暴君は野良猫を激しく愛す

藤良 螢

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鳥籠の猫

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「お前もなかなか良い性格をしているな」
「殿様達には敵いませんけどね」

 美津の野心を知りながら好きにさせていた彰久や、利用されているふりをしながら利用していた遼展には遠く及ばない。
 穏やかな微笑を浮かべて語る幸菜に、彰久は喉を鳴らしながら体を揺らした。自然、膝に抱き上げられた幸菜も左右に揺れる。

「殿様、この体勢好きですね」
「…………悪いのか」

 拗ねたような口ぶりにまさかと小さく笑う。何のしがらみもなく安心して包まれていられる幸せは何物にも代え難いのだ。
 ふふ、と戯れるように擦り付けると、彰久はぐっと息を詰めた。
 幸菜は一瞬不思議に思ったが、すぐに理由を察して頬を赤らめた。

「あ、の……殿様? なんで………」

 恥ずかしさと躊躇いの入り混じった表情に喉が鳴る。目を逸らした先で己が付けた赤い印を見つけてしまっては、彰久に抗う術はなかった。
 食らいつくように幸菜の唇を彰久が覆う。いきなりの深い口付けに華奢な体が硬直した。
 それを良いことに、彰久は強く舌を吸い、あるいは口内を蹂躙し、幸菜の思考を奪っていく。
 解放される頃には、幸菜の目は熱に浮かされていた。薄っすらと膜の張った目が彰久だけを見つめている。

「無意識なのだろうが……煽った責任は取ってもらうぞ」

 しっかりと着付けられたはずの小袖が、いとも容易く肌蹴ていく。幸菜は身を捩って逃れようとしたが、覆い被さり押さえつけて阻止した。
 白い頸に吸い付けば、ぴくりと跳ねて薄く色付く。ゆっくりと体温が上がっていくのを肌で感じた。
 彰久に余裕はなかった。

「やっ……ま、まだお昼で……っ」
「だからどうした。煽ったのはお前だ」

 情欲でぎらついた眼差しに飲まれるように幸菜の体が震える。忍び込んだ手に弱い所をまさぐられ、逃げるように浮いた腰が彼の下肢にぶつかった。
 ぶつかった感触に恐る恐るとのしかかってくる彼を振り仰ぐ。なんで、と表情が何よりも物語る。
 彰久は獰猛な捕食者の笑みを浮かべていた。
 節の太い指が前触れもなく幸菜の中に突き立てられる。昨晩--数刻前まで彰久を受け入れていたそこは、潤いこそ物足りないが柔らかく吸い付いて離れない。
 肉芽を指の腹で押して擦るとすぐに悦んで露を溢れさせたそこに気を良くして、惜しげもなく指を引き抜く。次にすることなど決まっている。

「待って、無理……せめて、」

 言いかける幸菜の口を自身のそれで塞ぎ、彰久はそそり勃つ欲望を勢いよく埋め込んだ。

「っっーーーーーー!!」

 上がる悲鳴は彰久に飲み込まれた。
 強すぎる快感に涙が溢れて止まらない。一瞬にして絶頂まで押し上げられた幸菜を抱きしめて、彰久は何度となく腰を打ち付けた。
 
「くっ、すまんな……手加減はっできん……!」
「んあっ! ふ、ぅあああ!!」

 背に手を回して必死にしがみつく幸菜に、何度でも煽られ、果ててもまた欲情する。もう無理だと小休止を懇願する涙に濡れた顔にさえ煽られた。

「ああ、そうだ。良いことを思いついた」

 くったりと力を失った体を抱き上げて、向かい合うように腰を跨がせる。自重でより深く突き上げられ、身動ぎする度に違う所を刺激して何をするにも辛くて仕方がない。
 それでも健気に応えようとする仕草が愛しくて、もう止めなければと思うのに止められないのだ。

 自由を望んでおきながら自ら籠に入ることを選んだ、何よりも望んだ唯一。

 もう手放せないと本能で理解した彰久は、自身の上で乱れる幸菜に狂おしい程の愛欲を注いだ。




𓆛𓆜𓆝𓆞𓆟



ここまでお付き合い頂きましてありがとうございます。
これにて「暴君は野良猫を激しく愛す」完結です。
また何かの作品を公開致しましたら、ご縁を結んで頂けますと幸いです。
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