上 下
21 / 41

18.なぜスピカ号が不毛の土地を貰ったのか?

しおりを挟む
 論功行賞や晩さん会も無事に終わり、私は皇太子と一緒に部屋へと戻りました。
「しかし……解せんな」
「なんでしょう?」
「スピカ号のことだ……どうして大貴族の領地の話を蹴って、わざわざ不毛の土地を選んだのだろう?」
「それは……どうしてでしょうね?」

 スピカ号が何を考えているのかは、私もはっきり言ってよくわかりません。
 でも、価値判断はしっかりとできる一角獣なので、自分の利益を最大限に引き出せる選択をすることに間違いはないでしょう。
 つまり、普通に考えれば……
「アムアス地方に何かある……ということでしょうね」
「まあ、そうなるな……」


 空中庭園を見ると、一角獣スピカオブアムアス号は、横倒しになって寝息を立てていました。
 って、そこはよく見れば私の花壇ではありませんか。まったく、このウマは何を考えているのでしょうか!
「スピカ……スピカ……私の花壇を潰さないでください」
「ん、ああ……その心配はない。花壇の草は残らず食っておいた」
「ちょ……ちょっと!」
「なかなか美味な手料理だったぞ」

 とても不満に思った私は、スピカ号の頬をつねってみました。
「悪いのは、この口でしょうか?」
「今度は顔のマッサージか、もっと心を込めてやらんか」
「…………(怒)」


 皇太子は不思議そうな顔をしたまま、スピカ号を見ました。
「お楽しみのところ悪いが……貴殿が何を考えているのかよくわからん。なぜ、大貴族の土地ではなく、山地をわざわざ選んだ?」
 スピカ号は、その質問を受けると、ゆっくりと首を起こしました。
「私は一角獣だ。人間とは違った価値観を持っていても、何もおかしくはないだろう?」
「いや、吾にはそうは思えん……貴殿はウマであると同時に、人間以上に黄金の価値を理解した者だ」

 その言葉を聞いたスピカ号は、ニッと笑みを浮かべました。
「さすがは未来の賢君……まあ、じきにわかるさ」

 皇太子は腑に落ちないと言わんばかりの表情をしていましたが、スピカ号は私を見ました。
「ああ、あと……私の愚息もレナに興味を持ってな。近々くる可能性があるから……来たらまあ、適当にあしらってやってくれ」
「愚息って……お子さんですか?」
「ああ、自在に身体の色を変えられる……はっきり言って悪ガキだ」


「悪ガキはひどいなぁ……」
 その言葉を聞いて、私たちはもちろん……スピカ号まで驚いて後ろを振り返りました。
「お、お前……いつからそこにいた!?」

 その若馬は、栗色の毛並みをしていました。

【リッカシデン ウインドユニコーン
政治1 武勇1 采配1 智略1 野心1 義理1 好感度1】

 え……? 何ですかこのステータスは?
 ニート娘だった私でも、全部が1なんてことはありませんでした。これは……どう見てもブラインドされているようにしか見えません。

 そのリッカシデンという一角獣は、私を見るとニヤッとしました。
「こらー、小生の能力を見るなー! オール1なんだから恥ずかしーだろー!」
「早速始まったか……イタズラが……」

 これはきっと、凄い能力を持った仔かもしれません。
 私は気を取り直して、リッカシデンという若馬を見ました。
「ようこそいらっしゃいました。私が……」

 その直後に、リッカシデンは私のポケットを口で探りはじめました。どうやら、私の話を真面目に聞く気がないようですね。
「なにか、ないかな~?」
「……いい加減にしないと、鼻の穴にコインを詰めますよ?」
「あ、それ……ハメるときはおもしろいけど、後で抜けなくなるヤツだよね! 小生も何度もやったよ~」
「自慢気に語るな!」

 父馬のスピカ号が言うと、息子のシデン号はニヤニヤと笑ったまま「はーい!」と答えました。
「やっぱりお前……帰れ!」
「え? 帰ってきたよぉ?」
「……(怒)」
 その直後に、スピカ号はシデン号に噛みついていました。

「痛い痛い……児童虐待はんたーい!」
 そのやり取りに、私たちはつい笑いました。
 シデン号がボケ役で、スピカ号はツッコミ役ですね。


 皇太子もニヤニヤと笑いながら言います。
「おもしろい息子さんだな。吾のことはライアンと呼んでくれ」
「なるほど……ナリタ……」
「それ以上先を言うな!」

 スピカ号は冷静な顔をして言います。
「コイツは、母親が東方の島国出身でな……時々、おかしなことを言うが、気にしないでくれ」
「わかった」

 皇太子が頷いた直後に、息子さんことシデン号は言いました。
「ああ、そうそうお父さん」
「なんだ?」
「金山見つけておいたから、例のアムアス山地で」

 ハッとする私と皇太子を尻目に、スピカ号は凄い形相で息子に言いました。
「いきなりネタ晴らしをするヤツがあるか!」
「ごめ~~~~ん、口がつい滑っちゃったよ~」
「わざとやっているだろう、バカ息子が!」

 なるほど。金山ですか……
 それは確かに、大貴族の土地よりも優先して欲しがるわけです。


しおりを挟む

処理中です...