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第三章
[ 169 ] ピヨの風魔法
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食事を終えて店を出る際に、店長が声をかけてきた。
「お前らが店に来る前の話だけどよ。ラッセ嬢が大声で歌ってる声が聞こえたんだ」
「え? ラッセさんが? 歌を?」
「ああ、気になってギルドを覗いたら殺意を込めた目で「忘れてください」って睨まれたぜ……」
「そ、それは怖いですね……」
あのクールなラッセさんが、大声で歌う?ありえないし、想像できない……たぶん聞き間違いだろう。
そんな事を考えながら、ロゼとギルドへ戻りドアを開けると、ピヨが飛んできた。
「ロォオ~イエ~。お~か~え~り~ピヨ~」
ギョッとした。それもそのはず、ピヨから発せられたのは、宇宙人みたいな声だったからだ。喉を叩きながら喋った時のような……ワレワレハ ウチュウジンダの声そのもの。
「へへーん! 驚いたピヨ?」
「う、うん。どうやったの?」
「風魔法の練度が上がったピヨ」
なるほど。風魔法で声を操る練度★2「ハウリングラウト」か……。てっきり声を大きくするだけの魔法かと思ってたけど、声質を変えることも出来るのか。
確かにピヨは火口に行ったり、普段の移動でもタクシー代わりにピヨにフリューネルを使っていてもらったから、練度が上がるのも納得だ。
「よかったな。でも大声にするのはダメだよ?」
「そそそ、それは重々承知ピヨ……」
ピヨの目線がラッセさんをチラッとみた。まさか、店長が聞いたラッセさんの歌声というのは……。ラッセさんがものすごくイライラした顔でカウンターからこちらを見ている。
「あの、すみません。ピヨがご迷惑おかけし……」
「その鳥が、入ってくるなり突然バカデカい声で歌い出すから、近隣住民に私が歌ってたことにするしかなかったんですが?」
既にやらかし済みだったか……。これはピヨが悪い。喋る鳥がいること自体、あまり公にしない方が良いかなと思っているのに……。大声で歌うなんて。
「よく言って聞かせておきます……」
「そうしてください。危うく鳥の冷凍肉が出来上がるところでしたよ」
「……少し羽が凍ったピヨ」
「はぁ。ピヨ。その魔法はさっきみたいに声質を変えるくらいなら言いけど緊急時以外は絶対に大声は禁止だ。わかったな?」
「わかったピヨ」
音質を変える……か。なるほど、自分で言っていて気付いてしまった。一連の犯人はあの人だ。これは一歩先に手を打っておく必要がある。
「ロゼ、さっきの話だけど。今すぐ馬車を手配して、南門を警備してるブリュレにアルノマール市長への手紙をフォレストへ運ぶように言ってくれる?」
「わかりましたわ」
足早にギルドから出て行こうとするロゼを、ラッセさんが止めた。
「ちょっとお待ちください。勝手な配置変更は困ります」
「ラッセさん、説明しますので、ブリュレをいかせてください」
「馬車の用意までは許可しますが、説明が先です」
「わかりました。ロゼ、馬車の用意だけお願い」
「はい!」
ギルドの中には僕とラッセさん、ピヨだけ。南門はブリュレ、東門はシュテルン、港には仕事中だけどレオラ、西門にはマスターがいる。厳重警戒が解除されたから日中だけの警備だけど、とりあえず夕方までは誰もギルドには戻らない。話すなら今だ。
「まず、この事件の報告者はどなたが作りました?」
カウンターの脇に置かれ、さっきまでラッセさんが読んでいた事件の報告書を指差した。
「それは私です。各自からもらった情報を集めて報告者にしました」
「では、被害者の男の子に事情聴取したのは誰ですか?」
「それはシュテルンさんですね。自ら担当しますと名乗り出たのでお任せしました」
「実は今朝、ロゼの案内をしていたら西側で被害者の男の子に会いまして、こんな事を言ってました」
――「あ、こないだのお兄さんにも言ったけど、犯人は変な声だったよ」――
「恐らく犯人は男の子に毒を飲ませる際、風魔法で音質を変化させて声をかけた可能性があります」
「……それは確かに、報告書にありませんでしたが、シュテルンさんが風魔法使いだから疑ってるんですか? 風魔法使いなんてたくさんいますし、練度★2くらいなら民間人でも」
まぁその可能性はある。ただ、他にもシュテルンが怪しい証拠はいくつもある。
「実は毒男が出たすぐ後くらいに、東側のとある武器屋で盗難事件がありました」
「それも聞いてないですね」
「被害者は自分で無くしたと思っていて、被害届は出していませんでした。あの時、僕はマスターの指示で東側に向かいましたが、東側でシュテルンさんに会いました」
元々いた東門の門番にも聞いたが、シュテルンさん以外に不審な人物は見ていない。
「ファブロさんに僕が魔吸石を渡した事を知っているのは、ユンガとファブロさんを抜かすと、ラッセさんとシュテルンさんしかいません」
「なるほど、シュテルンさんが犯人像に近い……とそういう事ですね?」
「ええ、まだ証拠はありませんが……」
「……あの、ロイエさんがそこまで危機感を抱いている理由はなんですか? 私にはロイエさんが、もっと危険な事を警戒してるように聞こえますが……」
シュテルンが魔吸石を奪ったとしたら、この街のフィクスブルートも狙っている可能性が高い。そうなればこの街はモンスターで埋め尽くされるだろう……。
フィクスブルートは近くに人間が多ければ多いほど、強いモンスターをたくさん呼び出す傾向があるから、これだけの街で発生したらフォレストの比ではないはずだ。
