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4.ワイバーンさまの状況
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俺様はワイバーン。
見た目はブサイクな中年オヤジに見えるかもしれんが、心のなかには巨大な竜が住んでいる。
ネタで言っている訳じゃない。
実際の見た目とセルフイメージが違うというのはままあることだ。
例えば、この物語の作者のスィグ。
アイツも、見た目は40過ぎの冴えないオッサンだが、心のなかには人間でなくウマが住んでいる。
おおっと、話が逸れてしまったな。
さて、そんなワイバーンの俺様が何をしているのかと言えば、ネカフェでゲームの真っ最中というワケだ。
俺様にとっては、この日本にいる肉体は仮りそめの姿に過ぎない。ネットゲームの中ならホンモノの俺様に戻れる。
さて、ランキング戦もいよいよ大詰め……
「中村さん。そろそろお時間になります」
ちっ、肝心なところで、ネカフェの店員が追加料金の請求に来たか。
金は……ん? んん??
そう言えば、しばらく日雇いの仕事をしていないから、遂に所持金が無くなってしまったのか。
「追加料金の支払いが出来ないのなら、あと1時間以内に……」
「わかってるよ!」
こうして俺は、仮宿にしていたネカフェを追い出されることになった。
「…………」
くそ、どうしてこの世界の俺様は、こんなにちっぽけで弱いんだ。
両親は貧乏で、兄弟は地味だが俺より優秀。
俺は学生時代には先生にすら忘れられたり、初恋の女にも誰だっけみたいな顔をされたこともあった。
「認めねえ……認めねえぞ……俺はチッポケなんかじゃない!」
陸橋の下でそう叫んだが、誰が聴いている訳でもなかった。
仮りそめの身体とはいえ、この歳にもなって結婚はおろか、定職にもついていないなんて格好がつかない。
どうして、この現実の俺は、こんなにもちっぽけで無力なのどろう?
「ちっぽけって……君がかい?」
まさか誰かが話しかけて来るとは思わず、俺は驚いて振り返った。
「………!!」
すると、俺はますます驚いて、まさに度肝を抜かれそうになっている。
なんと俺の後ろに居たのは、真っ黒な毛並みをしたウマだ。それもスラッと脚が長く、サラブレッドのような見た目をしているではないか。
「な、なんだお前は……競馬場から逃げ出しでもしたのか?」
「大きなお世話だよ。そういう君こそ……背の小さい人をディスっているのかい?」
「そういうつもりはない!」
この喋るウマは不思議と話しやすい奴だった。なんだか気が合いそうなので、俺はどうして自分がちっぽけだと思ったのかをウマに説明することにした。
ウマはしばらく俺の話に耳を傾け、やがて発言した。
「セルフイメージの不一致か……それって、肉体は女性なんだけど、心のなかには男性がいるというヤツの究極版……みたいな感じかい?」
「そうだ。俺の心のなかには巨竜が住んでいるのだが、困ったことに肉体はこんなにちっぽけなオッサンだ」
「なるほど……でも今の世の中は、ゲームなんかも発達しているし、どちらも楽しめると思えばお得なんじゃないかな?」
俺は、この小賢しいウマを論破したい気分になった。
「いや、それはお前が、心の中の自分のイメージと、現実の肉体があまりかけ離れていないから言えることだ!」
ウマが困り顔になったので、俺は更に一押した。
「例えば、君はウマだが……地球のように大きくなり過ぎたり、逆にミジンコやミドリムシくらいまで小さくなっても楽しめるのか?」
「それは、ちょっと……ムリだね……」
そう言うと、このウマは諭すように言ってきた。
「だけどね。君はミドリムシでもミジンコでもなく人間なんだ。ドラゴンは立派で強くて凄い存在かもしれないけど、人間の身体の方が都合がいいことだっていっぱいあると思う」
「いや、ないね。だいたい……今の日本というのは、本当に俺たち若者にとって暮らし辛いんだ」
「そうなのかい?」
「ああ、俺みたいな底辺の奴なんざ、散々こき扱われても……恋人はおろか住む場所すらない。こんなひどい目に遭うくらいなら最初から生まれたくはなかったね!」
そこまではっきりと言い切ると、目の前のウマも観念した様子で目を細めた。
「……そこまで言うのなら仕方ないね。じゃあ、小生とビジネスするかい?」
何だか、ウマの奴が意外な言葉を口にしてきたな。
俺としては、コイツは小賢しい感じがしたから論破できれば、それで満足だったんだが……まあ、話くらいなら聞いてやるか。
「ビジネスって……何だ、何か売りつけようとしたところで、俺はカネなんて持ってねーぞ」
「大丈夫だよ。僕のビジネスは基本的に後払いだし、金銭を受け取ったことは一度としてないからね」
そう言うと、コイツは後ろ暗い笑みを浮かべた。
見た目はブサイクな中年オヤジに見えるかもしれんが、心のなかには巨大な竜が住んでいる。
ネタで言っている訳じゃない。
実際の見た目とセルフイメージが違うというのはままあることだ。
例えば、この物語の作者のスィグ。
アイツも、見た目は40過ぎの冴えないオッサンだが、心のなかには人間でなくウマが住んでいる。
おおっと、話が逸れてしまったな。
さて、そんなワイバーンの俺様が何をしているのかと言えば、ネカフェでゲームの真っ最中というワケだ。
俺様にとっては、この日本にいる肉体は仮りそめの姿に過ぎない。ネットゲームの中ならホンモノの俺様に戻れる。
さて、ランキング戦もいよいよ大詰め……
「中村さん。そろそろお時間になります」
ちっ、肝心なところで、ネカフェの店員が追加料金の請求に来たか。
金は……ん? んん??
