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それから後、ミスコンが終わるまでに起こった出来事は、断片的にしか覚えていない。
青磁のフェロモンにあてられたのと、突然のあまりの仕打ちにビックリして、茫然自失状態になってしまったからだ。
青磁は舞台上で南野さんにグーパンチで思い切り殴られ、結果的に俺と青磁のキスシーンはギャグの一環になってしまった(そう解釈するしかなかったんだと思う)。
客席は笑ってるけど南野さんは激怒してるっていう、そんな微妙に気まずい空気を、司会者が必死に収拾してくれたらしい。
俺はボンヤリしたまま黒子に引きずられて出演者の控え室に運び込まれ、気の毒な観客の扱いで丁重に寝かされた。
青磁の思いつきで真剣に取り組んでたミスコンを台無しにされた南野さんが気の毒で仕方がなかったけど、結果的に、彼女の迫真の演技と迫力のパンチは好評だったらしい。
絶世の美人なのに謎の男に負けた、ってところに共感と同情が集まり、南野さんは、他の二人の候補をおさえて見事グランプリに輝いた。
そして、今年度の立山祭のミスターに輝いたのは――。
久しぶりの青磁の家に着いたのは、夕方だった。
本当は立山祭の後始末とか、打ち上げとか、お互いに色々予定があったんだけど、俺の発情が止まらなくて、全部キャンセルするしかなかった。
道着を脱ぎ、なんとか普段着に着替えたところで迎えに来た青磁にほとんど強制的に連行され、地元駅まで一緒に帰り……今は彼のマンションのリビングのソファの上でボンヤリとしている。
――何だか、夢の中にいたみたいな学祭の三日間……そして、怒涛のように色々あった二日間だった。
……疲れ切ってしまってるのに、身体がずっと火照って熱い。
電車の中で一緒にいた時からもうかなりヤバくて、着いたらすぐにでも抱いて欲しいくらい切羽詰まってたのに、青磁は帰ってもまだ人間の顔をして、キッチンで悠長に料理なんかしている。
……発情してると分かってるくせに、俺をわざと焦らしてるんだ。
俺はイライラしながらソファに寝っ転がり、クッションを抱きながらスマホを見た。
アクセスしているミスコンのWEBサイトには、華々しく催された三ノ宮君と南野さんのグランプリ発表会の写真が映っている。
「……結局、航も青磁もミスターは取れなかったな……もちろん一人は自業自得だけど」
眺めながら、俺は青磁に話しかけた。
一続きになっているリビング・ダイニングの奥――カウンター式のキッチンの中で、片頬を腫らした青磁が冷ややかに笑う。
「……当たり前の結果だろ。三ノ宮はもうすぐ組んでるバンドでメジャーデビューするらしいし、南野ゆりなは所属事務所持ちで、これから本格的に女優を目指すらしいからな。……学生時代のうちに、多少のハクを付けてやろうと考えた大人がいたわけだ」
その言葉に、俺はガバリとソファから飛び起きた。
「何だよそれ……!? 出来レースだったって言いたいのか!?」
「さあ? 俺がそう思うだけだ。一般投票が入ってる分、幾らでも工作は可能だからな。――ただ、そういうのも含めて実力だろ。俺としては、お前の弟に勝つっていう目的は無事に果たしたから、どうでもいい」
機嫌よさそうに笑みを浮かべ、真っ赤な分厚いサーロインステーキをフライパンで焼き始めている。
油の弾ける音が上がって、俺はそれに負けないように声を張った。
「そんな……。裕明も、候補者のみんなだってあんなに真剣に、本気で頑張ってたのに、そんな酷いこと言うなよ!?」
「賞レースと、本人の努力っていうのは別物だ。弟を見てて分からなかったのか?」
「なんだその言い方……! 大体お前、あんな人前で俺にキスしやがって……俺だって、お前のこと一発殴ってやりたい気分なんだからな……!?」
反論しながらソファを降り、大股でキッチンまで歩く。
ズボンのポケットを漁り、ダイヤのピアスの片方を取り出して青磁に差し出した。
「……あとこれ。返す」
青磁はピクっと丸耳を震わせ、こっちを向いた。
「それはお前にやったものだろ」
「要らねえよ。だいたい貰っても、俺、穴あいてないし。じゃあ、もう帰るから」
大理石の天板に石を置き、踵を返そうとした時、青磁の手が俺の腕をギュッと掴んだ。
その体温の感触に、甘い疼きが走る。
ただ、触れられただけなのに。
「……あっ」
「帰るって、そんな甘い匂いプンプンさせてどうやって帰るんだ? なぁ」
青磁がコンロの火を止め、横に置いていた小さな銀のボウルに溜めた濃厚なステーキソースを片手の指ですくいとる。