「実はあの魔吸石というのは――」
モンスター大量発生について説明しようとしたところで、シュテルンがギルドに入ってきた。
「お、ロイエ戻ってるのか真面目だな。一日くらい遊んできても良いのに」
「お前らが店に来る前の話だけどよ。ラッセ嬢が大声で歌ってる声が聞こえたんだ」
「え? ラッセさんが? 歌を?」
「ああ、気になってギルドを覗いたら殺意を込めた目で「忘れてください」って睨まれたぜ……」
「そ、それは怖いですね……」
あのクールなラッセさんが、大声で歌う?ありえないし、想像できない……たぶん聞き間違いだろう。
そんな事を考えながら、ロゼとギルドへ戻りドアを開けると、ピヨが飛んできた。
「ロォオ~イエ~。お~か~え~り~ピヨ~」
ギョッとした。それもそのはず、ピヨから発せられたのは、宇宙人みたいな声だったからだ。喉を叩きながら喋った時のような……ワレワレハ ウチュウジンダの声そのもの。
「へへーん! 驚いたピヨ?」
「う、うん。どうやったの?」
「風魔法の練度が上がったピヨ」
なるほど。風魔法で声を操る練度★2「ハウリングラウト」か……。てっきり声を大きくするだけの魔法かと思ってたけど、声質を変えることも出来るのか。
確かにピヨは火口に行ったり、普段の移動でもタクシー代わりにピヨにフリューネルを使っていてもらったから、練度が上がるのも納得だ。
「よかったな。でも大声にするのはダメだよ?」
「そそそ、それは重々承知ピヨ……」
ピヨの目線がラッセさんをチラッとみた。まさか、店長が聞いたラッセさんの歌声というのは……。ラッセさんがものすごくイライラした顔でカウンターからこちらを見ている。
「あの、すみません。ピヨがご迷惑おかけし……」
「その鳥が、入ってくるなり突然バカデカい声で歌い出すから、近隣住民に私が歌ってたことにするしかなかったんですが?」
既にやらかし済みだったか……。これはピヨが悪い。喋る鳥がいること自体、あまり公にしない方が良いかなと思っているのに……。大声で歌うなんて。
「よく言って聞かせておきます……」
「そうしてください。危うく鳥の冷凍肉が出来上がるところでしたよ」
「……少し羽が凍ったピヨ」
「はぁ。ピヨ。その魔法はさっきみたいに声質を変えるくらいなら言いけど緊急時以外は絶対に大声は禁止だ。わかったな?」
「わかったピヨ」
音質を変える……か。なるほど、自分で言っていて気付いてしまった。一連の犯人はあの人だ。これは一歩先に手を打っておく必要がある。
「ロゼ、さっきの話だけど。今すぐ馬車を手配して、南門を警備してるブリュレにアルノマール市長への手紙をフォレストへ運ぶように言ってくれる?」
「わかりましたわ」
足早にギルドから出て行こうとするロゼを、ラッセさんが止めた。
「ちょっとお待ちください。勝手な配置変更は困ります」
「ラッセさん、説明しますので、ブリュレをいかせてください」
「馬車の用意までは許可しますが、説明が先です」
「わかりました。ロゼ、馬車の用意だけお願い」
「はい!」
ギルドの中には僕とラッセさん、ピヨだけ。南門はブリュレ、東門はシュテルン、港には仕事中だけどレオラ、西門にはマスターがいる。厳重警戒が解除されたから日中だけの警備だけど、とりあえず夕方までは誰もギルドには戻らない。話すなら今だ。
「まず、この事件の報告者はどなたが作りました?」
カウンターの脇に置かれ、さっきまでラッセさんが読んでいた事件の報告書を指差した。
「それは私です。各自からもらった情報を集めて報告者にしました」
「では、被害者の男の子に事情聴取したのは誰ですか?」
「それはシュテルンさんですね。自ら担当しますと名乗り出たのでお任せしました」
「実は今朝、ロゼの案内をしていたら西側で被害者の男の子に会いまして、こんな事を言ってました」
――「あ、こないだのお兄さんにも言ったけど、犯人は変な声だったよ」――
「恐らく犯人は男の子に毒を飲ませる際、風魔法で音質を変化させて声をかけた可能性があります」
「……それは確かに、報告書にありませんでしたが、シュテルンさんが風魔法使いだから疑ってるんですか? 風魔法使いなんてたくさんいますし、練度★2くらいなら民間人でも」
まぁその可能性はある。ただ、他にもシュテルンが怪しい証拠はいくつもある。
「実は毒男が出たすぐ後くらいに、東側のとある武器屋で盗難事件がありました」
「それも聞いてないですね」
「被害者は自分で無くしたと思っていて、被害届は出していませんでした。あの時、僕はマスターの指示で東側に向かいましたが、東側でシュテルンさんに会いました」
元々いた東門の門番にも聞いたが、シュテルンさん以外に不審な人物は見ていない。
「ファブロさんに僕が魔吸石を渡した事を知っているのは、ユンガとファブロさんを抜かすと、ラッセさんとシュテルンさんしかいません」
「なるほど、シュテルンさんが犯人像に近い……とそういう事ですね?」
「ええ、まだ証拠はありませんが……」
「……あの、ロイエさんがそこまで危機感を抱いている理由はなんですか? 私にはロイエさんが、もっと危険な事を警戒してるように聞こえますが……」
シュテルンが魔吸石を奪ったとしたら、この街のフィクスブルートも狙っている可能性が高い。そうなればこの街はモンスターで埋め尽くされるだろう……。
フィクスブルートは近くに人間が多ければ多いほど、強いモンスターをたくさん呼び出す傾向があるから、これだけの街で発生したらフォレストの比ではないはずだ。
「実はあの魔吸石というのは――」
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