しっかり者のエルフ妻と行く、三十路半オッサン勇者の成り上がり冒険記

スィグトーネ

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47.チーム分断の危機

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 ウエディング姿のオリヴィアは、なぜか一緒に結び付けられていた赤い糸を体に巻き付けていた。
 このままでは、歩きづらいのだろう。

 僕はと言えば、彼女とは対照的にTシャツにジーパンという、如何にもアパートの衣装ケースにあったモノを適当に持ってきましたという感じの服装をしている。
 もちろん、武器も装備品もなくなっているため、本当に僕のアビリティが剣やナイフを出すモノで良かったと思う。

「…………」
 いや、待てよ。
 いま僕は自分で、武器や装備品がなくなったと言っていたよな。つまりそれは、他にテレポートさせた仲間たちも同じように、丸腰になっているということではなかろうか。

 筋骨たくましいスティレットやゴワスは、たとえ丸腰になっても戦闘力はありそうだが、エルフのアリーシャ辺りは……丸腰だと不味いぞ。
 せめて、彼女には堕天使がそれなりの武器を与えてくれたと信じよう。


 僕はオリヴィアの前に立つと言った。
「確かに、幻惑カビが付着した衣服を着て動くわけにはいかないけど……だいぶ僕らが不利になったことには変わりない。用心しよう」
「……はい!」

【カイト……】
 これは、堕天使の声……というかテレパシーだ。
 なんだろう……?


「ど、どうしたんだい?」
【私の口調……覚えているか?】
 その言葉を聞いて、僕はハッとしていた。
 そういえば、さっきの堕天使……口調が何かおかしかった。というか、あんなサキュバスのような話し方を……コイツはしないよな。どうして、何も感じなかったのだろう。

「うん、覚えているし聞こえているよ」
 若干だが、堕天使は安堵した様子で言った。
【覚えているのならいい。あと……】
 声色がいつものきついモノに戻った。
【このダンジョンは、インディゴメイルズのような冒険者がたびたび出入りしているような場所だ】

 僕らにとっては初めてのダンジョンでも、彼らにとっては違う。
 特に案内をしてくれたチームリーダーのリックは、こういうところにもかなり足を運んでいるのではないかと思う。だからこそ、今回も迷わずここを選んだのだろう。

「何か引っかかることがあるんだね?」
【ああ……個人的な勘に過ぎないが……あのカビ、誰かが意図的に撒いて罠を張ったのではないかと思う】

 一理ある意見だと思った。
 リッククラスの能力者になると、逆恨みを買うことも多々あるだろうし、極端な話で言えば、顔や言動が気に入らないという理由で、そういう罠を張られるということもあり得なくはない。

 オリヴィアもつぶやきを漏らした。
「……或いは、我々とインディゴメイルズの仲を引き裂くために……?」

【……あくまで可能性の話だ】
 そこまで言うと、堕天使は声色を戻した。
【とにかく、貴方たちは生き延びることを優先すべきだ。たとえ仲間を犠牲にしてもだ】

 今までは天使のような言葉がけをしてくると、どこか不安だったが……最後のひとことは、さすがは堕天しただけのことはある女だと思う。
 堕天使は、本当に何を考えているのかはわからないが……それもいずれわかる時が来るかもしれない。


 僕は「ありがとう」と小さくつぶやくと、オリヴィアを見た。
 彼女も身支度を整えたうえに、右手に炎の小さな玉を出して魔法が撃てるかどうかをチェックしている。
「心の準備はいいかい……? ここから先は多分、地獄だよ」
「はい」
「もし、僕を殺さなければ自分が死ぬ状況になったら、ためらわずに殺って。2人共倒れということだけは避けたい」

 オリヴィアは喉をゴクリと動かすと、小さな声で「はい……」と返事をした。
 普段の彼女なら、恐らくそんなことはできないと反発していたところだろう。だけど、この洞窟は本当にそんなことを言っていられないほど、濃い濃度の瘴気で覆われているし魔物の気配もある。

 それだけでも十分に危険なのに僕もオリヴィアもほぼ丸腰で、更に仲間も散り散りという状況だ。はっきりいって置かれている状況は、これ以上ないほど悪い。


 僕はオリヴィアを抱きしめると、口づけをした。
 そして、彼女から離れると、僕は光が差し込んでくる場所を睨んだ。

 そこの先は瘴気は少ないが、グリフォンが飛びながらエサを探している。光につられて表に出れば生きては帰れないだろう。

 そう考えると、僕は洞窟の中に広がる闇を睨んだ。
 どんな恐ろしい魔物が潜んでいるのかはわからないが、この瘴気まみれの洞窟を手探りで進む以外に生き残る術はない。
 しっかりと前を睨むと、両手を握りしめた。


 今回のカギを握っているのは右手の【偽物の片手剣】だろう。これを上手に使えなければ、自分自身の命かオリヴィアを失う……そんなことになりそうな予感がする。

【お団子を三つ編みに直したオリヴィア】
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