真っ赤なそれがゆっくりと俺の顔の方へ持っていかれて、唇の間を割って舌先にねっとりとなすり付けられた。
「ン……、んむ……」
赤ワインの風味がするソースは空きっ腹にひどく甘い。
思わず指にしゃぶりついた俺のTシャツの下に、青磁のもう片方の手が入ってくる。
「んっ、やめろ……、ンく……っ」
火照った乳首の先を指先で弄ばれると、もうそこがジンジンしてくる。
立ったままビクビクと悶える俺に、青磁はキスできる距離まで顔を寄せてきた。
「……穴があいてない……? なら、今からあけてやろうか。お前が今日、俺だけの犬になった記念にな。……どこがいい?」
「俺は……っ、犬じゃな……っ」
唇から指がぬるっと引き出される。
それは俺の唾液を纏ったまま頬を辿り、俺の耳たぶを掴んだ。
「……スタンダードに、耳がいいか……? ああ、でも部活で禁止なんだっけか? ……じゃあ、こっちかな」
服の中で乳首を指先で摘み上げられ、腰が砕けてしまう。
「っくあ……! ぜ、絶対嫌だっ、そんなところはぁ……っ」
「そんなアヘ顔しながらじゃ、説得力ねえな……? ああ、もしかしてお前は……こっちの方がいいのか」
勃起しきって、形もあらわになっている股間を掴まれて、ひいっと悲鳴が漏れた。
「いやだ……青磁っ、そんなところ……っ、怖い……」
身体はゾクゾクして気持ちいいのに、涙が溢れ出てきてしまって、俺は力なく首を振った。
「何だよ。お前は結局甘やかしてくれる弟のところに帰りたいのか?」
咎めるような口調できかれ、首を振る。
「そうじゃない……っ、そんなんじゃなくて……っ。何でお前にそんな風に意地悪されるのか、わかんなくて辛い……」
勇気を出して言ったら、キョトンとした顔をされた。
「意地悪……? そりゃあお前の方だろ。人が結婚指輪代わりにやったモノを、サッサと突っ返してきやがって」
今度は俺の方が首を傾げる番だった。
「はあ……? これが……?」
思わず、キッチンの天板の上に置いたダイヤのピアスをじっと見る。
「何で……?」
「俺もお前も、獣になってもずっと付けてられるもんなんて、ピアスぐらいしかねえだろ」
……はい?
「待って、ちょっと待ってくれ。整理したい」
「何だよ」
俺は慌てて後退り、青磁から3メートルほど離れた。
「まず、俺たち結婚してないし、そもそも婚約すらしてないよな」
「……婚約なんて面倒なものをする気はねえな」
「いや、そうじゃなくて。結婚、してないよな」
「だから、お前の弟は何とかなったし、今からしようぜ。結婚」
ダメだ、さっぱり話が読めない。
「??? 何で?」
青磁は俺に向かって手の平を見せ、指を一本一本折りながら説明し始めた。
「……お前はつがいの俺と一緒に暮らさないと情緒不安定になるだろ」
「うん」
「肉体的にも、犬になったり人間になったりすら不安定だったよな」
「それは……うん、まあ」
厳密に言えば違う気がするけど、取り敢えず頷く。
「……で、発情するたびに生でのセックスと子作り迫られるのは、俺ももうさすがに限界だ」
「……そこは申し訳ない」
「だけど普段の理性が勝ってるお前は、結婚しないと子供が作れないと考えてる」
「そうだな」
同意した俺の目の前で、青磁はぽんと両手を合わせた。
「……全部解決しようと思ったら、結婚して一緒に住むしかねえだろ。今すぐ」
開いた口が塞がらない。
「……いや……そうかもしれないけど……でもまだ俺たち、大学一年……」
「金なら十分貯まった。このミスコンでフォロワーも二十倍に増えて効率よく稼げるようになったし、色々人脈も広がったしな。お前、就職はどうせ家業だろ。一年くらい留年してもどうってことないんじゃねえの」
うう……理詰めで来られると、確かにそうだ。
「そ、それはそう、だけど……お前はいいのか?」
また泣きそうになりながら、俺は青磁にきいた。
「俺と、学生結婚なんかして……?」
「今更それを聞くか?」
呆れたみたいに言われて、我慢できずに、俺は体当たりするみたいにガバッと青磁の首に抱きついた。
「青磁……!」
途端に、青磁の身体から立ち昇る甘い香りに包まれる。
大きな手に背中をゆっくり撫でられて、多幸感が湧いた。
見上げると、青磁が鋭い牙を見せて笑っている。
「――今回の発情期でお前を孕ませて、もう二度と家には返さねえからな。お前の弟には勝ったし、お前の親父二人にも筋は通してあるし」
「へっ……?」
「夏休みに呼び出してお前抜きで会って、早めに一緒になるのがお前のためでもあるってことを全部説明した。犬の方の親父は失神しそうな顔してたが」
「なっ、おま、何をどこまで話したんだ……!!
