しっかり者のエルフ妻と行く、三十路半オッサン勇者の成り上がり冒険記

スィグトーネ

文字の大きさ
40 / 75

40.意外な手を打ってきた教会関係者たち

しおりを挟む
 突然だが、アイアンメイスというギルドがあることを覚えているだろうか。
 ミリズス教会が後ろ盾になっている冒険者ギルドで、フロンティア冒険者街の中での規模は上から4番目。

 アビリティ【ヒーリング】を持っている冒険者を抱え込み、更に布教活動で多くのお布施を寒村の農民から受け取っているので、彼らを嫌う冒険者も多い。


 さて、そんな彼らがフロンティアトリトンズにやってきたのは、僕らがインディゴメイルズの依頼を引き受けた翌日のことだった。
『はい~ 速歩~』

 その時に僕は、乗馬訓練……いや、はっきりこう言うべきか。

 僕ことカイトは、一角獣スティレットから調教を受けていた。
 そう、普通は人間がウマを調教するものだが、スティレットクラスになると調教されるのは人間の方になるワケなんだ。

 スティレットは僕を見ると言った。
『姿勢がまだまだだね。また常歩からやり直すよ』
「あ、ああ!」

 そうして僕は、常歩、速歩、駆歩の3つをスティレットから仕込まれているワケだが、最後の襲歩はまだ早いと言われてやってはくれなかった。
 まあ、この訓練もまだ3日目だもんな。そう簡単に凄い技を伝授してくれるはずがない。


 オリヴィアは飼い葉の入ったバケツを持ってやってきたが、ギルドの入り口を見ると言った。
「教会の人たちが来ましたね」
 僕とスティレットも入り口の橋に視線を向けると、確かに神父が数人のシスターを伴って歩いてきた。
『また、改宗を迫りに来たのかね?』
「うちにそんなことしても、意味がないってわからないのかな?」

 僕がそう言うと、オリヴィアも苦笑していた。
「もしかしたら、アイアンメイスにノルマのようなモノがあるのかもしれませんね」


 僕たちには関係のない話だと考え、僕はスティレットから降りた。
「スティレット、とりあえず飯にしてくれ」
『うん』
 彼はバケツを見ると『おお……!』と声を上げた。
『食べやすい大きさにカットしてくれたんだね! ありがとうオリヴィア!!』

 お礼を言われるとオリヴィアは嬉しそうに微笑んでいた。
「どういたしまして。あなた……私たちも昼食にしましょう」
「ああ!」

 研修や修練などをするときは、こうして外でサンドイッチなどを食べることも多いが、これがまた美味しかったりする。スティレットにサンドイッチを一口あげてみると、彼は尻尾を振りながら喜んでくれた。
『うん、これなら……午後も張り切っていこう!』

 ちなみに午後は、オリヴィアがスティレットに騎乗する番だ。
 彼女は僕と違って多少の乗馬経験があるから、スティレットも高度なことを要求することが多い。


  食事も終わり、午後の乗馬訓練……というタイミングでギルドのドアが開くと、中から神父やシスターたちが出てきた。
 今日はずいぶんと粘ったなと思っていたら、何とギルド長のフェリシティーまで出てきて、こちらに向かってくる。一体どうしたのだろう?

 フェリシティーは僕たちの前に来ると言った。
「訓練中にごめんなさい。アイアンメイスの神父さんからお話があるそうです」
「なんでしょう?」

 内心で面倒だなと思いながら視線を向けると、神父は僕たちを見ながら言った。
「カイト殿とオリヴィア殿はご夫婦と伺いましたが……式は既に挙げられましたか?」


 その一言を聞いて、そう来たかと思っていた。
 普通なら、オリヴィア辺りに、そんな得体の知れない男と付き合うのはやめておけとか言って、教会の関係者との再婚を促したりしそうだとは考えていたが、さすがに彼らもそんなに反発を買うような話はしないようだ。

 そういえば、オリヴィアはどう思っているのだろう。
 彼らの言った通り、式らしい式は挙げていないが、ここは協力を求めるべきなのだろうか。

 様子を眺めていると、オリヴィアはにっこりと笑って答えた。
「大丈夫です。我々が夫婦になることはツーノッパ地域の山奥にある御神木が認めて下さりました」


 御神木という話を聞いた神父は「おお……!」と声を上げた。
「そうでしたか。御神木は我々も聖遺物をして信仰するもののひとつ。病める時も貧しき時も、きっと神は貴方がたを見捨てたりはしないでしょう」
 そう言いながら彼は十字を切ってくれた。

「あと……実は私の妹が、明後日に結婚式を開きます。よろしければ……ギルド長のフェリシティー殿とご出席して欲しいと言われていまして……」

 オリヴィアは、僕とスティレットに視線を向けた。僕は構わないけどスティレットは……? ああ、コイツも興味ありそうだな。
「そういうことでしたら、是非ご出席させていただきます」


【身振り手振りで説明する神父(フェリシティーの前で)】
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

自由でいたい無気力男のダンジョン生活

無職無能の自由人
ファンタジー
無気力なおっさんが適当に過ごして楽をする話です。 すごく暇な時にどうぞ。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

クラス転移したからクラスの奴に復讐します

wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。 ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。 だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。 クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。 まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。 閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。 追伸、 雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。 気になった方は是非読んでみてください。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

処理中です...