求:回復術師 〜絶対見捨てない為に、僕が今できる事〜

猫鈴うみゃ

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第四章

[ 210 ] 試食会

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――「ロイエ殿! ようこそいらっしゃいました!」

 親方の採掘場を出ると、僕らはギルドでクルトさんにゼクトとテトラへ情報を流さないように注意喚起して、ナルリッチさんのレストランへやってきた。

「お邪魔してしまいすみません」
「いえいえ! 大歓迎です!」

 ハリルベル、ロゼとレストランに入ると、満面の笑みでナルリッチさんが歓迎してくれた。厨房の奥では、店長とコック長のエッセンさんが準備をしているのが見えた。

「少々準備に時間がかかっておりますので、旅の話でも聞かせて頂けますかな?」
「ええ、是非」

 給仕の女性に案内されて、以前と同じテーブルへ案内された。なんだか懐かしい、ここでたこ焼きと焼きそばを提案したんだっけか……。

「あの、店長が強引に押しかけてきませんでしたか? 店長にナルリッチさんのたこ焼きを紹介したのは僕なので……」
「ははは! 俺にたこ焼きを教えてくれ!って飛び込んで来たもんだから最初はびっくりしましたよ」

 やはり店長はナッシュに着くなり突撃したのか……。まぁ、あのメンツで店長を止められる人なんていないか。

「しかし、彼はエッセンも舌を巻くほどの技術力を持ってます。料理長の座が危ないとまで言っていました。はは」
「す、すみません。実は――

 僕らはデザントの事件と店長の事情について詳しく説明をした。モンスターの攻撃で秘伝のソースを失ったこと、新たに作ったソースがたこ焼きに合うと思ったこと。

「例のソースですね。私も舐めさせて頂きましたが、確かにたこ焼きの新たなフレーバーとして、抜群の人気を誇ると確信しました」
「それはよかったです」

 既に10種類以上のソースやフレーバー開発して、ナッシュでは定番の料理として定着しているらしい。

 毎月新しい味をニ種類作って、ランキング最下位の二つと入れ替える戦略で、ユーザー参加型として町興しにも繋がっているとの事だ。

「来月の新味の一つは店長さんのソースに決まっていますが、もう一つどれにするか迷ってまして、今日はその試食会になります」
「了解しました」
「腹減ったー! たくさん食べてもいいですか?!」
「ハリルベル……。ちゃんと味の審査もしてよ?」
「わかってるって!」

 しばらく雑談をしていると、良い匂いが流れてきて店長が両手一杯のたこ焼きを運んで来た。

「おらぁ! 出来たぞ! 食え!」
「こちらが店長さんの秘伝のソース味で、こちらの大皿はプレート通りの味になっております」

 大皿には、十種類ほどのいろんな味のたこ焼きが並べられている。材料の名前はいまだによくわからないから、何味かわからないな。

「モーサ味あるじゃん!俺好きなんだよねぇ」
「あら? ララピリル味もありますわ」

 まったくわからないな。とりあえず食べてみよう。

――そこからは、試食会が始まった。

「うん!おいしい!」

 やはり店長のソースは、前世のたこ焼きソースのあじにそっくりだ。これなら味覚が僕に近い人なら美味しく食べられるはずだ。

「やっぱり俺はモーサだな!」

 ハリルベルのオススメはモーサ味だった。これは砕いた果実や野菜が溶け込んだソースで、塩味が効いていて確かにおいしい。

「わたくしは、ララピリルですかね」

 ララピリルとは、果物の名称だった。エッセンさんの解説によると、赤い実でとても甘いらしい。

「ふむ、ロイエ殿はいかかでしたか?」
「そうですね。僕もモーサかララピリルは美味しいと思いましたが……。こちらの売上の資料を見ると、ほとんどが男性客なんですよね」
「そうですね。それは我々も課題だと感じておりました」
「であれば、実験的にロゼの選んだララピリル味を置いた見るのはどうでしょうか?」
「えー、モーサにしようぜ」

 ハリルベルはモーサ味が好みらしい。

「モーサもおいしかったけど、店長のソースの劣化位置になる気がして……」
「あー、そう言われるとそうかもな」
「わかりました。では来月追加する味は店長さんのソースと、ララピリルにしましょう」

――こうして、試食会は終わり、僕らはナルリッチさんに謝礼を頂いた。

 ただ飯を食べれただけで満足感高いのに悪いと言ったけど、毎月参加してくれてる方には払ってるからと押し通されてしまった。

「ところで……ロイエ殿。つかぬことをお伺い致しますが、カルネオールは……」
「あぁ、ごめんなさい。折れました……」
「なんと! お怪我はありませんでしたか?! くぅ……! 代わりの剣を早急に手配致します!」
「あああ! いいんです! ほら! これ! もう代わりの剣は用意してありますので」

 破壊剣ゼーゲドルヒを掲げてみせると、ナルリッチさんは髭が下がって申し訳なさそうな顔になった。

「では、折れたカルネオールの代わりに金貨百枚を……」
「え?! いいいいです! 本当に大丈夫ですから!」
「しかし……」

 何故か全然譲ろうとしないナルリッチさんに、僕はある提案をした。

「でしたら……。僕ら近いうちに、船でヘクセライを目指すのですが、それまで泊まるところをまだ確保してなくて」
「でしたら、私の経営する宿を提供いたしましょう」
「ロイエ?! 俺の家に泊まらないのか?」
「ロイエさん! わたくしの家なら部屋がたくさん余ってますよ?」

 どちらも考えたが……。この後、ヘクセライでは王国側の精鋭と正面衝突をする可能性が高い。最悪誰かが命を落とす可能性もある。

「ここから先、覚悟が必要だと思うんだ。船の準備が出来るまで数日程度だと思うけど、一人になる時間を作って各自、僕と一緒にヘクセライへ行くかよく考えてきて欲しい」

 ナルリッチさんのいる手前、詳しいことは言えないが二人は察してくれたらしい。無言で頷いてくれた。

「あん? お前らヘクセライ行くのか? うーん」

 なぜか店長が悩み始めてしまった。もしかして付いてくる気なのか?

「あの、店長はここでソースの売れ行きがどうなるか見守って欲しいので、ナッシュに残ってください」
「うーん、そうか。まぁそれ以外ないか……」

 珍しく店長が折れたところで、ナルリッチさんは手を叩くと秘書が飛んで来た。

「ついでに、店長さんの宿も手配致しましょう」
「ありがとうございます」

――こうして試食会を終えると、僕と店長は用意してもらった宿へ向かった。
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