どうせ青磁のことだから、発情のこととか、俺が犬から戻れなくなった時のこととか……包み隠さずあけすけに話したに違いない。
そういえば、夏に二週間ぐらいパパが部屋にどんより引きこもってたことがあったけど、それが原因だったのか……!?
あの配信の日の、航の兄離れ宣言も、もしかしてこのことを知っていたから……。
知らないうちに、どんどん外堀を埋められていたってことなのか。
「青磁っ、ほんと、お前ってやつは……呆れてものも言えない……っ」
驚いたのと、嬉しいのとで、涙が止まらなくなってしまった。
会えない間も、青磁がそんなに真剣に、俺のことを考えててくれたなんて知らなかったから。
「何だよ。不満か?」
「ううん……心の準備がちょっと足りねえけど、嬉しい……今すぐしたい……」
「じゃあ、夕飯しっかり食えよ。――食わねえと、身体がバテるだろ……」
そう言って髪を撫でてくれた青磁の端正な顔が、犬の俺を見る時と同じ、優しい表情をしていて――相変わらずエッチな気分なのに、何故か凄く安らいだ。
青磁のフェロモンにあてられたのと、突然のあまりの仕打ちにビックリして、茫然自失状態になってしまったからだ。
青磁は舞台上で南野さんにグーパンチで思い切り殴られ、結果的に俺と青磁のキスシーンはギャグの一環になってしまった(そう解釈するしかなかったんだと思う)。
客席は笑ってるけど南野さんは激怒してるっていう、そんな微妙に気まずい空気を、司会者が必死に収拾してくれたらしい。
俺はボンヤリしたまま黒子に引きずられて出演者の控え室に運び込まれ、気の毒な観客の扱いで丁重に寝かされた。
青磁の思いつきで真剣に取り組んでたミスコンを台無しにされた南野さんが気の毒で仕方がなかったけど、結果的に、彼女の迫真の演技と迫力のパンチは好評だったらしい。
絶世の美人なのに謎の男に負けた、ってところに共感と同情が集まり、南野さんは、他の二人の候補をおさえて見事グランプリに輝いた。
そして、今年度の立山祭のミスターに輝いたのは――。
久しぶりの青磁の家に着いたのは、夕方だった。
本当は立山祭の後始末とか、打ち上げとか、お互いに色々予定があったんだけど、俺の発情が止まらなくて、全部キャンセルするしかなかった。
道着を脱ぎ、なんとか普段着に着替えたところで迎えに来た青磁にほとんど強制的に連行され、地元駅まで一緒に帰り……今は彼のマンションのリビングのソファの上でボンヤリとしている。
――何だか、夢の中にいたみたいな学祭の三日間……そして、怒涛のように色々あった二日間だった。
……疲れ切ってしまってるのに、身体がずっと火照って熱い。
電車の中で一緒にいた時からもうかなりヤバくて、着いたらすぐにでも抱いて欲しいくらい切羽詰まってたのに、青磁は帰ってもまだ人間の顔をして、キッチンで悠長に料理なんかしている。
……発情してると分かってるくせに、俺をわざと焦らしてるんだ。
俺はイライラしながらソファに寝っ転がり、クッションを抱きながらスマホを見た。
アクセスしているミスコンのWEBサイトには、華々しく催された三ノ宮君と南野さんのグランプリ発表会の写真が映っている。
「……結局、航も青磁もミスターは取れなかったな……もちろん一人は自業自得だけど」
眺めながら、俺は青磁に話しかけた。
一続きになっているリビング・ダイニングの奥――カウンター式のキッチンの中で、片頬を腫らした青磁が冷ややかに笑う。
「……当たり前の結果だろ。三ノ宮はもうすぐ組んでるバンドでメジャーデビューするらしいし、南野ゆりなは所属事務所持ちで、これから本格的に女優を目指すらしいからな。……学生時代のうちに、多少のハクを付けてやろうと考えた大人がいたわけだ」
その言葉に、俺はガバリとソファから飛び起きた。
