ココロの翼が開くとき

きぐるみんZ

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Episode.000 モンスターチルドレン

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ピーチチチ……バサバサバサッ……

ヒョオォォォ……



 シロヒバリの群れが枝から飛び立ち、大樹の周りを螺旋を描く様に白い線が旋回しながら空の彼方へ去って行きます。

 それをきっかけにして、木の幹からひょこっひょこっと顔を出すリスやヘビ、カエルにキツツキなどの木の上に暮らす小動物達。

 いや、小動物達だけではありません。
彼らに混じって、マンドラゴラやカーバンクルみたいな花樹族を始めとする “ 異世界の住人 ” 達の姿も見え隠れしています。


 そう、ここは動物とモンスターが棲み分けして仲良く共存する……
『地上界』と呼ばれる、日本とは異なる異世界。




「でっかい神樹の 根っこはさ
倒れない様に 踏ん張って
季節の移りを 守るんだぁ~♪」


「でっかい神樹の 葉っぱはね
涼しい日陰を プレゼント
緑の団扇で そよぐのよぉ~♪」


『でっかい神樹の てっぺんに
大きく咲かせた 花あって
地平の果てまで 見えるのさぁ~♪』×2




 神樹イグドラシルの木の幹に絡み伝うセーリングツリーで出来た『神樹の道』を、まるでピクニック感覚で上へ上へと登って行く父と陽気に唄を歌う2人の兄妹、3人の姿が。

 兄は男の子らしく、道端で見付けた小さな小枝をブンブンと振り回しながら。
妹は女の子らしく、大好きな父に肩車をして貰って満面の笑みでキャッキャ笑いながら。
父は子供達2人の成長が眩しく、微笑みながら子供達を引っ張って行きます。

「よーし、ここら辺だったらちょうど大樹の枝が途中でポッキリ折れた切り株もあるし、見晴らしもイイから……
スメルクト米で作った、ママ特製のおにぎりを食べてお昼にしよーかー?」

『うんっ!』×2



 3人は輪を囲む様に切り株に座り、おにぎりを頬張りました。
みんなでおにぎりを食べていると、大樹の上から傷付いたシロヒバリが落ちて来ました。
恐らく向こうの世界、日本で言う食物連鎖の上位動物、モンスターに襲われたのでしょうか?
お父さんが拾い上げて、治癒魔法を施しますが……
間に合わなかったのでしょう、魔核まで抉られたシロヒバリはピクリとも動く事なくシュ……ッと黒い霧になって昇天して消えてしまったんです。


「ねぇパパ……昇天しちゃった動物やモンスターって、魂はどこに行っちゃうの?」

 兄……イサナが、パパに聞きます。

「昇天した魂はね、女神のおばあちゃんがいる『天界』へと流されるんだよ。」

 パパ……シェリルは、おばあちゃんに教えて貰った事を子供達に分かりやすく噛み砕いて説明します。
子供達が理解出来るまで……何度でも、じっくりと。

「じゃあ、ワタシ達も魂になれば『天界』に行けておばあちゃんに会えるの?」

 妹……イサミも、分からない所は遠慮なく、繰り返し聞きます。
どうやら、それがこの家での教育方針みたいです。


「イヤ、『天界』に流された魂はキレイに浄化されちゃうから無理だっておばあちゃんが言ってたよ。
ほら、毎年七夕の日におばあちゃん、1日だけ『天界』から降臨して遊びに来てくれるだろ?
その時に、教えてくれたんだよね。
その後、別の動物やモンスターに転生して生まれ変わるんだよ。」

 今度は、兄が質問します。

「パパ、転生ってなぁに?」

「転生っていうのは、動物やモンスターの昇天した魂が他の種族の受精卵と結び付いて、他の種族として生まれ変わる事を言うんだよ。」

 そして、今度は妹の番。

「ねぇ、受精卵ってなぁに?」

 兄妹から交互に、矢継ぎ早に繰り出される質問の嵐には、パパも大変そうです。
しかし、パパは何時如何なる時でも、子供達と正面から向き合う事を忘れません。

「受精卵っていうのは昇天した魂の “ 生きた証 ”、タイムカプセルなんだよ。
だけど、中には “ 例外 ” もあるんだ。
例えば、テイムされたモンスターは自分を愛してくれた宿主マスターに感謝を込めて自分の魂をドロップアイテムみたいな『形ある物』として遺すんだよ。
それに……」

 もっと厄介な “ 例外 ” も、あるにはあるんだよなぁ。

「イサナ、イサミ……
『異世界転移』って言葉、聞いた事あるかい?」

 父からの問いに、兄がハイッ!と手を挙げます。

「うんっ、ボク達がいるこの世界とは違う “ 異世界 ” から人々がこの世界にやって来る事を言うんでしょ?」

「ママの方の家系がそうだって、ママから教えて貰ったよ♪」

 よく出来ました♪と、父は子供達の頭をクシャクシャっと撫でてあげます。

「そう、身近な例で言うと日本って世界からやって来たママやおばあちゃん、ひいおばあちゃんみたいな上村家の人々がそうだよね。
じゃあ……『異世界転生』は?」

「向こうの違う世界で昇天した人達が、“ 異世界の壁 ” を越えてこの地上界で生まれ変わる事?」

 おっ、お兄ちゃん、せーいかーい♪
















 この後、父は衝撃的なひと言を口にしたんです!

「でもね、逆にこの地上界の動物やモンスター、いわゆる “ 異世界の住人 ” 達が逆に向こうの日本って世界に『異世界転移』、『異世界転生』するケースもあるんだよ!」

 そう、それは……人間にだけ起こるモノでは無かったんです!
『異世界転生』は、昇天した動物やモンスターの魂だって “ 逆に ” 異世界の壁を飛び越えて、日本で人間族の受精卵と結び付ける事が出来るんです。

「『異世界転生』で生まれた子には当然日本の常識が理解出来るハズが無く、動物やモンスターだった時の本能が抜け切らず傍若無人に暴れ回っていたそうなんだ。」


 そんな、『異世界転生』で人間の受精卵と結び付いて生まれた “ 異世界の住人 ” 達。
見た目は人間の子供達と見分けが付かず、そんな彼らはこう呼ばれたそうです。

『モンスターチルドレン』と。


「そんな『モンスターチルドレン』に対抗する術を持たない人々は彼らに屈し、言いなりになるしか無かったんだ。
しかし、そんな日本でただひとり立ち向かう事が出来る人間が現れたんだよ。」


 そして父は子供達のひいおじいちゃん、秀人シュージンの昔話を語り始めたのでした。
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