スキル売りのダークホース ~お代は人生の最後に頂くビジネスです。さて、本日のお客様は……?~

スィグトーネ

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1.チート勇者の冒険

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 異世界は、どうやら夜のようだ。
 ウマの背後には月のような大きな星が光りを放ち、周囲は森。

 うん、これこそ……ザ・異世界ファンタジー世界という感じがする。
 このリヒトが求めていたモノだ。
「おおお! 異世界感満載って感じだな!!」
「……一応最後に確認しておくけど、本当にこれでいいんだね?」
「構わねえ構わねえ! まずは村でも見つけてカワイ子ちゃんゲットだ!!」
「あ、ああ……そう……」
 僕はすぐに走り出すと、ウマは小さな声で呟いた。
「まあ、最強無敵となれる固有特殊能力をあげたし……大丈夫かな?」


 そんなこんなで、僕はウマと別れて森の中を走り回ったのだが、僕はいきなりこの肉体の凄さに驚いていた。
 僕ことリヒトはヒキニートだから体力はないはずなのだが、全速力で10分以上走っても汗ばむどころか、息切れひとつしないんだ。
 多分、前のダメダメな僕だったら30秒もしないうちに汗だくになっていただろう。
「……!」
 おや、目の前にはクマが出てきたが僕は最強無敵の存在だ。くらえ!
「おりゃあ!」

 クマの頬にパンチをくらわすと、クマは歯を何本も飛ばしながら頭から木に突っ込み、一撃で昇天したようだ。
「おおおおおお! 僕って本当に強ぇ! マジで世界最強じゃねえか!?」
 ハッキリ言ってこれ、軽く殴りつけたような感覚だったんだ。
 それで、自分の体重の何倍もありそうなクマを殴り飛ばせるなんて、本気でパンチをすればどれくらいの威力が出るのだろう。
「…………」
「…………」
 どこかに腕試しの敵はいないだろうか。
 とはいっても、近くに動物はいないな。ならば……いや、よく考えれば威力を試すだけなら相手は動く必要はないのだから、その辺の木でも充分だろう。
「よし……」
 試しに蹴りを入れてみると、マッチ棒のように簡単に折ることができた。
「何だこれ、発泡スチロールでできてるのか?」

 たまたま蹴った木が脆いのかと思いながら、他の種類の木にも試してみたが、どれもこれも手ごたえがなく折れていく。
 これって、木が脆いのか? それとも僕が強いのか?


 何本か木をへし折ると、違う獲物がないか辺りを見回した。
「……あれは岩か」
 岩に蹴りを入れてみると、これも見事に粉砕。
 やはりこの世界のモノはまるで手ごたえが無い。というか僕が強すぎるんだろう。
「いや~強すぎるというのも考えものだなぁ~」

 そう得意になりながら歩いていると、僕は何かを踏んづけていた。
 ああ、よく考えてみたら僕……室内にいたまま転送されたから、靴下のままだったな。枝とかを踏んでも、枝の方が勝手に折れていくから気付かなかった。
「グルルルルルル……」
「あ……わりぃ!」

 僕はどうやらオオカミの尻尾を踏んでしまったらしい。
 一応は謝っておいたが、相手がオオカミじゃ言葉も通じないから意味ないよな。

 やがてオオカミは襲い掛かってきたが、こいつ……本当に動きが遅いな。つーかコマ送りにしか見えないぞ。
「…………」
 普通に倒すことはできるんだけど、それじゃあ面白くないよな。
 何か面白いことはないかなぁ。
「…………」
 あ、そうだ!

 あまり行儀は良くないが、鼻の穴に指を突っ込んで鼻くそを丸めると、オオカミの眉間に向かって撃ちだした。
「ぎゃぶ!?」
 するとオオカミは眉間に鼻くそが命中した直後に吹っ飛び、背中を木に打ち付けて気絶している。
「ナメプしてもこれかよ……いやいや、お馬さん。これは強すぎでしょう!」

 本当に無敵すぎて笑うしかない。
 果たしてこの世界で、僕を倒せる奴が何人いるのだろう。神と言われている存在でもムリなのではないだろうか。
「ん……待てよ」

 自分の手を眺めながら思った。
 こんなに強烈な攻撃をしているのに、僕の手や足には大したダメージはないんだ。
 これって、ここにいるモンスターどもが噛み付いて来たとしてもノーダメージだろう。ゲームなんかでもあまりにレベル差があると、1ダメージも当たらない事も多いが、まさにそんな感じだ。

「ダリーし、少し仮眠でも取るとすっか……」
 僕はそう言いながら、その辺の草むらに寝転がって、そのまま寝ることにした。
 正直に言って寝心地はあまり良くないが、ニートしてた時も万年布団の上でゴロゴロしていたんだから、あまり変わらないだろう。
 無事に横になると、僕はすぐにスヤスヤと眠りはじめた。

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