「何だよそれ……!? 出来レースだったって言いたいのか!?」
「さあ? 俺がそう思うだけだ。一般投票が入ってる分、幾らでも工作は可能だからな。――ただ、そういうのも含めて実力だろ。俺としては、お前の弟に勝つっていう目的は無事に果たしたから、どうでもいい」
機嫌よさそうに笑みを浮かべ、真っ赤な分厚いサーロインステーキをフライパンで焼き始めている。
油の弾ける音が上がって、俺はそれに負けないように声を張った。
「そんな……。裕明も、候補者のみんなだってあんなに真剣に、本気で頑張ってたのに、そんな酷いこと言うなよ!?」
「賞レースと、本人の努力っていうのは別物だ。弟を見てて分からなかったのか?」
「なんだその言い方……! 大体お前、あんな人前で俺にキスしやがって……俺だって、お前のこと一発殴ってやりたい気分なんだからな……!?」
反論しながらソファを降り、大股でキッチンまで歩く。
ズボンのポケットを漁り、ダイヤのピアスの片方を取り出して青磁に差し出した。
「……あとこれ。返す」
青磁はピクっと丸耳を震わせ、こっちを向いた。
「それはお前にやったものだろ」
「要らねえよ。だいたい貰っても、俺、穴あいてないし。じゃあ、もう帰るから」
大理石の天板に石を置き、踵を返そうとした時、青磁の手が俺の腕をギュッと掴んだ。
その体温の感触に、甘い疼きが走る。
ただ、触れられただけなのに。
「……あっ」
「帰るって、そんな甘い匂いプンプンさせてどうやって帰るんだ? なぁ」
青磁がコンロの火を止め、横に置いていた小さな銀のボウルに溜めた濃厚なステーキソースを片手の指ですくいとる。
真っ赤なそれがゆっくりと俺の顔の方へ持っていかれて、唇の間を割って舌先にねっとりとなすり付けられた。
「ン……、んむ……」
赤ワインの風味がするソースは空きっ腹にひどく甘い。
思わず指にしゃぶりついた俺のTシャツの下に、青磁のもう片方の手が入ってくる。
「んっ、やめろ……、ンく……っ」
火照った乳首の先を指先で弄ばれると、もうそこがジンジンしてくる。
立ったままビクビクと悶える俺に、青磁はキスできる距離まで顔を寄せてきた。
「……穴があいてない……? なら、今からあけてやろうか。お前が今日、俺だけの犬になった記念にな。……どこがいい?」
「俺は……っ、犬じゃな……っ」
唇から指がぬるっと引き出される。
それは俺の唾液を纏ったまま頬を辿り、俺の耳たぶを掴んだ。
「……スタンダードに、耳がいいか……? ああ、でも部活で禁止なんだっけか? ……じゃあ、こっちかな」
服の中で乳首を指先で摘み上げられ、腰が砕けてしまう。
「っくあ……! ぜ、絶対嫌だっ、そんなところはぁ……っ」
「そんなアヘ顔しながらじゃ、説得力ねえな……? ああ、もしかしてお前は……こっちの方がいいのか」
勃起しきって、形もあらわになっている股間を掴まれて、ひいっと悲鳴が漏れた。
「いやだ……青磁っ、そんなところ……っ、怖い……」
身体はゾクゾクして気持ちいいのに、涙が溢れ出てきてしまって、俺は力なく首を振った。
「何だよ。お前は結局甘やかしてくれる弟のところに帰りたいのか?」
咎めるような口調できかれ、首を振る。
「そうじゃない……っ、そんなんじゃなくて……っ。何でお前にそんな風に意地悪されるのか、わかんなくて辛い……」
勇気を出して言ったら、キョトンとした顔をされた。
「意地悪……? そりゃあお前の方だろ。人が結婚指輪代わりにやったモノを、サッサと突っ返してきやがって」
今度は俺の方が首を傾げる番だった。
「はあ……? これが……?」
思わず、キッチンの天板の上に置いたダイヤのピアスをじっと見る。
「何で……?」
「俺もお前も、獣になってもずっと付けてられるもんなんて、ピアスぐらいしかねえだろ」
……はい?