そう言えば、しばらく日雇いの仕事をしていないから、遂に所持金が無くなってしまったのか。
「追加料金の支払いが出来ないのなら、あと1時間以内に……」
「わかってるよ!」
こうして俺は、仮宿にしていたネカフェを追い出されることになった。
「…………」
くそ、どうしてこの世界の俺様は、こんなにちっぽけで弱いんだ。
両親は貧乏で、兄弟は地味だが俺より優秀。
俺は学生時代には先生にすら忘れられたり、初恋の女にも誰だっけみたいな顔をされたこともあった。
「認めねえ……認めねえぞ……俺はチッポケなんかじゃない!」
陸橋の下でそう叫んだが、誰が聴いている訳でもなかった。
仮りそめの身体とはいえ、この歳にもなって結婚はおろか、定職にもついていないなんて格好がつかない。
どうして、この現実の俺は、こんなにもちっぽけで無力なのどろう?
「ちっぽけって……君がかい?」
まさか誰かが話しかけて来るとは思わず、俺は驚いて振り返った。
「………!!」
すると、俺はますます驚いて、まさに度肝を抜かれそうになっている。
なんと俺の後ろに居たのは、真っ黒な毛並みをしたウマだ。それもスラッと脚が長く、サラブレッドのような見た目をしているではないか。
「な、なんだお前は……競馬場から逃げ出しでもしたのか?」
「大きなお世話だよ。そういう君こそ……背の小さい人をディスっているのかい?」
「そういうつもりはない!」
この喋るウマは不思議と話しやすい奴だった。なんだか気が合いそうなので、俺はどうして自分がちっぽけだと思ったのかをウマに説明することにした。
ウマはしばらく俺の話に耳を傾け、やがて発言した。
「セルフイメージの不一致か……それって、肉体は女性なんだけど、心のなかには男性がいるというヤツの究極版……みたいな感じかい?」
「そうだ。俺の心のなかには巨竜が住んでいるのだが、困ったことに肉体はこんなにちっぽけなオッサンだ」
「なるほど……でも今の世の中は、ゲームなんかも発達しているし、どちらも楽しめると思えばお得なんじゃないかな?」
俺は、この小賢しいウマを論破したい気分になった。
「いや、それはお前が、心の中の自分のイメージと、現実の肉体があまりかけ離れていないから言えることだ!」
ウマが困り顔になったので、俺は更に一押した。
「例えば、君はウマだが……地球のように大きくなり過ぎたり、逆にミジンコやミドリムシくらいまで小さくなっても楽しめるのか?」
「それは、ちょっと……ムリだね……」
そう言うと、このウマは諭すように言ってきた。
「だけどね。君はミドリムシでもミジンコでもなく人間なんだ。ドラゴンは立派で強くて凄い存在かもしれないけど、人間の身体の方が都合がいいことだっていっぱいあると思う」
「いや、ないね。だいたい……今の日本というのは、本当に俺たち若者にとって暮らし辛いんだ」
「そうなのかい?」
「ああ、俺みたいな底辺の奴なんざ、散々こき扱われても……恋人はおろか住む場所すらない。こんなひどい目に遭うくらいなら最初から生まれたくはなかったね!」
そこまではっきりと言い切ると、目の前のウマも観念した様子で目を細めた。
「……そこまで言うのなら仕方ないね。じゃあ、小生とビジネスするかい?」
何だか、ウマの奴が意外な言葉を口にしてきたな。
俺としては、コイツは小賢しい感じがしたから論破できれば、それで満足だったんだが……まあ、話くらいなら聞いてやるか。
「ビジネスって……何だ、何か売りつけようとしたところで、俺はカネなんて持ってねーぞ」
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そう言うと、コイツは後ろ暗い笑みを浮かべた。
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