暴君は野良猫を激しく愛す

藤良 螢

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害するものは

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 本丸には重要な施設が集中している。城主やその家族の居住区や、家臣たちと執務を行なう表御殿などもその一部であることから、城の中枢部であるといえる。
 彰久が帰還してから、城内は上下を問わずある噂でもちきりだった。
 話題の渦中にあるのは、彰久が攫うようにして連れ帰った女人ーー幸菜である。

 現城主である彰久はよわい十五で元服を果たし、十八の時に先代城主であった父の死去と同時に家督を継いだ。
 物心つく前から次期当主として育てられていたこともあり、その治世は見事なものであったが、ただ一つ問題があった。
 元服を果たせば間をおかず正妻をめとるのが通例だというのに、彰久はそうしなかったのである。
 時折手をつけることはあれど、それを正室はおろか妾にさえ迎えることはなかった。
 若さゆえと、当主襲名からしばらくはそのうち誰ぞを娶るだろうと黙認していたが、どれだけ月日が経とうとも一向にその気配はなかった。家臣たちが次第に焦りだし、縁談を、世継ぎをと催促しても聞く耳を持たなかった。

 よもやと主家の断絶を危ぶみ始めていたというのに、彰久は突然うじ素性すじょうの知れない女人を連れ帰ったのだ。

 家臣たちは一気に賑わいだ。出自など些事でしかなかった。少なくとも女人に興味が無いわけではないということがわかったのだ。なれば、ゆくゆくは相応しい正妻を娶ることになるはずだ。
 意気揚々と話を持ち出した家臣の一人を、しかし彰久は一瞥いちべつでもって切り捨てた。

「くだらぬことを申すな」

 家臣たちの背筋を戦慄がはしった。
 仰ぎ見た彰久の瞳は底冷えのする色に染まっている、その奥に恐ろしい光を見出した。
 主君とはいえ、たかが一人の青年に、歴戦の武士たちが気圧されていた。

「あれには北の、中庭に面した座敷を与えた。これ以上無駄話をするつもりはない。……この意味がわからない愚か者がいるのなら、即刻この場から失せろ」

 ひゅっと息をのむ音が響く。それは一つ二つどころではない。
 彰久の言う通り、誰もがその言葉を理解していた。異例のことだというのに、誰一人としていさめようと思うこともできないでいた。

 一人、また一人、と我に返った者が気迫にのまれ、竦み上がり強張る体を強引に倒していく。
 やがて表御殿に集まるすべての者が平伏した様を見て、彰久はこれ以上の問答は無用だとばかりに立ち上がった。その足の向かう先は聞くまでもない。
 取り残された家臣たちは、ゆるゆると互いの顔を見合わせるも、言葉を発することはできなかった。
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