「待って、ちょっと待ってくれ。整理したい」
「何だよ」
俺は慌てて後退り、青磁から3メートルほど離れた。
「まず、俺たち結婚してないし、そもそも婚約すらしてないよな」
「……婚約なんて面倒なものをする気はねえな」
「いや、そうじゃなくて。結婚、してないよな」
「だから、お前の弟は何とかなったし、今からしようぜ。結婚」
ダメだ、さっぱり話が読めない。
「??? 何で?」
青磁は俺に向かって手の平を見せ、指を一本一本折りながら説明し始めた。
「……お前はつがいの俺と一緒に暮らさないと情緒不安定になるだろ」
「うん」
「肉体的にも、犬になったり人間になったりすら不安定だったよな」
「それは……うん、まあ」
厳密に言えば違う気がするけど、取り敢えず頷く。
「……で、発情するたびに生でのセックスと子作り迫られるのは、俺ももうさすがに限界だ」
「……そこは申し訳ない」
「だけど普段の理性が勝ってるお前は、結婚しないと子供が作れないと考えてる」
「そうだな」
同意した俺の目の前で、青磁はぽんと両手を合わせた。
「……全部解決しようと思ったら、結婚して一緒に住むしかねえだろ。今すぐ」
開いた口が塞がらない。
「……いや……そうかもしれないけど……でもまだ俺たち、大学一年……」
「金なら十分貯まった。このミスコンでフォロワーも二十倍に増えて効率よく稼げるようになったし、色々人脈も広がったしな。お前、就職はどうせ家業だろ。一年くらい留年してもどうってことないんじゃねえの」
うう……理詰めで来られると、確かにそうだ。
「そ、それはそう、だけど……お前はいいのか?」
また泣きそうになりながら、俺は青磁にきいた。
「俺と、学生結婚なんかして……?」
「今更それを聞くか?」
呆れたみたいに言われて、我慢できずに、俺は体当たりするみたいにガバッと青磁の首に抱きついた。
「青磁……!」
途端に、青磁の身体から立ち昇る甘い香りに包まれる。
大きな手に背中をゆっくり撫でられて、多幸感が湧いた。
見上げると、青磁が鋭い牙を見せて笑っている。
「――今回の発情期でお前を孕ませて、もう二度と家には返さねえからな。お前の弟には勝ったし、お前の親父二人にも筋は通してあるし」
「へっ……?」
「夏休みに呼び出してお前抜きで会って、早めに一緒になるのがお前のためでもあるってことを全部説明した。犬の方の親父は失神しそうな顔してたが」
「なっ、おま、何をどこまで話したんだ……!!
どうせ青磁のことだから、発情のこととか、俺が犬から戻れなくなった時のこととか……包み隠さずあけすけに話したに違いない。
そういえば、夏に二週間ぐらいパパが部屋にどんより引きこもってたことがあったけど、それが原因だったのか……!?
あの配信の日の、航の兄離れ宣言も、もしかしてこのことを知っていたから……。
知らないうちに、どんどん外堀を埋められていたってことなのか。
「青磁っ、ほんと、お前ってやつは……呆れてものも言えない……っ」
驚いたのと、嬉しいのとで、涙が止まらなくなってしまった。
会えない間も、青磁がそんなに真剣に、俺のことを考えててくれたなんて知らなかったから。
「何だよ。不満か?」
「ううん……心の準備がちょっと足りねえけど、嬉しい……今すぐしたい……」
「じゃあ、夕飯しっかり食えよ。――食わねえと、身体がバテるだろ……」
そう言って髪を撫でてくれた青磁の端正な顔が、犬の俺を見る時と同じ、優しい表情をしていて――相変わらずエッチな気分なのに、何故か凄く安らいだ。
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