スキル売りのダークホース ~お代は人生の最後に頂くビジネスです。さて、本日のお客様は……?~

スィグトーネ

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3.ショーマの迷い

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 それから月日が流れるのは、凄く早かった。
 エルフの少女シャルロットと過ごしていると、毎日がとても充実していた。1か月がまるで1週間くらいの勢いで過ぎていく。
「♪~~~♪~」
 僕は普段は畑仕事をしていたが、たまに危ない動物が襲ってきてはマジックハンドガンで撃退。
 こうして我が家の食卓には、クマとかオオカミの肉とかベーコンが並ぶこともあるワケだ。


 そしてある日も畑を耕していると、ふと気が付いた。
「ああ……そういえば、もう5年も経ったんだな……」
 そんなことを考えていたらドアが開いた。
「おとーさーん!」

 駆け出してきたのは、4歳の娘と3歳の息子だ。
 娘は母親シャルロットに似て、緑髪でヒスイのような瞳をしていて、3歳の息子は僕に似た黒髪のハーフエルフだ。
「ダメよ。お父様の邪魔をしちゃ!」

 そう言いながらシャーロットも出てきた。
 いや、彼女だけではない。2歳になる娘と、今年生まれたばかりの息子もいる。
「…………」
 2歳の娘と0歳の息子の間には、1歳の息子がいたはずなのだが、彼は残念ながら生まれてすぐに死んでしまった。
「お前たちも、畑の水まきを手伝いなさい」

 そう言うと、子供たちは「ええ~~~~!」と言いながら渋い顔をした。
「おとーさん、そんなことよりもあそぼ~よ!」
「そーだよ~」
「ダメダメ。ここで頑張って、ジャガイモとか玉ねぎとか、食べられる葉っぱをたくさん育てないと、冬に飢えて死ぬような思いをするんだよ」
 そう伝えると、子供たちは渋々という様子で協力してくれた。

 このツーノッパという地域は、夏こそ涼しくて快適なのだが、冬になるとその厳しい表情を見せてくる。
 実際に3年前は、天候不順が続いて作物の実りも悪く、運よく秋ごろにクマやシカをハントできなければ、全員が飢えて命を落としていただろう。

 そんなことを考えていると、ドンという地鳴りが聞こえてきた。
 視線を山へと向けると、大分離れているとはいえ火山が噴火しているのがわかる。風向きがこちら向きではないので、灰が来ないことだけが救いか。
「……まずいな。噴煙がこんなに巻き起こってるのなら……今年も不作になるかもしれない」


 僕には何というか……悪い予感ほどよく当たる、変な勘の良さがあるようだ。
 妻のシャルロットは渡り鳥から話を聞いていたが、どうやらツーノッパの広い範囲で、この年は不作が起こり、深刻な食糧難が起こっていたようだ。

 もちろんその影響は僕たちの畑にも起こり、去年の半分程度の作物しか収穫できず、僕はまたアルバイトをすることになった。
「じゃあ、狩猟をしよう!」
「お供します」

 子供たちに弟や妹の世話を任せると、僕たちは森へと入った。
 僕は妻シャルロットの能力を借りながら、森の中を進んでいくと……おお、これは見事なトナカイを見つけた。
「ごめん……君の命をもらうよ」

 そう呟くと、僕は引き金を引いた。
 合わせて3発のマジックショットを見舞い、トナカイは崩れ落ちるように倒れた。
「……これを干し肉にすれば、なんとか家族も食いつなげる」
「ええ、急いで帰りましょう」


 予想通り、僕たちはこのトナカイの肉を食べて、何とか誰も飢えることなく冬を越すことができた。
 だけど本当は、この動物の命を奪うという行動が嫌だった。次の年こそは作物だけで食いつなごうと努力をした。畑も広げたし、子供たちにも野良仕事を手伝ってもらった。
 2年くらいは作物だけで、生活することができたけど……このツーノッパという地域は、土地が瘦せているらしく本当に飢餓とは隣り合わせなんだ。
「……今年は……不作だね」
「ええ、そうですね……お父様」

 次に困ったことになったのは、長女が10歳になった年だった。
 子供の数は7人に増えたことを考えると、オオモノを2頭、イノシシサイズなら3頭は狩らないといけない。
「これは……行かなければならないかな?」
 そう呟くと、妻シャルロットは険しい顔をした。
「そう……ですね」

 僕、シャーロット、長女、更に長男も、深刻な表情をしているなか、場違いな明るい声が聞こえてきた。
「お父さん……かりにいくの!?」

 そうワクワクとした感じの声を上げたのは次男だった。彼はまるで勇者でも見るように僕を眺めてくる。
 長男は怪訝な表情で言った。
「おい、ベン……僕たちはしんこくな話をしているんだぞ!」
「わかってるよ兄さん。だけど、兄さんだって肉……だいすきでしょ!」
「う……ま、まあ……でも、森でハントするって動物が死ぬってことだよ?」
「……いや、まあ……そうなんだけどさ、カッコよくないか父さんがハントするしゅんかんって!」
 
 そう言えば次男は、僕が害獣を駆除する瞬間を喜んで眺めるくせがあった。
 次男自身が小さい頃にオオカミに追い回されていたとき、僕がマジックハンドガンでオオカミを仕留めたことがあったが、あの時の光景が忘れられないのだろう。

 次男は目を爛々と輝かせながら言う。
「ぼくも……大きくなったら、お父さんのようにがいじゅうをバンバン倒したいなぁ!」
「バカ! あの武器は危険なんだって、父さんも母さんも言ってるだろ」
「わ……わかってるよ……」

 僕はこのとき、胸騒ぎを感じた。
 このマジックハンドガンは1丁しかない。子供たちの中で男の子は3人。
「…………」
 弓の腕前なんかを見ていると、この次男のベンジャミンは一番スジがよく狙撃の才能もあるだろう。
 例えば僕が急に死んだとき、このマジックハンドガンを巡って子供たちの間で醜い争いが起こるのではなかろうか?
 
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