論……嬉しいけど」
「……岬に元気になって欲しいから、俺、立候補してみるね」
 俺、そんなに元気なさそう……?
 まだ青磁とのこと、拗れてるしな。
 弟の思いが有り難くて、一方で申し訳ない。
 俺は居合道部と両立できる自信がなくて実行委員すら辞退したのに、もっと困難なものに挑戦しようとしている航が眩しかった。
「航……、航がミスコンに出るなら、俺、航のこと全力で応援するよ。授業とかも出られない時は代わりに出るし、できることは何でもするから。……言ってくれ」
 俺がそう言うと、航は屈託のない笑顔を浮かべ、大きく頷いた。
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